ブルーの瞳、輝くブロンド、鍛え上げられた肉体に、ちょっと鼻にかかる声。代表作『ワイルド・スピード』をはじめ、数々の作品で映画ファンを魅了した俳優ポール・ウォーカー。逝去から9年経っても色褪せることのない、まばゆい魅力を振り返る。

ポール・ウォーカーはいつも心の中に



ポール・ウォーカーが旅立ってから、9年もの時が流れた。
2013年11月30日。カリフォルニアのサンタクラリタで、ドライバーでカーレーサーの友人が運転する赤いポルシェがコンクリート製の街灯や街路樹に激突して爆発炎上。助手席に乗っていたポールは帰らぬ人となってしまった。

しかし多くの人を魅了したその人柄と美しいルックスは永遠だ。毎年、命日には家族や共演者、そしてファンが「いつも私達の心のなかに……」とポールを偲んでいる。

赤ちゃんモデルをきっかけに子役として活躍したポールが、俳優として注目を集めだしたのは『シーズ・オール・ザット』(1999)あたりから。すでに20代半ばになっていたが、その爽やかさと初々しいルックスからティーン映画での起用が多かった。


『シーズ・オール・ザット』
Mary Evans/amanaimages


続く『ザ・スカルズ/髑髏の誓い』(2000)のロブ・コーエン監督との出会いがキャリアの躍進へとつながった。
というのも、本作では主役の友人役だったが、その若々しい輝きと高度な身体能力に目をつけたコーエン監督が、ポールに「君が思う“夢のアクション映画”を提案してみて」と声をかけたから。
その後、様々なアイディアが検討されて生まれたのが『ワイルド・スピード』(2001)なのだ。

ロサンゼルスの夜を爆走する若者たち。大金をかけたストリート・カー・レースに熱狂する若者たちの頂点に立つドミニク(ヴィン・ディーゼル)の前に、驚異のドライビングテクニックを持つ新顔ブライアン(ポール・ウォーカー)が現れて……という展開は、多くの映画ファンが知っている通り。

車好きな男性たちはバイオレンス・カーアクションに熱狂し、女性たちは潜入捜査官という秘密を抱えた、ちょっと憂い顔のブライアンことポール・のカッコよさに一瞬でメロメロに。
大ヒットシリーズに進化し、ポール自身がハリウッドスターの仲間入りを果たしたのだった。


車とサーフィンと娘を愛するナイスガイ


『ワイルド・スピードX2』
Everett Collection/アフロ


筆者がポール本人に会ったのは、1回だけ。『ワイルド・スピードX2』(2003)のプロモーションで来日した2003年の初夏だ。

じつは、以前にポールにインタビューをしている先輩ジャーナリストから「すごく素敵な人よ。ただシャイで、プライベートはあまり語りたがらないの」という情報を得ていたので、期待もすれば、緊張もしていたのだが……。

お会いしてみると、すごく物静かではあるけれど、まっすぐにこちらの目を見て誠実な語り口。ときおり見せる照れ笑いにキュン。

「ボクはもちろんだけど、この映画に関わる全員が車大好き。だからその“好き”と“情熱”を伝えたくって、あらゆる訓練もした。ボクはカーレースにも通ったし、ドライビングテクニックのトレーニングも欠かさなかったから、以前よりかなり上手くなった。上達ぶりをわかってもらえるかな?」

タブーかもと思いつつも、あえて「プライベートではなにをしている?」とたずねると。

「車いじりとサーフィン。10代の頃に『ビッグ・ウェンズデー』(1978)に憧れて一日中海でサーフィンしていたこともあるからね。だから、ふたつの趣味が両立できるように、家はマリブの海に続く浜辺にあるんだ。そこにはバカでかいガレージと修理工場もあって。いろいろな車を改造したりして、飽きると海に入ってサーフィンをする。それが至福のときだね」

当時、元恋人との間に生まれたひとり娘メドウ・ウォーカーは15歳。

「僕に時間があるときには娘も遊びに来て、一緒に海に入ったりしている。すごく可愛いんだよ」と優しいパパの顔も、ちらりと覗かせていた。


娘のメドウは、現在24歳
REX/アフロ


そのメドウは、現在、モデル兼女優として活躍し、2021年6月に結婚。『ワイルド・スピード』シリーズの共演者で、ポールの親友のヴィン・ディーゼルが父親代わりとなり、花嫁とヴァージンロードを歩く姿にファンは感涙だった。


アクション以外の作品にもチャレンジ


もちろん、ポールはそのほかの作品にもチャレンジしている。

海底に沈んだ金塊の争奪戦を描いた『イントゥ・ザ・ブルー』(2005)では、ダイビングテクニックと締まった肉体美を披露。エメラルドブルーの海にポールの蒼い瞳が生えて、なんとも眼福!


『イン・トゥ・ザ・ブルー』では、財宝を積んだ沈没船を見つけることを夢見る主人公のジャレットを演じた
ZUMA Press/amanaimages


また、翌年には、日本映画をフランク・マーシャル監督が再映画化したアメリカ版『南極物語』(2006)に出演。じつは、ここでもポールのアスリート並みの身体能力が決め手に。
というのも『イントゥ・ザ・ブルー』で犬と戯れるポールを見たマーシャル監督は「彼なら犬と上手くやれるし、あれだけの体なら厳しい撮影に耐えられる」と思ったそうだ。

その予想通り、フィジカルなトレーニングは一切なしで撮影をクリアしている。邦画では高倉健が演じた主人公だが、健さんとは一味違った“誠実で真っ直ぐな男”を体現している。


日本の名作をディズニーがリメイクした『南極物語』。全米科学財団の南極基地で働く主人公のジェリーを演じた
Everett Collection/amanaimages


日本とのご縁は続き、クリント・イーストウッド監督が太平洋戦争を日米双方の視点から描いた『硫黄島2部作』の1作目『父親たちの星条旗』(2006)にも出演。硫黄島の擂鉢山に星条旗を打ち立てながら、手違いで他の兵士が掲げたことにされてしまう悲運の兵士ハンク・ハンセン役を演じた。

登場シーンはあまり多くはないが、死線を越えて任務を完了した若き兵士の清々しい姿は印象的だった。泥にまみれていても、その美貌は隠せなかったけれど。

その後も、出演を重ねた『ワイルド・スピード』シリーズは、いわばポールのライフワークだったのだと思う。しかし出演6作目の『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2013)の撮影中に事故に遭い、亡くなってしまった。

享年40。

さらに成熟した演技もチャーミングな笑顔も見続けたかったけれど、それも叶わぬ願い。多くの作品の中で生きる姿を、味わい続けていこう。

文/金子裕子