森保ジャンパンが12月2日未明に対戦するスペインは、マドリード、バスク、カタルーニャなど17の自治州で構成され、それぞれが多様な文化を持っている。この特異な国の深層を、娯楽度の高いサッカーと魅力的な料理の数々を結び付けて掘り下げる。

「自分たちはスペイン国籍だが、スペイン人ではない」


カタールW杯、かつての世界王者であるスペイン代表はグループリーグ最終戦で日本代表と相まみえる。

スペインという国は、”遺恨で絡み合う複合民族国家”である。様々な王国、民族をひとつにした形だが、例えばバルセロナを県都にしたカタルーニャ州が今なお独立を求めるなど、一筋縄ではいかない。そもそも”分断ありき”で成り立っているのだ。

「自分たちはスペイン国籍だが、スペイン人ではない」

そう言い張る人は、中央以外ではむしろ多数派だ。

表面をなぞるスペイン観光では、フラメンコ、闘牛が「これぞスペイン」に映るだろう。しかし、それは外国人が受け取るステレオタイプな「スペイン」に過ぎず、実態は一部地域の伝統芸能でしかない。

国の中に国が蠢き、混ざり合いそうで混ざり合わず、お互いは反発し合うのだが、その混沌に身を浸すと、本当にここはスペインなのかと、なんとも不思議な心地になるのだ。

各地域の特色は、”国技”であるサッカーと食事の両方に顕著に出る。そこでW杯の対戦を機に、特異な国の深層を掘り下げたい。娯楽度の高いサッカーと魅力的な料理の数々をやや強引に結び付け、スペインを”食らう”――。

スペイン代表選手で、華やかさを際立たせているのはカタルーニャ人と言えるだろう。

セルヒオ・ブスケツ、ジョルディ・アルバ、エリク・ガルシア、ダニ・オルモは超攻撃的サッカーの伝統を持つFCバルセロナで現在もプレー、もしくは下部組織で薫陶を受けて育っている。彼らはテクニカルなサッカーを革新的に高めた。また、民族分布は諸説あるが、バレンシア地方まで含めると、バレンシア州出身のフェラン・トーレス、パウ・トーレスなども含まれるか。

カタルーニャ人は代表の根幹を担うほどで、クリスマスには毎年、FIFA非公式のカタルーニャ代表を組み、各国を招いて試合を行っている。その勝率は高く、W杯ベスト8も狙える陣容である。

もしカタルーニャ人である名将ジョゼップ・グアルディオラが率いたら、W杯優勝も夢物語ではない。技術が高い選手が多く、ひらめきを感じさせ、美しいほどの強さが特徴だ。

そのカタルーニャで一番のおすすめの料理は、フィデウアである。スペインで最もメジャーな料理はバレンシア発祥の米料理パエージャだが、フィデウアは、米の代わりにパスタを使ったパエージャと言える。


パエージャ


カタルーニャで定番のアリオリソース(ニンニク入りマヨネーズ)を適量つけ、鍋をがりがりしながらおこげと一緒に食べると、まさに至福。
工夫を凝らした風味は優雅で、種類も鶏肉、魚介、イカスミと千変万化で楽しめる。


バスク風ステーキ=チュレトン


一方、スペイン代表で異彩を放つのが、スペイン北西でフランス領にもまたがるバスク人だ。

100年のクラブの歴史でバスク人純血主義を続けてきたアスレティック・ビルバオ、久保建英も所属するラ・レアル・ソシエダの選手は代表でも要所を占める。アスレティックには、代表守護神であるGKウナイ・シモンがいる。

また、アスレティックの新鋭FWニコ・ウィリアムス、マンチェスター・シティのDFエメリック・ラポルトはそれぞれルーツは違うが、アスレティックの下部組織で育った。クラブの原則では「下部組織育ちの選手もバスク人」とみなされるだけに、その意味では彼らも“バスク人”と言える。


バスク人選手は真面目で規律を守り、働き者が多い。その性格がディフェンス面に秀でた人材を多く出す。温和な性格だが、ピッチで敵の前に立つと、金剛力士像のごとき猛々しさを見せる。

その料理も骨太で、お勧めはチュレトンだ。これはバスク風ステーキのことで、牛肉の骨付きリブロースの塊を熟成させ、塩を振りかけ、炭火で30分ほど豪快に丁寧に焼く。


チュレトン


炭火自体も地元で作った木材だとさらに相性が良い。外だけはカリっと香ばしく、中はジュワっと肉汁が溢れる。わずかに血が滴るミディアムレアを推奨したい。命をいただく心得を忘れずに。


マドリードの屈強な精神は食文化にも


最後に現在、最も多くのスペイン代表選手を輩出しているのは、首都マドリードのあるマドリード州出身者だろう。もともと、カスティーリャ王国があった地域全体を含め、スペイン中央部のほとんどが入る。いわゆる「スペインの実体」と言ってもいい。

中心であることの自負心か、鼻持ちならないタイプが多いと言われるが、それが自尊心の高さにもつながる。誇り高く戦えるタフな選手が多いのが特徴だ。アルバロ・モラタ、パブロ・サラビア、マルコス・ジョレンテ、ダニエル・カルバハルは、いずれも欧州王者レアル・マドリードの下部組織で「王者の精神」を叩き込まれている。

「一人の男になる」という育成理念は勇敢な戦士を作り上げる。環境を変えても弱音を吐かず、勝利のために集中してプレーできる。

剛直で屈強で、傲慢とも言える勝利の精神は、なんと食文化にも受け継がれる。
その代表はコシードだ。コシードはカスティーリャ地方郷土料理で、各家庭で独自の味がある。みそ汁や肉じゃがの存在に近い「おふくろの味」か。


コシード


腸詰肉、骨付き豚肉、鶏手羽元をじゃがいも、ニンジン、キャベツ、そしてヒヨコ豆と煮込んだ料理。フランスのポトフに近いが、特色は二段階の食べ方にある。まずは前菜としてスープにゆでたショートパスを入れ、舌鼓を打つ。次にメインで肉や野菜を堪能。栄養豊富で、パンチのある料理だ。

スペインでは多国籍料理を味わえる贅沢さがある。

ちなみに筆者のお気に入りは、ポルトガルの北にあるガリシア地方の「ガリシア風タコ」。港町で食するタコ料理は想像を絶する。

タコはもちろんうまいのだが、そのうまみを吸った添え物のジャガイモだけで満足。ガリシアの白ブドウを使ったアルバリーニョを”お供”にできたら、もはや無敵か。

スペインはピッチでも、手ごわい敵になりそうだ。

文/小宮良之