蛍光灯を体に突き刺し、ガラスボードに体を叩きつけられ、時には6mのバルコニーからダイブ――カリスマ的な人気を誇り、今もデスマッチ界の頂点に君臨するプロレスラー・葛西 純(かさい・じゅん)。

その半生を描いたドキュメンタリー映画の公開にあたり、本人が撮影秘話を語った!

* * *

■『痛快!ビッグダディ』はやりたくなかった

――このたびは初主演映画の公開、おめでとうございます。日本初のデスマッチドキュメンタリーとのことですが、まずはこの映画に出演されたいきさつを教えてください。

葛西 おととしの年末にうちの代表の佐々木貴から、「葛西純のドキュメントを撮りたいって話が来ている」と聞いたんです。でもそのときは「そういう『痛快!ビッグダディ』みたいなことはできないから」って断らせてもらって。

ただ、先方が話だけでも聞いてほしいというのでお会いしたら「リング上ですごいことをやってる葛西 純を撮りたいんだ」と熱っぽく話をされたんです。このご時世、コンプライアンスだなんだとうるさいなか、あえてこの"逆コンプラおじさん"を撮りたいって言ってくれてるわけですから「じゃあお願いします」となりました。

度重なる大ケガで2019年の12月から長期欠場に入っていた葛西。映画ではその復帰に向けた戦いを追う一方で、「夫」「父親」としての一面も描かれている
度重なる大ケガで2019年の12月から長期欠場に入っていた葛西。映画ではその復帰に向けた戦いを追う一方で、「夫」「父親」としての一面も描かれている

――蛍光灯で頭をぶん殴られ、画鋲(がびょう)の山に体を叩きつけられるリング上の戦いから、夫婦やお子さんとの日常までをカメラで追われるのはいかがでしたか?

葛西 僕の中で映画監督というとメガホンを持ってガミガミ怒鳴ってるイメージだったので、頑固で怖そうなおじさん監督だったらどうしようと思ったんですけど、川口(潤)監督は物腰の柔らかい方で、この人とならやっていけるなと思いました。

撮影も「今からけんかをしてください」とか「嫁さんを家出させてください」みたいな演出もなかったので、ごく自然にやらせてもらいました。

――試写はもうご覧になりましたか?

葛西 もう6回くらい見ました。

――いかがでしたか。

葛西 試合のシーンも数多く出てくるんですが、特にデスマッチと音楽の融合のさせ方は見事だなと思いました。この映画がヒットした暁にはぜひ第2弾、第3弾も作ってもらって、いつかは濡れ場の撮影もしたいです(笑)。

■こんな時期だからこそ人間くさい試合を

割った蛍光灯で自身の体を切り裂くなど、その過激なパフォーマンスは他の追随を許さず、日本プロレス界きってのハードコアレスラーとしてその名が知られている
割った蛍光灯で自身の体を切り裂くなど、その過激なパフォーマンスは他の追随を許さず、日本プロレス界きってのハードコアレスラーとしてその名が知られている

――密着は2019年末から始まりますが、その直後から葛西さんは長期欠場。さらにコロナ禍でプロレス界も未曽有の事態に突入します。

葛西 コロナ真っただ中の昨年6月に新木場で復帰戦をやったんですが、入場のときから空気の違いを感じました。葛西 純の復帰戦だったら普段なら爆発的なコールがあるはずなのに、それがまったくない。「あ、こういう世界になっちゃったのか」と正直、戸惑いました。

――目の前で壮絶なデスマッチが行なわれているのに観客は声も上げられず、自制をしなければならない。こういう状況は葛西さんの長いプロレス人生の中でも未知のものですよね。

葛西 そうですね。とはいえお客さんは安くないチケットを買って、試合を見ている間だけでも「コロナを忘れたい」「熱狂したい」と来てくれてるわけです。もちろん声は出しちゃいけないルールですけど、それでも思わず声が漏れてしまうような空間をつくり出せていないのはプロとして実力不足だと思いました。自分自身にもすごく腹が立ちましたし。

――その意味でデスマッチレスラーは、リング上でコロナとも戦っていると。

葛西 「エーッ!」でも「ああっ」でもなんでもいいんです。われわれは声を出しちゃいけないと思っているお客さんに声を出させてナンボですから。夜にマンションの非常階段で女性とセックスしているとき、声を出しちゃいけない状況だけどヒーヒー言わせたい、みたいな願望って男ならあるじゃないですか。それと一緒ですよ。

――非常にわかりやすいたとえです。

葛西 ここ、嫁さんには見られたくないんで太字にはしないでください(笑)。

――コロナ禍における試合は今後も続いていくわけですが、この時期、特に葛西さんが大事にされているものってなんですか。

葛西 ただ単に過激なことや残虐ショーをやるだけではお客さんはついてこないと普段から思ってますけど、こういう状況下ならなおさらです。気がめいるような毎日だけど、「葛西がこれだけ血を流して頑張ってるんだから、俺も頑張ろう」と思ってもらえるような、そういう人間くさい試合、ファンの心に訴えかける試合をいつも心がけています。

――実際にコロナ禍で戦い方が変わったとか、そういうことはあるのでしょうか。

葛西 例えばお客さんを巻き込んでの場外乱闘はできなくなりましたけど、かえって試合自体のクオリティは上がってると思うんです。蛍光灯にガラス、カミソリボードとアイテムの過激さがもう限界点までいってるなか、いかに頭を使って試合の質を高めていくかが問われているんじゃないかと。

あとはとにかく誰もやっていないことをやることですね。誰かのまねをしていたら上へ行けないですから。

――葛西さんの戦いを見ていると、厳しくなる一方の世のコンプライアンスに対するアンチテーゼみたいなものを感じずにはいられないのですが、「ちょっと最近、試合が激しすぎるのでおとなしめにお願いします」みたいなことはあるんですか。

葛西 それはないです。コンプラだろうがなんだろうが、自分のやりたいことをデスマッチで表現するだけです。会場によっては流血禁止とかガラスや蛍光灯などの飛び散る系の凶器が禁止という場所もあったりはしますけど。

――流血禁止の会場なんてあるんですか!

葛西 はい。でもまぁ、長くデスマッチをやってると、凶器を使わなくても頭突きすれば簡単に流血しちゃうんです。それはアクシデントなので仕方がないと思っていただきたい(笑)。俺っちの場合、流血するのは便所に行ってウンコが出る、小便が出るのと一緒ですから。

■46歳じゃなくてレベル46です

「一番テンションが上がる凶器は蛍光灯ですね。視覚的に派手だし、音も血も出ますから」と語る葛西
「一番テンションが上がる凶器は蛍光灯ですね。視覚的に派手だし、音も血も出ますから」と語る葛西

――人気、知名度、カリスマ性のすべてにおいてデスマッチ界のトップに君臨し続ける葛西さんですが今後、どんな展望をお持ちですか。

葛西 よく「いつ引退するんですか?」と聞かれるんですけど、デスマッチ以外やることがないんですよ。仕事であり趣味であり、葛西 純=デスマッチなんです。だから死ぬまでデスマッチやって、自分が死んだらジャンルごと滅びることが理想です。

――葛西 純を超える存在がなかなか現れないことに物足りなさを感じることは。

葛西 ないですね。自分が辞めてから業界が盛り上がって、デスマッチ女子とかが世間にあふれたら悔しいじゃないですか。ただ、葛西 純を脅かすやつには出てきてほしい。じゃないと自分も燃えないんで。

――なるほど。今年で47歳になられますが、年齢を重ねることで、できなくなってきていることはありますか。

葛西 そりゃありますけど、それを減退とは考えないです。46歳になったら、『ドラクエ』でいうレベル46に上がったんだと自分を鼓舞してます。毎年レベルが上がっていくので何歳で死んだって死ぬ直前が最盛期。実際に傷の治りも全然早いですし、デスマッチでボロボロになった翌日も平気でジムに行ってトレーニングしてますから。

あ、でもチンチンの勃(た)ちは悪くなりました。もはやオシッコを出すためだけのものになってます。

――えっ! 厳しいトレーニングもされているし、葛西さんは男性ホルモンの塊のようなイメージがあるのですが。

葛西 ホルモンがなくなってきてるのか、筋トレをしてもその分の成長がみられなくなってきているのでそこは困ってます。チンチンのほうはもうどうでもいいんです。性欲もほとんどなくなりましたし。

――さっき「濡れ場の撮影もしたい」って言ってたじゃないですか!

葛西 今は夏に海に行っても水着のネエちゃんよりもガタイのいいニイちゃんを目で追っちゃうんですよ。「チクショー、いいカラダしてんな。どこのジムでどんなトレーニングしてんだ?」って。

もちろんいやらしい目で見ているわけではないですよ(笑)。でも性欲がなくなったことで家庭円満になってるんで、それはそれでいいのかなと。今はそんなレベル46です(笑)。

●『狂猿』 
5月28日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにてロードショー! 以降順次公開。
出演:葛西 純ほか 監督:川口 潤 製作:葛西 純映画製作プロジェクト(スペースシャワーネットワーク+ポニーキャニオン+プロレスリング FREEDOMS) 配給:SPACE SHOWER FILMS Ⓒ2021 Jun Kasai Movie Project.

●葛西 純(かさい・じゅん) 
1974年生まれ、北海道帯広市(自称アメリカ・ヒラデルヒア)出身。98年、大日本プロレスに入団しデビュー。2009年に佐々木貴と「FREEDOMS」を設立し、同年の伊東竜二戦がプロレス大賞年間最高試合賞を受賞。身長173.5cm、体重91.5kg。得意技はパールハーバースプラッシュ

取材・文/村瀬秀信 撮影/村上庄吾