ブンデスリーガ第28節(4月8日)ヴォルフスブルク戦、板倉が得点を記録

板倉選手の定位置といえばセンターバック(CB)である。だが、チーム事情によってはいきなり守備的MFとして出場することも。そんな場合の柔軟性あふれる対応とは。

■ボランチ起用を告げられ、戸惑いが

ここのところ、所属するボルシアMGでは守備的MF(ボランチ)として起用されることが増えた。第26節のハイデンハイム戦(3月17日。日本時間、以下同)の71分、4-2-3-1の布陣で2ボランチの一角として途中出場してからだ。

ウニオン・ベルリン戦(第31節・4月28日)では終盤79分から、続くブレーメン戦(5月4日)は先発からセンターバック(CB)を任されたが、長いことボランチ起用が続いた印象がある。

僕はCBが本職だという自負がある。ただ、ボランチとしての経験も積んできているため、チームからすればオプションのひとつとしてとらえるのは当然のことだろう。

とはいえ、実際にプレーする身としてはポジションが急に変わった場合、即座に切り替えることは難しい。CBとボランチとのはざまで葛藤がないといえばウソになる。今回は、そういったケースにどう対応していくのか、心身の柔軟性について語ってみたい。

今シーズンの開幕前から、ボランチ起用の雰囲気は感じていた。昨年7月のプレシーズンマッチ2試合で、すでにボランチでの先発出場をしていたからだ。セオアネ監督からは「コウがボランチに入ることで守備が安定する」と一定の評価を受けた。

ただ、その時点で僕は一度、監督のもとへ直談判しに行った。今までどおりCBをやらせてもらえないか、と。

ボランチ起用に対して異議を唱え、拒否するというわけではなかった。ただ、自分が長期間にわたってCBをやってきた中で、いきなりボランチへシフトするとなれば、感覚を取り戻すまでに多少なりとも時間がかかる。それを危惧したからだ。

実際、ハイデンハイム戦は探り探りでのプレーだった。CBのときのように、思いどおりにプレーできないもどかしさもあった。何しろ、視野の部分や感覚において、CBとボランチではかなりの違いがある。

いきなり中盤に立たされて、思うように周りが見えないのもキツい。となれば、「俺はCBなんだから、そこで引き続き使ってほしい」という気持ちがより強くなった。

だが、チームにはチームの事情というものがある。ボルシアMGはCBの人材が多いこと、また、中盤での守備の安定性を強化させたいという狙いも痛いほどわかる。ましてや、ここ最近のチームの成績も決して良いとは言えないのが実情だ。結論、チームの勝利に貢献することが第一。自分にそう言い聞かせた。

■自分の中に宿るゴールへの嗅覚

もともと、CBあるいはボランチの原点は、川崎フロンターレ・ジュニアユース時代の恩師、髙﨑(康嗣)さんとの出会いにさかのぼる。1期生のセレクションの時点では、FWとして参加、そして〝得点王〟になった。

当然、前線の選手として活躍するイメージを思い描いていたが、髙﨑さんは僕の背丈に着目、守備的ポジションへの変更を指示してきた。当時の僕は大号泣だった。後ろなんてつまらない、絶対に嫌だと。

でも、最終的には髙﨑さんに説得されて、渋々守備を担うことになった。今となれば、髙﨑さんには感謝しかない。

フロンターレ、オランダのフローニンゲン、ドイツのシャルケでは要所要所でボランチを任されてきた。だが、割合でいえばやはりCBが多い。日本代表でもW杯を含めてCBが僕にとっての定位置となった。

だが、最近になって再びボランチへ。守備的MFとして先発起用されたヴォルフスブルク戦(第28節・4月8日)では試合前に一抹の不安もあった。何せ、26節のハイデンハイム戦では20分足らずしかプレーしていなかったからだ。

それでも起用されたからには応えなくてはならない。それがプロだ。結果的に後半立ち上がりで反撃へののろしとなる同点弾を決めることができた。

ボランチを3週間も続けていると、さすがになじんでくるもので、勘も戻ってくる。並行して、「この局面はもっとこう改善できる」といった意欲的な考えも浮かんでくる。それと、心のどこかにゴールへの意識があるせいか、CBではほとんどないシュートチャンスに巡り合えるのは魅力だ。

理想は昔ならばバルセロナで活躍したヤヤ・トゥーレ。今ならばマンチェスター・シティのロドリ。しっかり守備もできて、なおかつ得点感覚に優れている。素晴らしいお手本だ。とにかく、与えられた持ち場でしっかりと結果を出したい。この先、もしかすると、MF起用を前提とするクラブからの移籍オファーがあるかもしれない。

日本代表もしかり、例外ではない。過密日程の中でボランチ起用といったケースも出てくるだろう。東京五輪の準々決勝、ニュージーランドとの延長戦はまさにそうだった。

けれど、複数のポジションをこなせるユーティリティ性を売りにしたいかと問われれば、答えはNOだ。もちろん、選択肢の幅がある選手としてチームから重宝されるのはありがたいけど、自分から進んでアピールしたいとは思わない。

僕はあくまでもCBの選手という自覚がある。ただし、プロとしてはチームのニーズには対応するのは当然。自分の芯はブレさせることなく、時々フレキシブルに。それが可能性を広げ、良い結果を招くと思う。


板倉滉

構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸 写真/AFLO