「僕がほかの料理研究家と違うのはコピーライターとしての能力かもしれません」と語るリュウジ
「僕がほかの料理研究家と違うのはコピーライターとしての能力かもしれません」と語るリュウジ

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回は、料理研究家のリュウジさんを迎えての最終回です。リュウジさんが実は「2ちゃんねる」で料理を勉強していたことや、レシピをバズらせるコツなど、これまであまり話していない秘密を教えてくれました!

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リュウジ(以下、リュウ) この対談の最終回に言おうと思っていたんですけど、僕って昔「2ちゃんねらー」だったんですよ。料理板に常駐していました(笑)。

ひろゆき(以下、ひろ) マジすか(笑)。でも2ちゃんねる(現5ちゃんねる)以外にも料理のサイトはあるじゃないですか。

リュウ 2ちゃんの料理板はほかのサイトと比べて情報の質がいいんですよ。今のレシピ作りに転用している情報も多くて、例えば、ナポリタンの作り方は2ちゃんで勉強しました。

ひろ 素人からすると「ナポリタンの作り方って、ケチャップとこしょうを入れるくらいじゃね?」みたいな感じですけど、けっこう違うんですか?

リュウ 当時の2ちゃんには変態的に料理にこだわる人がいて、その人はナポリタンの材料を分解して役割を考えていたんです。

ひろ じゃあ、ナポリタンによく入っているピーマンはどんな役割になるんですか?

リュウ 香りです。ピーマンは炒めすぎるとダメで、ミディアムレアくらいに仕上げるんです。すると、噛んだときにシャキッとしてピーマンの香りが感じられる。で、「ああ、ナポリタンを食っている」みたいな気持ちになる。

ひろ なるほど、そうやって材料ごとに何が目的かを考えることで、適切な調理法もわかるんだ。

リュウ 人気マンガの『鋼の錬金術師』では、錬金術の基本は「理解・分解・再構築」と言っているんですよ。

ひろ はいはい、ありましたね。

リュウ それは料理も同じで、まず食べて味や構造を理解する。で、次に「この材料や工程はなんで必要なのか?」と分解していく。そして「自分的には香ばしさはいらないから、これは焼かないでゆでよう」と再構築する。するとオリジナルレシピができるんです。2ちゃんでその考え方を知って、それが今の僕のレシピ作りに大いに役立っているんですよ。

ひろ じゃあ、ナポリタンのピーマンも場合によっては入れないんですか?

リュウ はい。昔ながらの喫茶店風のナポリタンにしたいならピーマンは欠かせませんが、例えば「シェフが本気で考えたナポリタン」なら、むしろピーマンはいらないですよね。

ひろ この「理解・分解・再構築」はリュウジさん以外の料理研究家の人もやっているんですか?

リュウ やっている人がほとんどだと思います。むしろ、それをやらないと新しいオリジナルレシピは作れませんから。

ひろ 一方で、料理研究家は多くの人がまねできるように簡単なレシピにする必要もあるじゃないですか。すると、材料や工程は少なくしたほうがいいという思考になって、似たようなレシピだらけになりません?

リュウ そうですね。そこで僕がいつもやっているのは「物語」を加えることなんです。例えば、「前にふらっと入った喫茶店のナポリタンにめっちゃ感動して、そのお店と同じ味にしてみました!」みたいな打ち出し方をする。ほかには「本場のフランスではこれが当たり前です!」みたいな感じで言うと、途端に説得力が生まれますよね。で、多くの人に「だったらやってみるか!」と思ってもらえるようにする。

ひろ いわゆる「情報を食う」というやつですね。単純に素材の味や料理の味つけではなく、産地やこだわり、評判や人気店かどうかみたいな〝情報〟を食べさせるということですね。

リュウ そうですね。

ひろ リュウジさんって雑談が好きじゃないですか。それもストーリー作りに影響してますか。

リュウ はい。僕はいつもストーリーを探しているんです。例えば、友達が「この前食べたオムライスがおいしかった」「珍しいソースがかかっていた」みたいな話を聞くと再現することもあります。

ひろ 意地悪な質問ですけど、「友達がおいしいと言ったから再現した」というのは、ほかの人にはどうでもいい情報じゃないですか?

リュウ それを第三者の人が「食べてみたい」と思うように仕上げるんです。例えば、僕のレシピに「至高のカレー」というのがあるんですけど、そのレシピのコピーは「我が家のカレーがこれになってしまいました」です。これって実はカメラマンさんが言ったフレーズなんですよ。カメラマンさんの家ではおなじみのカレーの作り方があったにもかかわらず、僕のレシピになっちゃった。そのフレーズがいいなと思ったので、許可をもらって使わせてもらいました。

ひろ そういう何げない言葉をちゃんと拾っているんですね。

リュウ 料理は食べてみないと味がわからない。だから、動画を見てもらうには、コピーライティング力が重要だと思うんです。

ひろ ユーチューブは、サムネイルとタイトルでクリックする気にならなかったら、そもそも見てもらえないですもんね。

リュウ だから、僕がほかの料理研究家と違うのはコピーライターとしての能力かもしれません。

ひろ 確かに料理の分解や構築に関してはほかの料理研究家でもできる。でも、それだけだとどんぐりの背比べになってしまう。でもリュウジさんはコピーライティングというスキルがあったから人気料理研究家になれたんですね。

リュウ ぶっちゃけ、料理研究家はみんなおいしいものを作れるんですよ。じゃあ、何で差がつくかというとプロデュース力とかコピーライティングの力だと思います。

ひろ なるほど。最後の最後で、リュウジさんがバズっている本当の理由がわかりました。んで、今回がラストということで、この対談を通して感じたお互いの印象を話してほしいみたいです。

リュウ ひろゆきさんは、考え方のベクトルが僕とけっこう似ている気がするんですよ(笑)。

ひろ 同感ですね。面倒くさいことから逃げて、合理性を追求しつつも、自分の好きなことだけやろうとする。そのへんは同じニオイがします(笑)。だって、冷静に考えたら酒を飲んでSNSをやらないほうがいいし、味の素を強調しなければアンチに絡まれない。でもリュウジさんは「そんなこと知らねーよ、自分はやりたいことやるんだ」とファイティングポーズを取る。

リュウ スゴい人になりたくないんですよ。料理研究家とは名乗っていますけど、本当は「料理のお兄さん」でいたいんです。ひろゆきさんも、たぶんカリスマになろうとはしていないですよね。

ひろ ですね。むしろそういう世界から離れようとしています。

リュウ そこらへんも共通点ですよね。なんやかんや似た者同士ということで、次は動画でコラボしません?

ひろ あ、ごちになります(笑)。

リュウ ひろゆきさんのリクエストを作る企画がいいかもしれませんね。ただ、よけいなことを言うふたりなので、切り抜き動画がポンポン出そうですけど(笑)。

ひろ で、ふたりして炎上すると(笑)。ということで、長い間、ありがとうございました!

リュウ こちらこそありがとうございました!

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■リュウジ(RYUJI) 
1986年生まれ、千葉県出身。料理研究家。近著に『虚無レシピ』(サンクチュアリ出版)など。公式X【@ore825】、公式Instagram【@ryuji_foodlabo】、公式YouTubeチャンネル『料理研究家リュウジのバズレシピ』

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾