動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったNPO法人どうぶつ弁護団(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。第2回は、岸本悟弁護士です。

情報提供は突然に

 どうぶつ弁護団で理事をつとめている、岸本悟です。

 

理事長の細川敦史弁護士
と同じく、兵庫県内で弁護士をしていますが、子供の情操教育のために保護犬を飼い始めたことをきっかけに動物をめぐる法律問題に関心を抱き、どうぶつ弁護団の設立から関与することになりました。

 今回は、私が担当した奈良県内での猫の虐待事件に対する刑事告発を題材に、私たちの活動についてお話しします。

 令和5年12月20日、猫の保護活動を支援する団体から、どうぶつ弁護団の情報提供フォームに「奈良県の王寺町の河川敷で、猫が吹き矢で刺された」「被害に遭った猫は保護しており、矢の現物も確保している」「警察にも通報した」との投稿がありました。

 凶器を使った犯行であり、次の犯行があるかもしれませんので、すぐに情報提供をいただいた方と連絡をとることにしました。

被害に遭った猫(ねこから目線。提供)

 詳しく事情をおうかがいすると、「餌やりのボランティアさんがお世話をしていた外猫の左前脚に吹き矢のようなものが刺さっており、ボランティアからの依頼で、被害に遭った猫を保護した」「被害猫は動物病院を受診して、金属製の矢のようなものを抜いてもらった」「獣医師によると、約2㎝も刺さっていて、重症になるかもしれないということだった」「抜いた矢の現物は手元にあり、診断書も発行してもらっている」とのことでした。

 撮影された動画や写真を見せていただくと、被害に遭った猫の左前脚には、鏃(やじり)型に尖らせた金属が深く刺さっており、また、吹き矢の羽根のような部品もありました。

被害猫に刺さっていた金属製の矢(ねこから目線。提供)

 明らかな動物虐待事件(動物愛護管理法44条1項:愛護動物傷害罪)ですので、12月28日、どうぶつ弁護団が告発人となって、所轄の西和警察署に告発状を提出しました。

刑事告発の判断

 ところで、本件については、すでに警察が捜査を進めており、近々被疑者(犯罪の嫌疑を受けて捜査されている人物のこと)が逮捕されそうだという情報もありました。

 しかし、動物虐待の事件については、不起訴処分とされたり、軽い刑事処分で済まされてしまったりする例があり、本件でもそのようにならないか懸念しました。

 また、動物虐待をする者は犯行を繰り返し、エスカレートする傾向があります。本件では凶器を用いており、人間を襲ってくる可能性も懸念しました。

 そのため、どうぶつ弁護団で刑事告発をする必要があると判断し、大急ぎで告発状を提出しました。

 結局、被疑者は逮捕された後、動物愛護管理法違反、銃刀法違反等の罪で起訴されることとなりました。もし、不起訴処分となっていた場合には検察審査会に申立てをする予定でした。

刑事裁判が終わって

 刑事裁判を傍聴しましたが、被告人(罪を犯したとして起訴された者)は、自ら銃と弾丸を製造して、その手製銃で猫を撃ったとのことでした。また、猫を撃った理由について、自分なりの考えを説明しておりましたが、理解困難な弁解でした。

 令和6年4月11日、裁判所は、被告人に対して「身勝手な理由で犯行に及んだ」と断じて、懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を下しました。

 この事件は、複数の放送局で報道されることとなりました。

裁判所の前でメディアの人に告発の経緯を説明

 今回の事件を起こした人物は、実刑にはなりませんでしたが、社会からの厳しい監視の目を受けることになったものと思います。

 また、どうぶつ弁護団は、動物虐待をした者に対して厳罰を科すこと自体が目的ではなく、動物虐待を防止し、人と動物が共生する優しい社会を実現するために活動しています。今回の事件を刑事告発したことによって、「動物虐待は決して許さない!」というメッセージを全国へ伝えられたことに、一定の成果があったと思います。

もし動物虐待現場に遭遇したら

 どうぶつ弁護団は、警察ではありませんので、私たちメンバーが現場に行って捜査をするわけではありません。

 それでも私たちが活動できているのは、動物を愛する皆さまからの情報提供を受けて、弁護士と獣医師がそれぞれの専門的立場から議論して、適切な対応を検討しているからです。

 毎日、様々な動物虐待についての情報提供をいただくのですが、皆さまにお願いしたいことがございます。

 まずは、「証拠の確保」です。

 警察が、動物虐待事件について捜査を進めるためには、被害に遭った動物と、凶器といった証拠を、そのままの状態で確保することが重要になります。せっかくどうぶつ弁護団に情報提供いただいても、お手元に証拠が全くないという場合には、残念ながら対応が難しいです。

 例えば、動物が罠にかけられたという事案では、発見した方が動物を可哀想に思って、罠を外して捨ててしまうことがあるのですが、その場合には証拠が無くなってしまい、どうしようもなくなります。

 証拠を確保するために何をすれば良いかというと、被害に遭った動物、凶器や罠、そして現場周辺の状況を、スマホで撮影していただければOKです。

 また、現場付近に怪しい物があれば、拾っておいてください。それが凶器であったり、犯人を見つける手掛かりになるかもしれません。

 次は、直ちに「警察へ通報」してください。

 警察しか捜査の権限はありません。警察であれば、防犯カメラの映像を確認できますし、任意に部屋を開けてもらって室内を確認することもできます。

 しかし、時間が経ってしまうと、防犯カメラのデータが残っていないことがあります。また、目撃者探しも難航して、犯人が見つからなくなってしまいます。

 警察は、捜査の状況を話してくれませんが、通報を受けた事件を放置することはなく、周辺に聞き込みをするなど、秘かに捜査を進めています。

 ここまでやったうえで、どうぶつ弁護団のホームページの情報提供フォームに投稿をお願いします。

 情報提供者の方は、犯人と関係があったり、現場近くに住まれていたりしますので、犯人から仕返しされないかご不安と思いますが、私たちは守秘義務を徹底しています。

 刑事告発をすると決定した場合であっても、ご本人の承諾を得ない限り、警察にも情報提供者が誰かを話すことはありませんので、ご安心ください。

ご支援のお願い

 どうぶつ弁護団の活動は、賛助会員の皆さまからの善意によって支えられています。

 賛助会員の方に限定したセミナー(Web形式)では、一般には公開していない活動内容を含めて、私たちの活動の裏側をお話しいたします。

 1回目のセミナーは、5月24日(金)に予定しています。今回の事件について、情報提供から刑事告発までの経過をより掘り下げてお話ししたうえで、どのような情報提供があれば刑事告発ができるのか、非公開の資料も交えてご説明させていただきます。

 私たちの活動に関心を持たれた方は、

ホームページ
をご覧いただき、ぜひ賛助会員になってご支援をいただければと思います。

(次回は6月19日公開予定です)

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もの言えぬ動物の代弁者として 適切な情報発信で動物虐待の抑止につなげていく