昨年末のカタール・ワールドカップ(W杯)では、負傷明けにもかかわらず、最終ラインの大黒柱の1人として、ドイツ・スペイン撃破の原動力となった板倉滉(ボルシアMG)。その反面、重要なラウンド16・クロアチア戦を出場停止で欠場。悔しさを味わう形にもなった。

 あれから2か月。板倉は1月22日のレバークーゼン戦から再開したドイツ・ブンデスリーガ後半戦でフル稼働している。2月4日には古巣シャルケとの今季2度目の対決に参戦。ボルシア・パークが5万4000人超の大観衆ですさまじい熱気に包まれるなか、スタメンの約半数が冬の移籍加入組と激変した相手に対し、集中した守備で存在感を発揮。0−0と勝ち切れなかったものの、無失点という確固たる結果に貢献してみせた。

 この日の板倉はこれまで通り、ニコ・エルベディとのセンターバックコンビで先発。右ウイングの上月壮一郎の推進力を活かした速い攻めを仕掛けてくるシャルケにやや序盤から押し込まれる格好になったが、最終ラインで余裕のある対応を見せた。

 さらに、彼は持ち前のビルドアップ能力やパス供給力の高さを活かして、攻めの起点にもなっていた。27分には自らドリブルで60メートル以上、持ち上がってシュートまで持ち込む決定機を演出。セットプレー時もヨナス・ホフマンの左CKにファーサイドで合わせた31分のビッグチャンスなど効果的なシーンを作り、攻守両面で不可欠な選手という印象を残した。
 
 今回の古巣対決前には、シャルケが昨季1部復帰に貢献した板倉を買い取らなかったことに関する様々な現地報道が流れ、ひと際、注目されることになった。この日の一挙手一投足を見たシャルケ幹部は「やはり残しておきたかった」と心底、感じたことだろう。

「前半とか全然悪くなかったですけどね。相手がマンツーマンで来るなかでも、動きを増やして外せてたし、ボール保持しながら1点を取りに行く形はずっと作れた。守備をしていても、そんな怖いシーンもなかったし。ただ、こういう展開で1点取れないと、自分たちで試合を難しくしちゃう。スタジアムの雰囲気もすごく良いなか、勝ちたかったのはありましたね」と、板倉は外部の雑音に関係なく、勝ち切れなかったことを純粋に悔しがっていた。
 
 実際、後半戦スタート後のボルシアMGは1勝1分2敗と黒星が先行。順位も暫定8位と欧州リーグ参戦圏の6位からもやや離されてしまい、この流れに歯止めをかけなければならないのも確かだ。フランス代表のマルクス・テュラムやドイツ代表のホフマンなど世界的タレントを揃える名門だけに、板倉も何らかのアクションを起こしていくことが肝要だ。

「後半戦の4試合で悪い試合というのはないし、今日も間違いなく個で上回っていて、個人個人で負けないんだけど、最後どうやって点を取るのっていうところが課題。それを決め切れたのが(1月28日の)ホッフェンハイム戦だと思います。良い時はメチャメチャ良くて、悪い時はすごく悪いといった波を少なくしていくことが、ポイントを上げることにつながる。そういう実力はあるので、自分も守備面で良いコミュニケーションを取りながらやっていきたいですね」と、彼は毅然と前を向いている。

 ポジティブなマインドになれているのも、この後半戦が2026年の北中米W杯に向けての新たなスタートになるとよく分かっているからだろう。目下、日本代表の森保一監督が欧州視察中で、この試合にも訪れたようだが、この先、リーダー格の1人になるべき板倉にはさらなる飛躍が求められている。
 
「ワールドカップを終えて、1試合1試合、大事に戦わないといけないというのはすごい感じてるし、いろんなFWがいて、いろんな選手がいるなかで、DFとしてはどういう相手が来ても負けちゃいけない。このチームで結果を出すことによって、もっと上のレベルに行けると思ってますし、チームが勝つことで自分の価値も上がってくる。そこは意識しています」

 メディアにこう話していた板倉のところに、代表の先輩・吉田麻也がやってきて「もう少し競り合いに勝たないとね。空中戦のね」と注文をつけていたが、そういった自身の課題にも板倉はしっかりと向き合っている。

「競り合いの部分は、このチームにいたら確実に求められるし、もっともっとチャレンジしていけるところはある。引き続き1試合1試合、戦っていくことが大事だと思います」と今一度、気を引き締めていた。
 
 この調子で安定感と、周りへの発信力を高めていけば、板倉は冨安健洋(アーセナル)同様、世界トップレベルの領域にステップアップできる可能性も少なくない。そういう高みを目ざすためにも、もっともっと強烈なリーダーシップを示してもいいはず。

 代表OBのなかには「東京世代では板倉がキャプテン候補」と見る人もいる。ボルシアMGでもそういった器がある選手と見られているというから、ますます期待がかかるところだ。

「やっぱり強く思ったのは、この前のワールドカップを経験できたのが、自分にとってすごく大きかったということ。初めての経験で、言葉に表わすのが難しいくらい、僕にとってはものすごく大きな大会だったなと今、感じています。
 
 何回か言ってますけど、あれを経験したメンバーが中心となってリーダーシップを取ってやっていかないといけないなとすごく感じてるし、また次のワールドカップまで、まずは個人個人がステップアップすることが大事。(キャプテンを)やれと言われたら? もちろんそれはやりますけど」

 不敵な笑みを浮かべた板倉。ただ、今の彼はボルシアMGでチームを勝利へ導ける存在になることが最優先。後半戦序盤の停滞を打破し、欧州圏内に飛躍できる足がかりを築くこと。それが最終ラインの統率役に託されたタスクだろう。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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