「全体的にマーケットが重い」と言われた今冬の移籍市場で、数少ない日本人選手のトランスファーの1人となったのが、ウニオン・ベルリンからシュツットガルトへ赴いた原口元気だ。

 ご存じの通り、すでに1月31日のパーダーボルン戦(DFBポカール)の後半頭から出場し、新天地デビューを飾っているが、ブンデスリーガでは2月5日のブレーメン戦で初登場した原口。スタメンで右インサイドハーフに抜擢された。

 左インサイドハーフには遠藤航、4バックの左CBに伊藤洋輝が陣取る形で、原口にとってはやりやすい環境。中断明けのブンデスリーガで2分1敗と未勝利のチームに何とか勝点3をもたらしたかった。

 その気迫は前面に出ていた。背番号17をつける原口は序盤から前への推進力を披露。遠藤や右ワイドのフアン・ホセ・ペレア・メンドーサらと流動的に動いて攻撃チャンスを作ろうとアクションを起こす。
 
 ボールを奪ったらシンプルに前線へ供給するという約束事のなかでやっていたウニオンでは、ボールを持って仕掛けたり、チャンスメイクする機会は限られていたが、シュツットガルトでは全く違う。それを求めて彼は残留危機に瀕するこのチームにわざわざやってきたのだ。

 とはいえ、20分過ぎにエースFWセール・ギラシが負傷交代。これでシュツットガルトの攻撃の迫力が削がれてしまう。逆にブレーメンはドイツ代表FWニクラス・フュルクルクをターゲットにしつつチャンスをうかがってくる。彼と対峙した伊藤は必死に食らいつき、何とかビッグチャンスを阻止。36分にゴールを割られたと思われたシーンも相手のファウルで取り消され、前半はスコアレスで折り返した。

 シュツットガルトとしては耐えながらワンチャンスをモノにする展開に持ち込みたかったが、逆にそれをされてしまう。ブレーメンの2得点はどちらもGKからのロングボールを競って落とし、フュルクルクからのラストパスをイェンス・ステーイとマービン・ドゥクシュが決め切った。結局、シュツットガルトは0−2で敗戦。原口がいきなり救世主になることはできなかった。
 
「たぶん、この出来でウニオンでやってたら、勝手に勝ってた。今日のシュツットガルトは球際でも勝っていたし、ミスも少なかったし、シュート数も倍近く打っているから。それでも勝ててない。結局、ウニオンが何で勝つかって言ったら、決め手のある選手がいるから。ブレーメンもそうでしたよね。自分もハードワークしたけど、チームの勝利につなげられないのは悔しいですね」と、原口は新天地最初のリーグ戦で厳しい現実に直面した様子だ。

 それでも、彼は「でも楽しい」と何度も繰り返した。それは一体、なぜなのか。31歳は電撃移籍に至った本音を打ち明けた。

「ここでは、たくさんボールに触れますし。ウニオンでは高い位置を取りつつ、セカンドボールを拾ってっていうのが主な仕事だったんで、いわゆる『自分の仕事量』が少なかった。そこは個人的にすごく危惧していたところでした。
 
 だから、僕はやりがいを求めて、ここに来た。正直言って、キャリア的には来る必要はなかったと思います。ウニオンもビックリしていたし、何度も止められました。でも自分が監督とGMに話して説明して、理解してもらって移籍してきた。ウニオンにも感謝だし、チャンスをくれたシュツットガルトにも感謝なので。今、苦しいですけど、楽しみながらレベルアップして、チームをよくしていきたいな」

 彼の言うように、目下、リーグで2位につけるウニオンに残っていたほうが、より高いキャリアを描ける可能性があったのは確かだろう。ウニオンはここからELの決勝トーナメントに参戦するし、来季のCL出場権獲得も濃厚だ。熾烈なポジション争いにさらされ、コンスタントに出場できないことも多かったが、誰かが怪我をすれば恒常的にレギュラーという状況も考えられた。

 その恵まれた状況を棒に振ってまで、2部降格危機のシュツットガルトでやりたかったのは、ズバリ、個の能力を引き上げること。特に遠藤の爆発的な成長曲線を目の当たりにしたことで、「自分は環境を変えたほうがいい」と確信したというのだ。
 
「たぶんウニオンの試合を見てる人は少ないんで、あんまり説明しても分かりにくい部分だと思うんですけど、プレー機会っていうのがこっちに来たほうが多くなる。今日のブレーメン戦でも、たくさんボールタッチしましたし、やっぱりそこをやりたい。航を見たら分かるように、シュツットガルトに来てここ3〜4年でMFとしてすごく大きく成長したなと感じるんですよね。その航の近くでプレーしたいっていうのがあった。僕にとってはすごく良い環境かなと思いますね」

 原口がしみじみ語るように、少し前まで「デュエル王」の印象が強かった遠藤は現在、インサイドハーフとして攻撃のダイナミズムをもたらす存在になっている。ボールを奪って一気に攻め上がってゴールを狙う形も少なくない。ブレーメン戦ではそういうシーンが思うように作れなかったものの、1月24日のホッフェンハイム戦では弾丸ミドルをゴールに叩き込んでいる。

「攻守両面で違いを出せなければ世界トップにたどり着けない」と原口は再認識させられた様子。カタール・ワールドカップで躍動した遠藤からも大いに刺激を受けたことで、自分もオン・ザ・ボールのところで勝負できるMFになるんだと決意。新たなチームでトライしていく覚悟を固めたのである。
 
 総得点がリーグで下から3番目のシュツットガルトを残留に導くのは容易ではないが、原口にはハリルジャパン時代のような得点力も求められるのは間違いない。そういう選手へと今一度、変貌できれば、彼の30代は実りの多いものになる。

 さしあたってブレーメン戦では苦い思いを味わったが、ここからが本当の勝負。チームの流れをガラリと変え、残留圏浮上へと導くべく、原口元気は貪欲に、泥臭く前進を続けていくつもりだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

【動画】身体を張ってピンチを阻止! リーグ戦で新天地デビューを飾った原口元気。シュツットガルト対ブレーメンのハイライト動画