[J1第11節]湘南1−2柏/5月3日/レモンガススタジアム

 成長の跡を示すには、十分すぎる一撃だった。

 5月3日、レモンガススタジアムで行なわれた湘南と柏の一戦。GW中とあってチケットは完売しており、スタジアムには1万2342人の観衆が詰め掛けた。

 浮上のきっかけを掴みたい柏は、前半に先制後、同点に追いつかれながらも、後半に勝ち越し。4試合ぶりの勝利を掴み、今季2勝目を挙げた。

 調子が上がらないチームにおいて、この湘南戦で一際目を引くパフォーマンスを見せた選手がいた。U-22日本代表のFW細谷真大だ。今季プロ4年目を迎えた点取り屋は、4−2−3−1の最前線に入り、攻守でアグレッシブなプレーを見せる。

 高い位置から猛然とプレスをかけ、ファーストディフェンダーとしての役割を全う。背中でパスコースを消しながら、相手に圧を掛け続けた。攻撃では狡猾な動きで背後に抜け出してチャンスに絡む。

 相手に寄せられても動じず、体幹の強さを活かしたボールキープで攻撃の起点となった。こうしたプレーは昨シーズンも見せていたが、今季はより迫力が増した印象が強い。成長の跡を示すうえで最も分かりやすかったのが、勝ち越し点のシーンだ。
【動画】レイソル細谷、1本のロングパスから決勝弾!
 1−1で迎えた55分。湘南に決定機を作られ、MF奥野耕平にシュートを打ち込まれた。しかし、このピンチを右SB片山瑛一がスライディングで阻止。セカンドボールを回収した三丸拡が前方に大きく蹴り出す。

 失点を回避すると、このロングフィードをきっかけに攻守が入れ替わった。三丸のキックに細谷が反応する。後方から走ってきた細谷がぐんぐん加速してボールに追いつく。上手く身体をぶつけて相手を吹き飛ばすと、GKとの1対1に持ち込む。最後はGKソン・ボムグンの股下を冷静に抜いて、ネットを揺らした。

 チームを勝利に導く鮮やかなゴール――。ストライカーとしての仕事を遂行した細谷にとって、この勝ち越し点は進化を証明する要素が詰まっている。

 元々、背後からの抜け出しは得意にしていた。相手と駆け引きしながら、出し手と呼吸を合わせてボールを呼び込む。この動きは去年と大きく変わっていない。だが、湘南戦のゴールはスピード感がまるで違ったのだ。

 ボールが出た時点で優勢だったのは、湘南のCB大岩一貴。先に動いており、細谷よりも二歩以上先を走っている。しかし、細谷は背後から加速して追い抜き、ボールに触った時点では五分の状況まで持ち込んだ。

【PHOTO】まるでホームのよう!迫力応援でチームを後押しした柏レイソルサポーター
 驚くべき加速力を見せたのだが、さらに凄かったのがフィジカルの強さだ。腕の力を上手く使い、相手を吹き飛ばす。U-22代表のチームメイトで柏戦に先発していた湘南のDF畑大雅も目を丸くする。

「あれはやばいっす。一貴さんも速いんですけど……。真大は本当に馬力がある」

 圧倒的な初速とフィジカルの強さ――。衝撃のゴールについて、細谷はこう振り返った。

「ボールを奪った瞬間に相手のサイドバックが上がっている状態だったので、上手くその裏を取るのはチームとしての狙い。あとは自分の形だと思ったので、シュートは流し込むだけだった」

 冷静に振り返ったが、インパクトは凄まじい。さらなる成長のために何か新しいチャレンジはしたわけではなく、今まで取り組んできたことを地道にやり続けてきた。そうした積み重ねが今に繋がっている。

 そして、U-22代表の一員として海外勢とプレーした経験も成長スピードを加速させた大きな要因だ。

「身体の強さはまた別だけど、3月の遠征で吸収したものをクラブで発揮できている。身体を捩じ込むプレーや瞬間的な速さは今年もっと高めていきたいと思っていたので、そこは上手く海外で吸収できたと思う」
 
 積み上げてきたものをドイツやベルギーに対して試し、自信を深められた。そうした経験値は何事にも変えられない。

 今季はここまで11試合で4得点。チームトップのゴール数をマークしており、勝負を決める得点も増えてきた。ネルシーニョ監督もパリ五輪世代のエースに大きな期待を寄せている。

「真大はまだ若い。でも、前線からの推進力、スピードという武器を兼ね備えており、昨年と比べて見てもすごく成長している選手のひとり。もっと良くなれる」

 掴んだ手応えと自信は本物だ。寡黙で口数は少ないが、充実した表情を見せる成長株のプレーから目が離せない。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

【厳選ショット】アウェーで4試合ぶりの勝ち点3。細谷真大が豪快カウンターで決勝ゴール!|J1第11節 湘南 1−2 柏