前橋育英でキャプテンを務めてインターハイ優勝に導き、日本高校選抜でも主将としてデュッセルドルフ国際ユース大会優勝に導いた徳永涼が、筑波大で新たなスタートを切っている。

 大学リーグデビュー戦は、第4節の明治大戦だった。1−0の状況で迎えた後半アディショナルタイム1分にクローザー的な役割で投入されたが、その6分後に相手に劇的な同点弾を浴びてドローに終わった。

「僕が入った意味を示すことができなかった」と唇を噛んだように、守備をやり切ることがタスクで送り込まれたにもかかわらず、試合を締めきれなかったことを悔やんだ。

 そして2度目の出番がやってきたのが、第5節の法政大戦だった。3−0のリードで迎えた73分、ヴィッセル神戸内定のボランチ山内翔に代わって投入されると、ファーストプレーでは、右CKのこぼれに素早く反応して決定的なシュートを放った。

 GKを破ったボールはゴールライン上で同じ前橋育英の先輩でもあるMF渡邉綾平の伸ばした足に当たると、頭上のゴールバーを叩いてピッチに戻っていった。
 
 大学初ゴールは叶わなかったが、その後は持ち前の球際の激しい守備やボールの落ち着きどころとして安定したプレーを見せる。79分には中盤でボールを奪い取ってドリブルで運ぶと、正確なスルーパスを通して決定機を演出。約20分間のプレーだったが、攻守に関わり続けて、かつ攻撃の起点となるパスも出せる彼の持ち味を見せた内容だった。

「合流が遅くなるなか、同期が大活躍を見せていたので、正直、焦りはありました」

 試合後、徳永がこう語ったように、同期のFW内野航太郎、小林俊瑛、MF篠田翼、DF池谷銀姿郎がデビューを飾るなか、徳永は日本高校選抜の活動が4月中旬まで及んだため、デビューは彼らから少しだけ遅れを取った。

 その間、内野はゴールを重ね、法政大戦でも2点目のゴールをマーク。ルーキーながら5ゴールで得点ランキングトップを走っている。

「内野がめちゃくちゃ活躍していることはニュースなどで見ていたので、『自分も早くデビューしてスタメンを掴みたい』という焦りというか、『何とかしないと』という思いは正直ありました。でも、明治大戦で『自分は自分で役割をしっかりと全うして、そのうえで自分らしさを発揮しないといけない』と冷静に自分にベクトルを向けて考え直そうと思いました」

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 焦って先を急いでも結果が伴うわけではない。今やれることを精一杯やらないと意味がない。そのことに気づいた徳永は、もう一度、なぜ自分が大学サッカーに来たのかを考え直した。

「いきなりプロに行くよりも、大学生活の中で自分がどこまで無理がきくのか、どこまで知見を広げられるのか、自分のコントロール面を含めて、自分自身を知る時間だと思ってここに来たことを改めて理解して、もう一度自分がやるべきことをノートに書いて整理することができました」

 高卒Jリーガーになれる状況だったが、彼は自分に足りないフィジカル面の向上、サッカーをより勉強し、かつ栄養や生態力学、社会面での勉強などを通して、自分と向き合ってトライ&エラーを繰り返しながら一歩ずつ進んでいく。
 
「大学サッカーがいよいよ始まったなという気持ちでいっぱいです。先のことを見過ぎないようにしていますが、野心を持つことは重要だと思っているので、1年生でレギュラーを掴むという気持ちは強いです。

 ボランチはJリーグに内定している山内選手、実績を着実に積んでいる加藤(玄)選手がいるので、レギュラーを掴む壁は高いと思いますが、そこで遠慮したり、言い訳にしたりしては意味がない。普段の練習から1つでも彼らを上回って、スタメンを奪うつもりでやります」

 1つずつ積み上げていく地道な作業をやり続ける。筑波大にやって来た意味と心構えを再確認した徳永は、燃え上がる野心と冷静な客観視で生み出した覚悟を胸に、新たな一歩を力強く踏み出した。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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