[U-20W杯]日本 1−0 セネガル/5月21日/ラ・プラタ・スタジアム

 アルゼンチンで行われているU-20ワールドカップ。日本は初戦のセネガル戦に1−0で勝利した。セネガルは今年の1月から2月にかけて行われたU-20アフリカネーショズンカップで圧倒的な強さを見せており(全勝、無失点、最多ゴール)、優勝候補とも言われていただけに、ここまで「最もサプライズの試合だった」とも言われている。

 この日、日本が勝ち取ったのは試合だけではなかった。アルゼンチンの観客の心も掴むことに成功した。

 日本対セネガル戦が行われたラ・プラタのスタジアムには1万2000人近くの観客が入っていた。観客の多くは若者だった。スタジアムに空席が目立つことを嫌った大会組織委員会は、ユースの大会ということもあり、近隣の学校の生徒たちを試合に招いていたのだ。

 キックオフの次点で彼らの立ち位置はニュートラルだったが、試合が進むにつれ次第に日本寄りになっていく。彼らのサッカーを見る目は純粋だ。良いサッカーを見たかった。良いゴールが見たかった。そして日本のプレーを見て、応援することに決めたのだ。

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 日本がゴールに近づいた時には「おー!」と叫び、失敗した時には頭を抱える。日本人選手がボールを触る度に「オレ!」と叫び、選手交代には拍手を送る。まるで自国を応援するような熱心さだ。試合終了近くには「ハポン、ハポン、ダレ!ハポン (いけいけニッポン!)」とチャントまで歌っていて、100人ぐらいのセネガルのサポーターが当惑していたほどだ。

 試合後、私はハポンコールをしていた数人に、なぜ日本を応援したのかを聞いてみた。するとそれにはこんな答が返ってきた。

「カタール・ワールドカップでの日本の活躍は知っていたけど、実際こんないいサッカーをするとは思っていなかった。あのプレーを見たら思わず応援したくなるよ」
「日本は世界で一番フェアなサッカーをするからだ」
「日本のアニメや漫画が大好きだけど、日本チームの一生懸命さを見てると思わずあの主人公たちの姿と重ねてしまう。応援しないではいられないよ」
 驚いたことに試合終了後には、3人のサポーターがピッチに入り込んだ。彼らはすぐに警備員に止められたが、いったいアルゼンチン人がなんのために日本対セネガルのピッチに侵入したのだろうか。現地の新聞記者が直接彼らにインタビューしたところ、彼らはこう答えたようだ。

「日本は一番いい試合をしたから、どうしても日本のユニホームが欲しかった。もしゲット出来たらものすごく貴重だよ」
 
 余談だが、試合後日本人サポーターがスタンドを清掃していたのも好評だった。カタールW杯でも話題となった日本の「ソウジ」を、間近で見られたことにアルゼンチン人は喜んでいる。

「日本は一躍優勝候補に躍り出た」とアルゼンチンメディアは報じている。現地のTVでもかなり時間を割いて、日本のプレーを紹介していた。いい意味でのサプライズだ。

 アルゼンチンの観客はきっと次のコロンビア戦も日本を応援するだろう。なぜならアルゼンチンはU−20W杯の予選を兼ねる1月の南米ユース選手権で、最終戦でコロンビアに負け敗退している(今回出場しているのは開催国枠)。コロンビアには因縁があるのだ。

 アルゼンチンの応援は熱い。アルゼンチンか、もしくはイタリアと当たらない限りは(アルゼンチン人の40%はイタリアにルーツを持つ。いわば第二の祖国だ)、きっとホームのような雰囲気を作ってくれるだろう。これは頂点に向かう日本にとっては、大きなアドバンテージとなるはずだ。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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