U-20ワールドカップは今も続いているが、そこに日本の姿はすでにない。

 率直に言う。U-20日本代表にはがっかりさせられた。それは何も私だけではない。日本が負けた翌日のアルゼンチンの新聞は、同じ日のブラジルがナイジェリアに勝った試合よりも、日本がイスラエルに負けたことの方を大きく取り上げていた。ESPNもCNNもBBCもブラジルのGloboもみな一様に「予想外」と報じ、FIFAの公式でさえ、「驚きの結果」と伝えている。それほど日本の敗退は意外だったのだ。

 イスラエルはコロンビアに負け、セネガルとはドローで、ほぼ決勝トーナメント行は絶望的だった。それを日本が再生させてしまった。

 60分間、日本は本当にいいチームだった。ボールを支配し、スピードがあり、常にゲームをリードしていた。全てにおいてイスラエルより上だった。しかし最後の30分は、なぜこれほど変われるのか不思議になるほど、ひどかった。
 
 イスラエルは後半に、入ったばかりのMFビニャミンが立て続けにイエローカードを食らって退場。日本は30分近く数的にも優位だった。5分ではない、30分だ。しかし数的優位を一度も利用しなかったばかりか、ゴールまで入れられてしまった。それも一度ならず二度も。サッカーでは「ボールは丸いから何でも起こる」とよく言うが、これはさすがに起こりすぎだ。

 イスラエルはU-19のヨーロッパ選手権で2位になったが、その時と同じチームではない。オスカル・グロウフをはじめとした主力3選手は、所属クラブが参加を望まなかったため欠場となった。つまり確実に日本よりも格下だったのだ。

 それにしても、なぜ日本はタイムアップの笛が鳴るまで集中できなかったのか。最後の数分、日本はイスラエルがゴールするのを指をくわえて眺めていた。比喩ではなく、文字通り日本はほとんど動かなかった。

 これはW杯だ。日本は引き分けなら決勝Tに進めた。1−0でリードしていて、70分を迎えたら無理に2−0は狙わない。基本中の基本だ。1失点はあり得ても、2点目は絶対に許してはならない。とにかく、固く守るべきだった。一人に一人が張り付いても、日本が一人多いのだから簡単だったはずだ。それが76分に同点され、91分に逆転された。なぜありえない初歩的なミスを犯してしまったのか。

【動画】数的優位の日本が痛恨の逆転負け。イスラエル戦のハイライト
 イスラエルの1点目を決めたロイ・ナビは完全にフリーだった。この時の日本選手の配置を見てみると、イスラエルのFKに9人で壁を作っている。そのため多くのイスラエルの選手はフリーになってしまっていた。

 ボールがリバウンドした後も、壁の選手はボールの行き先を見守るだけで動かない。唯一ゴール前にいた日本の選手は、一人ではどうすることもできずただ膝をつくしかなかった。ヘッドでゴールを決めたロイ・ナビは、ジャンプする必要もなくただボールを目の前のゴールに押し込めばそれでよかった。

 この敗戦を経験不足のせいにしてはいけない。U-17ならそういうこともあるかもしれないが、U-20ともなれば、彼らのほとんどはもうプロだ。もしメンタル的に問題があったのなら監督がどうにかすべきだった。だが冨樫(剛一)監督は何の手も打たなかった。

【動画】数的優位の日本が痛恨の逆転負け。イスラエル戦のハイライト
 
 若いチームの監督は、大人のチームの監督とは異なる資質が求められる。監督であるだけではなくリーダーであり、父であり、心理学者でなくてはならない。冨樫監督は長くユースチームを率いている。なぜ1−1にされた時、どんなメンタリティを持てばいいのか、どう動けばいいのかを積極的に選手たちに伝えなかったのだろうか? 

 数的優位な日本はただゴールに鍵をかければそれでよかった。W杯の大舞台に臆したと言うのも言い訳にはならない。これは初戦ではない。もう3試合目だ。

 繰り返し言う。日本はいいチームだった。3試合、ほとんどの時間は良いプレーをしていたし、ゴールも素晴らしかった。すぐにでも世界で通用するような選手も少なくとも3人(松木玖生、山根陸、坂本一彩)はいた。しかし、それでも負けてしまうようなら、決勝トーナメントで戦うには値しない。

 サッカーの神は日本が勝てるだけの材料を用意してくれた。コロンビア戦ではPKを与え、イスラエル戦では数的に優位にさせてくれた。神は神のやるべきことをした。しかし日本は日本がやるべきことをしなかった。この試合はイスラエルが勝ったのではない。日本が勝手に負けたのだ。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。


【PHOTO】松木玖生やチェイス・アンリらが絶妙ポージング! U-20日本代表 公式ポートレートギャラリー