2018-19シーズンのSTVVは20国籍もの選手が集まった多国籍軍団だった。当時、遠藤航は各国の挨拶を覚えてチームメートとのコミュケーションを図ったという。

 今季の選手国籍は11とそれなりの数に及ぶが、日本人選手とFW カーヴェ・ザヒロレサラーム(アメリカとイランの二重国籍)を除くとEU国籍保有者(アフリカ系の二重国籍者を含む)ばかり。ピッチの上にはベルギー人選手がずらりと並ぶ。

 なかでもSTVVアカデミーから昇格した若手4人衆はチームに新鮮な風を吹き込んでいる。DMM.comプロジェクトの立ち上げ時より立石敬之CEOが掲げていた育成強化が花開こうとしている瞬間を迎えているのかもしれない。

 STVVアカデミーには逆風も吹いている。昨季よりSTVVの各年代チームは“エリート2(2部リーグ)”でプレーせざるを得ない状況に陥っている。“エリート1”への昇格は、リーグ戦の結果ではなく、施設や指導者などに付けられるポイントが大きな比重を占めるため、予算規模の大きなクラブにとって優位なシステムになっている。それでも立石CEOは逆境を逆手に取って、未来のベルギー代表選手を作るという。

 2024年2月23日に100周年を迎えるSTVVに対するファンの期待は膨らんでいる。インタビュー後編となる今回は、主に育成について立石CEOに話を伺った。

――大王わさびスタイエン・スタディオンの2戦は7026人(対スタンダール)、8365人(対アンデルレヒト)の観客を集めました。昨季の5500人(対ユニオン)、5753人(対アンデルレヒト)と比べると36%増です。

「ひとつは100周年への期待があります。正直、開幕戦は動員をかけたところもある。その開幕戦で思ったより良いサッカーができた。

 うちの広報は地元の人間なのでファンへのアプローチの仕方を知っている。ファンにもよりますが、昨季までのSTVVには『日本人ばっかり出して』『地元出身の選手がいない』『面白くない』『弱いじゃないか』と不満があったりしたんです。でも今季はスタンダール、コルトレイクに勝って2連勝。しかも良いサッカーをしているし、アカデミー出身の選手が4人レギュラーで出ている。それで広報がSNSで『これだけユース出身の選手が出ていて2連勝中。なぜアンデルレヒト戦に来ない? 来ない理由を述べよ』って宣伝したらファンが試合に集まった。

 でも、やはりアカデミー出身の4人がレギュラーなのが大きい。プレシーズンからアカデミーの選手がたくさん試合に出ていたのが、開幕に向けてかなりの呼び水になりました」
 
――シーズンチケットの売れ行きも好調と伺っています。

「これまで私はゴール裏のファンと意見交換会をしていたんですが、今季からシーズンチケットホルダーとのミーティングも始めたんです。1回目が20人以下、7月の2回目が50人集まりました。3回目は100人になると言われています」

――ファンは立石CEOと直接話したがっているんですね。

「はい、話したがっています。けっこう凝った話をしてあげていると思います。ゴール裏のファンは『俺らが(サポーターの)代表だ』みたいに感情的になったりする。シーズンチケットホルダーは単純に『CFを獲らないのか』とかユースのことなど、一般的なサッカーの話ができる」

――前回の話し合いの内容は?

「最初は財務内容など、情報をいろいろ公開してプレゼンする。そこから質問を受け付けます。“エリート2”のことに関しては、レギュレーションが変わって、お金がないと(施設などがアップグレードできず)“エリート1”のメンバーになれない。STVVは財政的に勝負する気はない、もっと本質的なところで勝負する――と伝えました。

 質の良い指導者がいれば、良い選手が出てくるわけですね。お金をたくさん使っているアントワープ、ヘント、ヘンクは何人ユースから上がってきた選手がピッチに立っているのか? いま、STVVは“エリート2”かもしれないけれど、何人ユース上がりの選手がトップチームの試合に出ているのか? そこが大事じゃないか――というのが私の答えでした」
――STVVは“エリート1”に入るための投資を積極的にはしないんですか?

「現実的でないと思います。昨季の“エリート1”は12クラブ。今季は10クラブ。それから8クラブにするんですよ」

――なんでそこまで上位クラブを絞り込みたいのでしょうか?

「オランダのアヤックス、PSV、フェイエノールト、ポルトガルのベンフィカ、スポルティング、ポルトみたいになりたいんですよ。ベルギーリーグは外資が入ってきて、どこが優勝するか分からない。ビッグクラブのヒエラルキーも崩れつつある。そうなると若いタレントが各クラブにバラついてしまう。国内リーグとしてのレベルは上がっているけれど、欧州カップ戦(CL、EL、UECL)で戦う時に戦力が分散されてしまう。だから、ベルギー国内のトップを3〜4チームにまとめたいんです」

――競争力のあるチームを欧州カップ戦に送り出して、リーグ係数を稼ぎたいという思惑もあるんでしょうね。

「そうです。ベルギーリーグの放映権が上がることにもつながるとか、いろいろなことを考えているようです。

 ただ、議論がないままビッグクラブの政治力の強さによって進んでいる。“エリート1”を8クラブに絞り込んで、彼らのセカンドチーム(※)をベルギー2部リーグや3部リーグに入れてしまえば、若い選手たちはみんなそこに行くだろうと。実際、すでにそういう流れが生まれているんですが、選手を囲い込みすぎてしまって、いまは経営が難しくなっているんです。2チーム分の選手とプロ契約を結ぶわけですから。そして何十人と若い選手を抱え込んでもトップチームに上がれるのは、ひとりかふたり。結局、『その他大勢』がいっぱい出てきてしまう」

(※今季のベルギー2部リーグにはアンデルレヒト、クラブ・ブルージュ、スタンダール、ヘンクのセカンドチームが参戦している)
 
「実はSTVVはこの夏、U-7から全部含めて40人引き抜かれたんです。だけどそこで上がれなかった子が、またうちに戻ってくるんですよ。(近隣の強豪クラブである)ヘンクの育成もたくさんタレントを抱えていて、17歳くらいのときに上がれそうもないからSTVVに来たがる選手もいる。『クラブは育成のこととか良いことを言うけれど、結局昇格するのは難しい。だけどSTVVなら試合に出してくれる』という流れを作ろうと思っています。
 
 アカデミーのためのバスを買おうと思っているんです。STVVは“エリート1”じゃないから国内リーグでは強いチームとの試合がなくなってしまった。それなら国外のシャルケ(ドイツ)やPSVに行って練習試合を組んだり、国際サッカーフェスティバルに参加する。そういう機会を増やせば、別に“エリート1”にいる必要もない――。そんな話をクラブ内でしています」

――逆境を逆手に取るわけですね。

「私たちが政治力のないなか、ルールは変わっていく。そこで早く対応した強化担当・GMは強いと思う。アヤックスのような王道は歩めないけれど、彼らの隙を突くことはできる。STVVが彼らと同じブランディングをする必要はないんです。

『STVVは地元出身のアカデミー育ち、他のクラブで出場機会をなくしたベルギー人選手、他のアカデミーで昇格できなかったベルギー人の若手を獲ってきて、日本人と良いチームを作っている』というブランディングでも面白いと思います。基本的には(かつてのような)多国籍軍団にしないでね。そうなると地元のファンも喜ぶし、チームワークとアイデンティティが作りやすくなる。ただ、それだけでは勝てないから、要所にパワーのあるアフリカ系とか補強する」
――スタンダールのアカデミーからSTVVに来たアミーン・アル=ダヒル選手はバーンリー(イングランド)にステップアップして活躍し、6月にはベルギー代表デビューを果たしました。

「この5年間で一番嬉しいのは、ベルギー代表の選手がSTVVから出たということ。そういうことをファンに言うと、ちょっと嬉しそうな顔をするんだけれど、半分のファンは『何言ってんだ』と斜めに見ている人たちもいる。アル=ダヒルはリエージュから来て巣立っていった選手なんでね。

 この地域のことを地元の人はハスペンゴウ(Haspengouw)と言います。江戸、浪速、豊後みたいな昔の地域性を大事にしているんですね。いま、トップチームでプレーしているDFスメッツ、ファン・ヘルデン、MFデロージュ、ステウカースはそこから出てきている4人だから大人気です」
 
――育成の秘訣はズバリ?

「育成はフィーリングですよね」

――そのフィーリングとは?

「トップチームとのギャップをどうやって我慢する時期を作るか。サッカークラブの運営は“勝たないといけない年”と“勝たなくて良い年”――とまでは言わないけれど、そういう組み合わせじゃないですか。

 昨季は手堅いサッカーをして4節残したところで残留が決まった。担当記者たちと食事会をして話をすると『ホラーバッハ監督は良い。残留争いに巻き込まれなかった』と言う人と『ぜんぜんつまらない』とフラストレーションを溜めている人がいるわけです。じゃあ、自分がどうしたのか。私のマネジメントはチームの成績とファイナンシャルが両輪です。昨季みたいにベテランでチームを固めて早く残留を決めることも大事ですが、若返りをして良いサッカーをすることもSTVVにとって大事。リスクはあるし、これから5連敗してもおかしくない。だけどSTVVは移籍金収入が必要だから、若返りを採ったほうがいいと思いました。良いサッカーをして若手が輝けば移籍金が入ってくる。ユース出身の選手を使うことで地元のファンも喜ぶ。

 STVVから日本代表の選手を育てることも大事ですが、アル=ダヒルに続くベルギー代表選手を出したいですね」

<了>

取材・文●中田 徹

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