今夏、7人の日本人選手を擁して、7月28日に始まった2023−24シーズンを戦っているベルギー1部のシント=トロイデン(以下、STVV)。かつてヴィッセル神戸を2020年正月の天皇杯制覇へと導いたドイツ人指揮官、トルステン・フィンク監督が率いるチームで目玉補強と見られているのが、今季のJ1前半戦に昇格組アルビレックス新潟で7ゴールを挙げ、チームの快進撃を支えた伊藤涼太郎だ。

 2016年に作陽高から浦和レッズ入りした伊藤は、思うように出番を得られず、2017年夏に水戸ホーリーホックへレンタル移籍。そこで1年半を過ごし、18年には34試合に出場して9ゴールという確固たる実績を残し、プロとしての基盤を築いた。

 しかし、19年に2度目のレンタルに出向いた大分トリニータでは「J1の壁」にぶつかり、翌20年に浦和復帰した際も出場機会に恵まれなかった。

 そこで伊藤は21年夏に、水戸に2度目の移籍を決断。そこで再浮上のきっかけを掴み、22年には新潟へ。ここで大きな飛躍を遂げる。松橋力蔵監督に絶大な信頼を寄せられ、一気にブレイク。同年はJ2で42試合に出場して9ゴールをマークし、J1昇格請負人に。秘めた才能が大きく開花したと言っていい。

「苦労人のファンタジスタ」は、25歳にして踏み出した海外挑戦で何を感じているのか。ストレートな思いを現地で聞いた。

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「9月の代表ウイークには、自分も試合(12日のトルコ戦)を見に行きましたけど、ものすごく刺激をもらいました。直後の9月17日のメヘレン戦に(日本代表監督の)森保(一)さんが来ると聞きました。その試合で自分がベルギー初ゴールを取れた。やっぱりすごく嬉しかったですね。

 これを機に、間違いなくもっともっと多くのゴールを取れると思うし、アシストもまだしていないので記録したいと思います。正直、点を取って少し気が楽になった感じですね」

 伊藤はSTVV移籍後、初ゴールとなったメヘレン戦の63分の一撃に対し、心からの安堵感を吐露した。
【動画】ニアにズドン! 伊藤涼太郎の移籍後初ゴール
 中盤でマティアス・デロージからヤルネ・ストウカースへの横パスがつながった瞬間、背番号13は一目散に相手守備陣の背後に侵入。フリーでスルーパスを受け、右足を振り抜いた。これまで何度か決定機を迎えながら、決めきれなかっただけに、結果がついてきたことは感無量だったに違いない。

「開幕のスタンダール・リエージュ戦は正直、自分的にはあんまり良くなくて、自分らしいプレーをあまり出せなかったし、チャンスにも絡めなかった。でも試合を重ねるごとにチャンスに絡むシーンも増えてきて、ゴールにも少しずつ近づいている感触がありました。『ホントに1点取れれば、どんどん点を取れる』という確信も持てていたんです。

 だからこそ、早く初ゴールが欲しかった。そのためにもシンプルにシュート技術やトラップ1つの正確さを上げないとダメだと感じた。海外特有の強度のなかで素早い判断をして、技術を出せるようにしないといけないとも考えていました。

 一般的なボールテクニックは、ベルギーよりも日本のほうが上かもしれないけど、強度の高さはやはり全然違う。ピッチも人工芝で日本とは違いますし、ボールの感覚も慣れるまでに時間がかかったので、そういう苦労もあった。

 日本を離れて約2か月が経過し、環境にも適応しつつあったことで、得点という結果が生まれたのかなと感じています」と、伊藤はベルギーサッカーへの適応がスムーズに進んだ結果、公式戦6試合目にして明確な数字がついてきたと感じている様子だ。
 
 日本国内では生まれ故郷の大阪を離れて、岡山、さいたま、水戸、大分、新潟と各地を転々としてきた伊藤だが、異文化のなかで生活するのは初めて。その適応に多少なりとも時間を要したことを明かす。

「今は妻と2人でシント=トロイデンに住んでいるんですが、小さな町ということもあって、スーパー1つ取っても日本とは品揃えが全然、違ったりする。『日本は凄いな』と再認識しましたね(笑)。

 生活面で特に困ったことはないですけど、まだ英語が全然喋れないんで、コミュニケーションのところは少し苦労しています。ピッチ上ではジェスチャーとかでだいたい分かってもらえますけど、もっと話せるようになれば、意思疎通もコンビネーションも深まってくると思います」と、伊藤は語学力をブラッシュアップさせようと意欲を高めている。
 
 周囲と話ができるようになれば、サッカーにもプラスになるのは間違いない。伊藤のように中盤で臨機応変に動いてパスを受け、また出ていくようなプレースタイルの選手は、より仲間と呼吸を合わせたり、タイミングを理解し合ったりすることが重要だ。それを本人も実感する日々だという。

「フィンクさんのサッカーは、ボールをつないでゲームを組み立て、主導権を握って攻めていくスタイル。そういう意味ではより周囲との連係が重要になると思います。

 チームとしての完成度は正直なところまだまだかな。自分たちのミスからピンチを招いてしまったり、崩し切るところができなかったりと課題も多いと思います。でも、伸びしろは大いにある。昨季までシント=トロイデンがやっていた守備的なスタイルとは違って、僕自身にはすごく合っている。

 ベルギーに来る前にフィンク監督と面談した時も、『前目のポジションで使いたい』と言ってもらえて、サッカーへの考え方も含めてマッチしたところが多かった。ゴールやアシストだけじゃなく、ビルドアップにもしっかり関われるという部分も僕の長所が活かせると感じました。今は少しでも監督の考える理想形に近づけられるようにしたいと思っています」
 
 STVVの重要なピースになりつつある伊藤。類まれな創造性とアイデア、サッカーセンスをより一層発揮できれば、新潟時代のように「チームを勝たせられる存在」にもなれるはず。今から期待は膨らむばかりだ。

※第1回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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