シーズンの3分の2を消化したブンデスリーガで今なお無敗のまま首位をひた走るバイヤー・レバークーゼンは、DFBポカール、さらにはヨーロッパリーグでも負けなしと、今シーズンの欧州サッカーにおいて最も大きな注目と評価を集めているチームだ。
戦力的に見れば明らかに上回るバイエルン・ミュンヘンを、圧倒的な差をつけて2位に追いやっているだけでなく、2月10日の直接対決でもホームで3-0と圧勝。数字上で示してきた優位性をピッチ上でも改めて証明してみせた。このまま行けば、1904年創立という歴史あるクラブに初めてのマイスターシャーレがもたらされると同時に、11年もの間続いてきたバイエルンの覇権にも終止符を打つことになる。
チームを率いる42歳のシャビ・アロンソは、リバプール、レアル・マドリー、バイエルンと名門クラブを渡り歩き、スペイン代表でEUROとワールドカップを制する輝かしいキャリアを送った偉大なプレーメーカーだった。
17年に現役を引退すると、R・マドリーのアカデミーコーチを経て、自らが育ったレアル・ソシエダのBチームで監督キャリアをスタート。そこで3年間の「修行時代」を過ごした後の22年10月、降格圏に低迷していたレバークーゼンの指揮官に途中就任した。
トップチームを率いるのはこれが初めての経験であるにもかかわらず、1年目の昨シーズンは17位で引き受けたチームを最終的に6位に押し上げ、今シーズンは開幕から首位を独走中。この事実からだけでも、監督としての手腕がどれだけ傑出しているかがわかる。
シャビ・アロンソはプレーヤーとして、ラファエル・ベニテス、ジョゼ・ モウリーニョ、カルロ・アンチェロッティ、ジョゼップ・グアルディオラという偉大な監督たちの下でプレーしてきた。レバークーゼンのサッカーには、彼がこのマエストロたちから学び取ったエッセンスがさまざまな形で散りばめられている。
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そのスタイルをひと言で表現するならば、「複数の戦い方を駆使しながら攻守両局面で主導権を握るアクティブなサッカー」だろうか。1試合平均60%を上回るボール支配率が示すように、ボール保持を通して主導権を握って敵陣でプレー。ボールロスト時には後退せず前に出て即時奪回を狙い、敵のビルドアップに対してもマンツーマンのハイプレスで圧力をかけていくモダンフットボールの典型とも言うべきスタイルを基本とするチームではある。しかし相手と状況次第では、ボールを敵に委ねて自陣にコンパクトなミドルブロックを敷き、連動性の高いプレッシングから逆襲を狙う戦い方もできる。
3-0で勝利したバイエルンとの直接対決がまさにそうだった。敵DFラインへのハイプレスを行なわず最終ラインを自陣ペナルティーアークのやや上、前線をセンターサークル付近に設定したコンパクトな5-2-3のミドルブロックで迎え撃つカンター志向の戦い方に徹し、相手の攻撃をほぼ完全に封じ込めての完勝。シャビ・アロンソ監督は試合後、
「われわれはボール保持を通してだけでなく、ボールを持たずに主導権を握ることもできる。今日はそういう試合だった」
と胸を張った。
事実、レバークーゼンはボールを相手に持たせながらも、最終ラインは常に自陣ペナルティーアークより上に保ち、コンパクトなブロックで中央を封じながら、連動性の高いプレスでボールにプレッシャーをかけ続けて、決して後手に回ることがなかった。シーズンを通して見ても、27節終了時点の失点19は2番目に少ないドルトムントとRBライプツィヒの32に大差をつけてのリーグ最少であり、攻撃的なチームというイメージが強い一方で、守備の堅さも大きな強みになっている。
とはいえもちろん、ここまでの躍進を支えているのは、柔軟かつ質の高い後方からのビルドアップと安定したポゼッション、個人能力に過度に依存せず連携を重視したコレクティブなファイナルサード攻略、ボールロスト時のゲーゲンプレッシングと敵のビルドアップに対するマンツーマンのハイプレス(どちらも前進守備)という、ボールを通して主導権を握りに行くアクティブなスタイルが、きわめて高いレベルで機能していることが一番の理由だ。
昨シーズンのシャビ・アロンソ監督は、途中就任だったこともあり、それまでのスタイルやチームの陣容を踏まえる形で、重心を低めに設定してやや受動的に振る舞いつつ、ボール保持でもより縦志向を強く打ち出すという、前述のバイエルン戦で見せたような戦い方を基本に据えていた。
しかし、夏の移籍マーケットで大幅に陣容を入れ替えて、プレシーズンからじっくりとチームを構築する時間を得たことで、今シーズンは自身の哲学をより直接的に反映した、アクティブなスタイルを当初から打ち出している。
ピッチ上の配置は、ボール保持と非保持ではっきりと異なるだけでなく、ピッチ上のプレーエリアや相手との噛み合わせによっても柔軟に変化する。ただし、配置ではなく起用する選手の特性に基づけば、レバークーゼンの基本システムは3-4-2-1と表せるだろう。具体的に言えば、スターターの11人はGKに加えて、3人のCB、大外レーンを上から下までカバーする左右のウイングバック(WB)、中盤センターで攻守のバランスを取る2人のセントラルMF、敵2ライン(DFとMF)間で攻撃的に振る舞う2人のトップ下、そして最前線中央で基準点となるCFという構成だ。
セーブ率80.7%というリーグでもダントツの数字を誇るなど、際立った活躍を見せている守護神ルーカス・フラデツキーの前を固めるCBは、右からオディロン・コスヌ、ヨナタン・ター、エドモンド・タプソバという顔ぶれ。いずれも身長190cmを超える大柄な体格の持ち主ながら、それを感じさせないスピードとアジリティーを備えたモダンなCBだ。
左右の2人、とりわけ右のコスヌはプレーの流れの中でワイドに開いてサイドバック(SB)としても機能する戦術的柔軟性を備えていて、時にはドリブルでの持ち上がりから敵陣まで進出して攻撃に絡むケースもある。
WBの2人は、右のジェレミー・フリンポンが爆発的なスピードと高い持久力、優れたテクニックを活かしてサイドバック(SB)というよりはウイングに近い攻撃的な振る舞いを見せ、しばしば敵ペナルティーエリアまで進出してフィニッシュに絡んでいくのに対して、昨夏にベンフィカ・リスボンから獲得した左のアレハンドロ・グリマルドは、卓越した戦術眼と精度の高い左足のキックを武器に、大外レーンだけでなく一列内側のインサイドレーンでMF的なプレーも見せる。
そして中盤センターでチームの「へそ」と呼ぶべき重要な働きを見せるのが、昨夏にアーセナルから加入し、リーダーにふさわしい存在感を発揮しているベテランのグラニト・ジャカと、テクニック、運動量、闘争心を併せ持ったいかにもアルゼンチンのセントラルMFらしいキャラクターのエセキエル・パラシオスだ。
前線は、敵2ライン間の中央3レーンを主戦場として仕掛けからフィニッシュまでファイナルサードでの全局面に絡んで行くヨナス・ホフマン、フローリアン・ヴィルツという2人のトップ下、190cmの強靭な体格にスピードとテクニックを兼備し、DFを背負ってのポストプレーから裏のスペースアタック、周囲と連携してのコンビネーションまで幅広くこなすパワフルなCFヴィクター・ボニフェイスという顔ぶれ。バイエルンのジャマル・ムシアラと並びドイツ代表の未来を担う大器と目されるヴィルツが、その優れたテクニックと創造性を活かして1対1突破やワンツーなどのコンビネーションから決定機を作り出すのに対し、元々はウイングのホフマンは縦のダイナミズムを持ち味としていて、スペースメークや裏抜けなどオフ・ザ・ボールの動きで攻撃に流動性を作り出している。
後編では、ボール保持と非保持、それぞれの局面におけるレバークーゼンの基本的な振る舞いを見ていこう。
【後編】に続く
文●レナート・バルディ(イタリア代表マッチアナリスト)
翻訳●片野道郎
【著者プロフィール】
レナート・バルディ(Renato BALDI)/地元のアマチュアクラブで育成コーチとしてキャリアをスタートし、セリエBのランチャーノ、バレーゼで戦術分析を担当。ミハイロビッチがサンプドリア監督に就任した際にスタッフとなり、ミラン、トリノ、ボローニャにも帯同した。現在はイタリア代表のマッチアナリストを務める。
※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年3月21日号の記事を加筆・修正
公式戦いまだ無敗の衝撃!クラブ史上初のブンデス優勝も現実味を帯びるレバークーゼンの何が凄い?【戦術エキスパートが徹底解剖|前編】
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