熱心な海外サッカー・ウォッチャーであり、複数のクラブでメンタルアドバイザーを務める精神科医の木村好珠先生が、プレミアで三つ巴の覇権争いを演じるリバプール、マンチェスター・シティ、アーセナルのそれぞれのキャプテンのリーダーシップを診断する。重圧がのしかかるここからの戦いで最も頼りになるキャプテンは誰か? マンチェスター・シティのカイル・ウォーカーを診断する。
 
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Kyle WALKER
カイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ/DF)
 
【木村先生のリーダーシップ診断/5段階評価】
●求心力/4
●影響力/3
●責任感/4
●精神力/5
●統率力/3
 
 リバプールのファン・ダイクと比べれば見劣りする部分が少なくなく、決して完璧なリーダーではありませんが、マンチェスター・シティというチームにはすごくハマっているキャプテンです。
 
 メンタルは、「思考」と「感情」に分けて考えることができると思っていて、どちらか片方が強すぎても物事はうまく進みません。シティにはディアスやデ・ブライネ、ロドリなどリーダータイプが複数存在しています。彼らはエモーショナルなところよりも、頭で考えて行動するいわゆる理性派。つまり思考優位型の選手です。そこで重要になってくるのが、ウォーカーのような感情で動くタイプのリーダーです。
 
 どういう時に最高のパフォーマンスを発揮できるか――。そんな質問を、メンタルアドバイザーを担当させていただいているクラブの選手に訊いたことがあるのですが、自分が心地よくプレーできている時とか、楽しくやれている時と答える人が少なくありません。考えすぎてナイーブになり、ネガティブな思考に陥った時、「サッカーって結局楽しむものじゃない?」と引き戻してくれる存在、それがウォーカーだと思います。
 
 とくにシティは、ミリ単位の緻密なサッカーを追求するスタイルなので、考えすぎて迷い込んだら、とことん深みにハマりかねない。実際、フィットできずに去っていった選手は一人や二人ではありません。例えばいま、加入1年目のドクが前半戦ほど輝けていないのは、求められるタスクが増え、それを消化しきれず、頭で考えすぎてペースが乱れているからではないかと分析しています。
 
 そんなドクを救えるのは、ロドリやデ・ブライネではなくきっとウォーカーでしょう。デ・ブライネに相談したら、もっと深みにハマってしまう恐れがあります。
 
 そもそも監督のペップが論理的に指導するリーダーなので、バランスという観点から見ても、ロッカールームの雰囲気を和ませ、チームの精神的な調和をうまく取れるモチベータータイプに主将を任せるのは理に適っています。
 
 ピッチ外で何度か規律を破り、ペナルティーを科された経験もあるウォーカーの責任感が「4」というのは高くないか、そんな指摘もあるでしょう。ただ、チームの勝利のために手を抜かずにずっと走り続け、つねに全力を尽くすピッチ上の責任感に限れば「5」と評価できるので、そのあたりのバランスを取りました。
 
 精神力に関しては、偽サイドバックの役割やインナーラップがそこまで得意ではなく、序列を落とした時期があったところから、もう一度レギュラーに返り咲いたその「這い上がる力」を高く評価しました。不貞腐れるタイプでは決してなく、むしろ、新しいことにチャレンジできる勇敢さや向上心をしっかり持っています。
 
 以前、交代枠を使い切った後に退場したGKの代役を引き受け、見事に務め上げてみせましたが、与えられた仕事を全力で、しかも楽しみながらやり切れるところも含め、どんな困難な状況でも前向きに捉えてそれをエネルギーにできるウォーカーのリバウンドメンタリティーは、ファン・ダイク以上かもしれません。
 
診断者●木村好珠
 
【診断者プロフィール】
大学時代に『ミス日本』で準ミスに輝き、現在は『このみこころとからだクリニック』院長。精神科医、産業医、健康スポーツ医、タレントとしても活躍。大のサッカー好きで、マンチェスター・Cのファン。北海道コンサドーレ札幌やレアル・マドリー・ファウンデーションのアカデミー、愛媛FCなどでメンタルアドバイザーも務める。22年には『メンタル弱いままたのしく生きていく』を出版。X(@konomikimura)では精神科医およびサッカーファンの一人として呟き中。
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年4月18日号の記事を加筆・修正

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