長谷部誠のラストマッチは美しかった。

 ただ気になる点があった。投入されたのは、2−2のドローで終わったRBライプツィヒ戦の後半アディショナルタイム。本当に、あれだけしか出場時間を捻出できなかったのか。

「彼らのような選手を見つけるのは簡単ではないと思う。ああいうタイプの選手は少ない。ゼップ(セバスティアン・ローデ)とマコト(長谷部)がいなくなるのは辛い」

 フランクフルトのディノ・トップメラー監督は最終節後の記者会見でそう話していた。ただ、そう思うなら、もう少し出場時間をどうにかできたのではないかと思ってしまう。

 この日を最後にクラブに多大な貢献を果たしたレジェンドコンビが現役生活を引退するのだ。6位確保のために、チームとして引き分けで終えるのが大事なのもわかる。きわどい試合展開で動きにくいという事情も分かる。

 だからといって、現役最後の舞台で二人がボールタッチもないまま終わりそうなのに、主審に対して「早く試合終了の笛を吹いてくれ」という大きなジェスチャーを繰り返すのは、どうにも腑に落ちない。
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 ピッチに送り出したのは、誰よりも経験豊富なペアだ。あと5分ピッチにいたからといって、試合の結果に影響するような大きなミスをする可能性がどこまであるというのか。

 もちろんこちらは日本人のフィルターで見ているところもある。これまで長谷部が歩んできたドイツでの苦闘の日々を思うとそれ相応の最後の花道を期待するし、そうあるべきだと思う。

 だが、こう思っているのは、筆者だけではない。フランクフルトサポーターが試合後に「あのジェスチャーには引いた」と話をしていたのが聞こえてくる。また別のサポーターは「ローデと長谷部がどれほどクラブのために貢献してくれたことか」と出場時間の少なさを残念がっていた。

 ここ最近、記者会見やミックスゾーンで、地元記者から「リーダーシップを持った二人がいなくなるが、今後どのようにそうした選手が育まれてくるのだろう」という質問が頻繁にされている。そのくらい大事な能力を持った二人であり、チームにとって欠かせない存在だったのではないだろうか。
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 長谷部も長い選手生活で、出場機会に恵まれないときもあった。だが、それで腐ったりは決してしない。どんな時でも100%の力でトレーニングに臨む。その姿勢はどのクラブでも、どのチームメイトにも、どの監督にも高く評価された。

 練習ではつねに先頭を走り、どんな時でもメディアの質問に丁寧に答える。異国の地で、異国の言語で会話を交わすのは誰にでも簡単にできることではない。だが長谷部はミスを恐れず、ミーティングでも意見を隠さずに伝えるべきことは必ず言葉にした。言葉を覚えればコミュニケーションが取れるわけではない。コミュニケーションをとることで言葉を覚えるのだ。それだけのことを積み重ねてきた。

 3年ほど前に長谷部は「もう一度チャンピオンスリーグに出たい」と話していたことがある。その夢を見事に叶え、昨シーズンにCLに出場し、トッテナム戦ではイングランド代表FWハリー・ケインを完全に抑え込んだ。ブンデスリーガ、DFBカップ、ヨーロッパリーグでのタイトルを手にした。
 
「何かを獲りたいという欲よりも、試合をしたいという欲は日々ありましたね。自分が出たら、もっとチームをこうできるみたいな、そういう部分は最後の最後まであって」

 ラストマッチのあと、ミックスゾーンでそっとそう語った。まして長谷部は大きな負傷で動けないわけでもなかった。リスペクトとは「リスペクトしている」という言葉を口にしたり、「それっぽい」ジェスチャーをすることではない。引退表明してからラストマッチまで出場時間はゼロ。間違いなくもっとやりようがあったのではないだろうか。

取材・文●中野吉之伴

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