7月某日、横浜FCの練習前。コーチの中村俊輔は、ピッチに立ててあった細長いポールを手に持つと、素振りを始める。レフティだけどバッティングは右なんだ、サインをする時も右手だし、と思っていたら、左に持ち替えて素振り。それもまた様になっていた。

 練習後には、恒例とも言えるGK市川暉記とのシュート練習。ダミー人形を2つ置いて、FKも蹴る。狙いすましたショットでネットを揺らす。技巧はまったく錆びついていない。

 2年前に現役を退き、横浜FCで指導者としてのキャリをスタートさせて2年目を迎える今季は、S級コーチ養成講習会に参加している。複数回にわたり、まとまった期間を講習会にあてるため、「クラブに対して、もちろん選手やスタッフに対しても申し訳ない」との思いがあるなか、6月にもS級ライセンス取得に励んだ。

 今回は指導実践ではなく、いわゆる“座学”が中心だった。企業の社長を招いての講義ではチームビルディングにつながるマネジメントなどを学び、新たな刺激があったようだ。
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「結局、自分がどうしたいのかを、分かってもらわないと。部下の人たちの心を掴んで、染まるぐらいに。共有しないとブレる。クラブと会社は違うけど、上にいるリーダー像っていうのは一緒なんだなというのが知れた」

 またJリーグの各クラブを訪問。横浜、町田、YS横浜に赴き、「リアリティのある話」を聞けたという。

「いろんな話を聞けたし、質問もできた。自チームの練習とか、あんまり見られたくないと思うけど、みなさん快く話してくれて。マリノスではシゲさん(松永成立)や安達亮さんも出てきてくれて、練習が終わった後で疲れているはずなのに、キューウェルは1時間以上も話してくれた。自分たちのために話をしてくれて、本当に貴重な時間だった」

 横浜FCでは経験豊富な四方田修平監督のもとで、多くのことを吸収している。加えて講習会でも指導者としての知見を深めている。「キャパを広げないと」と貪欲な俊輔は、相も変わらず「勉強中」と口にした。

取材・文●広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

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