【現地発】宮市亮が見つけた新しいふるさと。ザンクト・パウリが59年ぶりのダービー勝利に熱狂した歴史的な夜

【現地発】宮市亮が見つけた新しいふるさと。ザンクト・パウリが59年ぶりのダービー勝利に熱狂した歴史的な夜


 東京タワーの完成、日本でカラーテレビの放送開始、日米新安保条約の調印。

 この3つに共通することは何だろうか? これらは、みな1960年にあった出来事だ。昭和35年と聞くと、ものすごく大昔のように感じ、そのころと今とを直接結びつけるものとなると、なかなか思いつかないだろう。

 だが、ザンクト・パウリのオールドファンにとって、この1960年というのは忘れることのできない、とても思い出深い年だ。それは、本拠地を同じくするハンブルクとの”ハンブルク・ダービー”において、ホームスタジアムで最後に勝利した年なのだから。

 同じ町にあるクラブ同士が対戦するダービーという以上に、ハンブルクとのダービーは、ザンクト・パウリにとって存在意義をかけた魂の一戦だ。

 この両クラブの間には多くの相違点がある。ハンブルクには上流階級のファンが多く、そのため大きなスポンサーがつきやすい。一方のザンクト・パウリは、労働階級のファンが多く、どんな権力や差別に対しても毅然と立ち向かう象徴として、熱狂的に支持され続けている。

 とはいえ、資本力、選手層の差は大きい。そして、お互いが同じリーグで戦うことが少なく、ドイツにある他のダービーと比べると対戦自体は多くはない。

 ザンクト・パウリが最後に勝利した60年2月以来、両者の対戦は24試合にのぼる。戦績は、ハンブルクの15勝7分け2敗と圧倒的だ。

 だが、資本面でどれだけ多くの差をつけられようとも、戦力面でどれだけ厳しい現実を突きつけられようとも、ザンクト・パウリは決して屈することはない勝利への意欲を燃やし続けた。あれから59年間、ファンはずっとこの時を待ち続けていたのだ。

 ダービーマッチが行なわれた現地時間9月16日、ここまで無敗で首位を走っていたハンブルクを、ザンクト・パウリの気迫が完全に呑み込んだ。試合開始からファンの大声援を受けながら、どんな局面でも気を緩めず、身体をぶつけ合い、ギリギリまで粘る必死のプレーを披露した。

 18分、FWディミトリオス・ディアマンタコスが待望の先制ゴールを挙げると、2万9226人で埋め尽くされた超満員のスタジアムは、一段とボルテージを上げた。前半終了間際、ハンブルクはルーカス・ヒンターゼーアがゴールを決めたかと思われたが、直前のプレーでボールが外に出ていたという判定でゴールは認められず。逆に、ザンクト・パウリは後半、相手のオウンゴールで点差を広げた。
 終盤になってもザンクト・パウリの運動量、集中力は衰えず、カウンターからさ攻撃を仕掛けていく。追い詰められたハンブルクは反撃の糸口を見つけることができないまま、地に伏した。ザンクト・パウリにとって59年ぶりという歴史的な勝利が、現実のものとなった瞬間だった。

 試合後に勝利を手にしたヨス・ルフカイ監督は「センセーショナルだ。ファンが本当に素晴らしいサポートをしてくれ、そして選手がそれに応えた。ダービーで勝ち点3を手にしたんだ!」とチームの健闘を興奮ぎみに褒め称えた。

 当時20歳だった青年が79歳になるだけの時間。なかにはこの時を迎えることができないままのファンもいたかもしれない。試合後、ザンクト・パウリの熱狂的なファンは発炎筒を煌々と燃やしていたが、スタジアムを埋め尽くしたファンの気持ちはそれよりも熱く、熱く燃えあがっていたことだろう。

 そして、ファンの歓喜の歌を聞くグラウンドには、笑顔で仲間と喜び合う宮市亮の姿があった。

 宮市はこの試合で、右ウィングの位置でフル出場。スピードを生かした突破で攻撃にアクセントを加え、守備では何度もダッシュで自陣深くまで戻り、相手の攻撃を抑え込んだ。CKのチャンスにはニアポストに飛び込みボールの軌道を変え、惜しいシーンも演出した。

 長く負傷に悩まされていた宮市だが、昨季に本格復帰し、今年3月にクラブとの契約を2021年まで延長したと発表。スポーツディレクターのウーベ・シュテーファーは、「リョウが難しい時間を過ごしているときも、負傷が癒えた後も、彼はまだまだポテンシャルがあることを見せてくれた。それを呼び起こすための手助けをしていくつもり」と絶大な信頼を寄せ、宮市も「クラブとサポーターは僕が苦しい時期にいつもサポートしてくれました」と感謝を述べていた。

 レンタル移籍を繰り返していた男がやっと見つけた”ふるさと”。相思相愛となったクラブが最大のライバルと対戦するダービーで、宮市が燃えないわけがない。

 監督のルフカイにとっても、宮市は非常に価値の高い選手となっている。

 今季は本職のウィングだけではなく、右SBの位置でも起用されている。最初はさすがに驚きがあったようだ。「今まで一度もプレーしたことがないポジションですから。最初の数日は手探りでやっていました」と地元紙に明かしていた。

 慣れないポジションとはいえ、ルフカイは「リョウはフレキシブルに起用することができる。彼のスピードを生かして、前線へのギアを入れることができる」と高く評価。

 宮市も「僕にとってポジションは問題ではないです。どこで出ても、どんな試合でも全力でプレーするだけ」とポジティブに捉えていた。どんなときでも前向き。それが、宮市の持つ何よりの強みだろう。

 のびやかで、しなやかで、強靭なプレー。自分のために、クラブのために、そしてファンのために。懸命に走り続ける姿は美しい。そして、やはり宮市には笑顔のほうが良く似合う。
  筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中。


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