モンゴル戦で森保一監督が堂安律に放った「刺激の矢」。激化するポジション争いが選手の意識に変化を生む

モンゴル戦で森保一監督が堂安律に放った「刺激の矢」。激化するポジション争いが選手の意識に変化を生む


 森保一監督が「刺激の矢」を放った。
 
 カタール・ワールドカップ・アジア2次予選、ホームの初戦となるモンゴル戦、注目したのは大迫勇也の代役の永井謙佑ではなく、攻撃的MFとボランチのポジションだった。
 
 右サイドハーフのポジションには、いつもの堂安律ではなく、伊東純也が入ったのだ。モンゴルは引いて守備のブロックを作り、スペースを消してくる。スペースがないのであれば、伊東のスピードが活きないのではないか。だったら堂安を置いて、従来通りトライアングルでのコンビネーションや酒井宏樹と絡んで攻撃した方がいい。もちろん、引いた相手をコンビネーションだけで打開するのは難しいが、モンゴル相手にそこを乗り越えていかなけなければ、この先の相手を崩すことはできない。だからこそ堂安をあえて起用して「崩し」のバリエーションを増やしていく作業をした方がいいと、メンバー表を見たときは思っていた。
 
 ところが森保監督は、伊東を選択。そして試合では、伊東の良さが出た。スペースがないなか、瞬発的なスピードで相手の前に出てクロスを上げた。「クロスは自分の強みでもある」と試合後に伊東は言ったが、彼の良さは半身でも前に出れば、精度の高いクロスを上げられることだ。南野拓実の先制点のアシストしかり、40分の永井謙祐のアシストしかり、伊東は結果的に3アシストを挙げ、自信を持つクロスをはじめとするプレーの質の高さを結果で証明した。
 
 試合後、伊東の起用について森保監督はこう語った。
 
「選手起用に関しては戦術的な側面、コンディションの部分、我々がこの試合で勝利することとチームとしてどういうことを試しながらやっていけるかという部分。答えがアバウトになるが、いろんなことを考えた上での選手起用になった。伊東のプレーに関しては、彼は今、チャンピオンズリーグでもプレーしているし、より高いレベルで戦っている自信を今日のゲームで出してくれたと思う」
 
 伊東はヘンクでレギュラーとしてプレーし、チャンピオンズリーグに出場するなど経験値を上げ、個人戦術の部分でも着実に成長している。判断に迷いがなく、すべきことが明確に見えている感がある。堂安もPSVに移籍したが、まだレギュラーポジションを獲得しているとは言えないし、チャンピオズリーグの経験もない。
 代表チームは強化時間が少ないゆえに歴代の監督は、メンバーを固定してチーム作りをしていった。だが森保監督は広島時代、主力選手を引き抜かれつつ、新陳代謝を進め、チームをバージョンアップして3度のリーグ優勝を達成している。現状維持は退化であるとの考えは、チームも選手も同じ。そこで、あえて堂安に厳しい矢を放ったのだ。
 
 伊東の活躍を見て、堂安は何を思っただろうか。手中に収めかけたポジションが、熾烈な競争下に置かれた現実を改めて実感したことだろう。同時に悔しさも募ったはずだ。試合後は厳しい表情で、終始無言だった。
 
 ボランチも今回は、9月のミャンマー戦など2試合で活躍した橋本拳人ではなく、遠藤航を起用した。遠藤にとって日本代表での試合は、アジアカップのイラン戦以来。その後は、ケガで戦線を離脱していた。夏にドイツのシュツットガルトに移籍したが、まだ出場を果たしていない。それにもかかわらず、大事なホームの初戦に起用したのは、森保監督の遠藤に対する信頼の証だ。
 
 実際、遠藤は今年1月のアジアカップで日本が決勝に進出した際の立役者のひとりだった。気の利いた守備ができるうえに対人も強い。攻撃では積極的に前線に絡み、鋭い縦パスを出す。モンゴル戦でも左右にさばくだけではなく、自ら前線に飛び込んでいったり、相手が中央に固まっているのを見るやミドルを放ち、相手をおびき出したりしていた。押したり、引いたり、相手を翻弄するプレーは非常に有効で、代表初ゴールを挙げるなど、相棒の柴崎岳が霞むほどの活躍だった。
 
 前回のミャンマー戦で、橋本は守備重視のプレーをしていた。だが、スペースを意識し過ぎて、前への意識がもう一つ足りなかった。少なくとも遠藤ほど前への絡みはなかった。代表21試合目となる遠藤のプレーを見せて、橋本にボランチとしてのレベルアップを促しているのは容易に察しがつく。
 ボランチには、橋本に加え、まだ板倉滉、三竿健斗、中山雄太、田中碧らの若手、さらに山口蛍、大島僚太らもいる。今は柴崎が軸になっているが、パートナー探しは、この日の選手起用を見ても、まだ続くだろう。
 
 今回、堂安と橋本に向けて、森保監督はメッセージ付の「刺激の矢」を放った。それは、とりわけレギュラー扱いになっていた堂安に出したところに意味がある。主力として起用されていても“絶対はない”ということだ。同時にこれは他の選手へのメッセージにもなったはずだ。クラブでも代表でも成長し、結果を出していかないと椅子は奪われる。攻撃的MFには久保健英、三好康児らまだまだ有望な選手がいる。ウカウカしていられないということだ。
 
 逆に伊東、遠藤は見事に森保監督の期待に応えた。また、途中から出場した原口元気、鎌田大地からもガツガツした闘志が感じられた。こうした小さな積み重ねが最終的にポジション取りに繋がっていく。
 
吉田麻也は言う。
 
「僕のポジションもそうですけど、すべてのポジションで競争が生まれることが、チームが活性化するチャンスになるかなと思います」
 
 選手がそれを意識し、実感できるチームには活力が宿り、強くなる。次は、どのポジションに「刺激の矢」が放たれるのだろうか。
 
取材・文●佐藤俊(スポーツライター)

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