ペドリは捉えどころのない選手だ。ビルドアップ、ゲームメイク、フィニッシュと試合の局面は関係ない。ピッチの至るところに顔を出す神出鬼没ぶりを活かし、すべてのプレーに関与し、的確に速い判断を見せる。

 ボールを受ける時は前を向いている状態でも、ゴールに背を向けている状態でも関係ない。戦術理解度の高さを活かし、足下に収めるやコマのようにクルっと反転する。序盤、終盤と試合の時間帯は関係ない。無尽蔵なスタミナを活かし、90分間通してコンスタントにプレーする。

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 所属チームがラス・パルマスでもバルセロナでも関係ない。天性のパスセンスを活かし、タクシーで旅をする人間が相手でも、プライベートジェットで旅行する人間が相手でも、つまりどんなレベルの選手であってもボールを介して瞬く間にコミュニケーションを取ってしまう。

 しかも驚くべきは、これだけのことを実にさらっとやってのけること。まさに頭の天辺から足の爪先までサッカーをするために生まれてきたプレーヤーと言っていい。

 体つきは終戦直後の人々ように貧弱だ。顔つきは年老いた官僚のように冴えない。しかしその実、インテリジェンスの塊で、彼のプレーを目にするたびに、われわれはサッカーを楽しむという感覚が呼び覚まされる。

 どう見てもスポーツジムに通ってそうにないし、人に頼みごとをするのもいかにも苦手そうだ。しかしその独特な体つきゆえにピッチをスイスイと動き回り、無駄なエネルギーの浪費を抑えている。

 氷上を滑るように軽やかに走ることができるので、ボールの扱いがスムーズで、常に相手の一歩先を読む。だからこそ、同じユニホームを身にまとった選手たちと息の合ったコンビネーションを奏でることができるのだ。

 シネマスコープ(現存しているかは知らないが)のように一瞥しただけで周囲の変化を察知し、ワンタッチで流れるような連携プレーを見せることができるのだ。すべてのチームメイトにとって理想のパートナー。ペドリとはそんな選手で、その役割に忠実になるに余りゴール前に侵入してもシュートすることを忘れ、パスを選択してしまいがちだ。しかしそのパスはマエストロ級のクオリティを誇るのだ。
 オーギュスト・ロダン(フランスの彫刻家:1840年〜1917年)にまつわるこんな逸話がある。ある日、最新作を見てもらおうと、シュテファン・ツヴァイク(オーストリアのユダヤ系作家、社会活動家:1881年〜1942年)をアトリエに招待した。しかし、ある部分が気になり始め出すとどう直そうかという一点に集中し、しまいにはツヴァイクの存在を忘れてしまったという。

 どこの世界においてもこうした尋常ではない集中力の持ち主が得てして成功を収めるものだ。ペドリのプレーを見ていると、ロダンと同じ匂いを感じる。試合に、自分のプレーに一点の曇りもなく真っすぐに向き合っている。だから自分の周りで何が起きてもまるで動じない。

 新加入選手という不安な立ち位置、リオネル・メッシの近くでプレーするストレス、ファンとメディアの厳しい視線……。その体内にはあらゆる重圧に対する免疫細胞が装填されているかのようだ。

 ペドリのプレーはフレッシュで、狡猾だ。試合中に見せる表情からはハングリーでストイックな人柄が垣間見える。そう、彼にとってサッカーは冗談半分で取り組むものでは決してないのだ。

 サッカー選手の才能を紐解く重要な物差しの一つが、接近してくる相手選手に対する対処法だ。ペドリは複数の相手DFに囲まれた中でも、まるで葉巻を吸うようにリラックスしてプレーする。それはそれだけ多くの傑出した長所を併せ持っているからだ。

 一つ目に動じない心、二つ目に瞬時に周囲の状況を見渡す力、三つ目にプレーの正確性、そして最後にどんな難局も打開できるという自分の技術に対する絶対的な自信だ。つまるところ、ペドリには様々なプレイヤーの異質な個性が混在している。いまはただ名声に惑わされることなく、これまで通り強い信念を持ってサッカーに取り組み続けることを願うばかりだ。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79〜84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。