10戦無敗で4位の横浜F・マリノスと、8戦無敗で5位のヴィッセル神戸。注目の上位対決が5月9日に日産スタジアムで行なわれる。

『サッカーダイジェストWeb』では、Jリーグの各クラブでスカウティング担当を歴任し、2019年には横浜でチームや対戦相手を分析するアナリストとして、リーグ優勝にも貢献した杉崎健氏に、13節・横浜対神戸の勝負のポイントを伺った。

 確かな分析眼を持つサッカーアナリストは、注目の一戦をどう見るのか。予想布陣の解説とともに、さらに試合展開を4つの状況に分け、それぞれの見どころを語ってもらった。

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●横浜F・マリノス
今季成績(12節終了時※1試合未消化):4位 勝点24 7勝3分1敗 23得点・8失点

●ヴィッセル神戸
今季成績(12節終了時):5位 勝点23 6勝5分1敗 18得点・10失点
 
【予想布陣解説】
 水曜日のルヴァンカップでは、お互いにメンバーを大きく変更して臨んだので、おそらく前節のリーグ戦とほぼ同じになると予想します。

 横浜の布陣は、前節・FC東京戦のスタートと同じ。ただ前節は、後半のある時間から前田大然選手とエウベル選手の左右が入れ替わっていました。それは偶然ではなく、しばらくその形で戦っていたので、おそらく今回も相手のサイドバックとのかみ合わせ次第で、途中で入れ替える可能性もあるでしょう。

 神戸はこの予想した布陣とは、少し違う可能性もあります。とくに両サイドハーフ。先発起用が多い井上潮音選手は、その試合によって左右が変わります。ただ前節に関してはこの並び、中坂勇哉選手が左、井上選手が右でした。さらに怪我なのかは明確に分かりませんが、郷家友太選手が最近出場していないので、もし彼が間に合わないのであれば、前節と同じ形だと考えています。

 またここ最近のトピックスでは、両チームとも新外国籍選手が入ってきて、ルヴァンカップやリーグ戦でも途中から起用され始めています。スタートではないにしても、彼らがどういったタイミングで入ってくるのか。横浜で言えばレオ・セアラ選手、神戸ではリンコン選手などですね。彼らがどのタイミングで入って、試合にアクセントを加えるのかもひとつの注目ポイントです。

 アンドレス・イニエスタ選手に関しては、怪我明けで段階を追って出場時間を増やしている最中であることを考えて、先発ではないと予想しました。いずれにしても、両チームともに違いを生み出せる選手が多く控えているのも楽しみな点ですね。
 
 お互いにGKを含めて自陣からしっかり繋ぐスタイルなので、当然相手はそれをどう抑えていくかがポイントになってきます。

 横浜の自陣からの攻撃での立ち位置で注目すべきは、5番のティーラトン選手と27番の松原健選手の両サイドバックが中に入ってくるかどうか。図に書いたように、例えば神戸は右サイドハーフの井上選手がティーラトン選手を見るのか、それともGKから畠中槙之輔選手にボールが出たときに、前に出るのかというところです。

 仮に井上選手が前に出た場合、ティーラトン選手がフリーになってしまい、ここにセルジ・サンペール選手が守備にいくと、今度はトップ下のマルコス・ジュニオール選手が浮いてしまう。そして最終的に、一番最後尾の菊池流帆選手が前に出る、流動的な守備が求められます。ただ、これを続けられるかどうかです。

 また横浜は、こうした自陣からのビルドアップを繰り返していた前節、きれいに敵陣まで進入できた割合が、わずか3割程度でした。その理由としては、一番前にいる3トップとトップ下の4人にボールがなかなか収まらなかったから。神戸からすればそこにボールを通させなければ、怖くないという話になります。
 
 神戸は当然高い位置でボールを奪いたいので、前述のように連動した守備をします。そこで、サンペール選手がティーラトン選手にプレスをかけて、一瞬フリーになったマルコス・ジュニオール選手にセンターバックから縦パスが入ってしまうと、神戸としては最悪。そういった意味で、サンペール選手と山口蛍選手のダブルボランチが守備で誰を見るのかというのも見どころです。

 普通に考えれば、M・ジュニオール選手に対して、サンペール選手か山口選手がそこへのパスコースを遮断するということがやりたいはず。ただ人数的に横浜は、GKと最終ラインの4人とダブルボランチの計7人。一方神戸は、ダブルボランチを入れても6人で、7対6という構図になる。そこにM・ジュニオール選手まで下りてきた場合、8対6になってしまうので、その数的不利を神戸はなんとかしないといけない。そのバランスも考えたなかで、神戸のダブルボランチが誰を捕まえに行くのかというところです。
 
 横浜が敵陣に進入できた際には、この図のように2列目や3列目の飛び出しがあるかどうかが攻撃の肝になります。それができなかった場合には、中央を経由して逆サイドに展開する。この図でいえば、ティーラトン選手から喜田拓也選手と扇原貴宏選手の真ん中を使って、エウベル選手の右サイドに変えるような展開に持っていくか、それとも中央を飛ばしてティーラトン選手から大きくエウベル選手に一発で展開できるかどうか。そこが神戸の守備の弱みでもあるなかで、横浜がその策を使えるかどうかに注目です。

 当然そればかりではなく、横浜は両ウイングの前田選手やエウベル選手の縦へのスピードをどんどん使ってくるサッカーなので、神戸としてはそれを最優先で抑えたいと思っているはず。その際神戸は、4バックが非常にコンパクトなので、シンプルなクロスボールには対応しやすい。ただ、横浜の攻撃は前田選手やエウベル選手が外に開いて受けることが多いので、そのときに神戸としてはどこまでこれに寄せていくのか。
 
 例えばこの図のように、山川哲史選手が前田選手にアプローチに行ったとき、2列目のM・ジュニオール選手や扇原選手に空いた前のスペースに走り込まれることがある。そういった後ろからの飛び出しをどう抑えるかが重要です。

 また無失点で終えた前節は、サイドハーフの井上選手と中坂選手が一生懸命戻ってきて、一瞬5バックになることもあった。このポジションには、アユブ・マシカ選手や増山朝陽選手もいますが、縦を切って前田選手にパスを出させないような守備も考えられますし、まずは中を締めて外に出させてから、プレスバックで山川選手のサポートをする可能性もある。サイドハーフに誰を起用するのかでも、神戸の自陣での守備における狙いが見えてくるはずです。

 一方横浜は、その隙をどう突くか。神戸の4バックは距離感を短くしてコンパクトにするので、この図のようにガッチリ組まれた状態で崩すのはなかなか難しい。この組織が整う前に、3トップのスピードやテクニックを使って打開したいと考えるでしょう。
 
 神戸も攻撃のスタートは、横浜と同様にGKからグラウンダーで繋ぐ、もしくはGKからのミドルパスで相手のプレスをかわすという方法が多いです。

 神戸はこの図のようにサンペール選手が少し下りて、菊池選手、トーマス・フェルマーレン選手との3人でオナイウ阿道選手とM・ジュニオール選手との3対2を作りたいと思いますが、横浜は両ウイングの前田選手とエウベル選手が前から激しくプレスにくるので、3対4になってしまいます。

 エウベル選手と前田選手が前に出てくるということは、神戸のサイドバック、酒井高徳選手と山川選手がフリーになる。前節の広島戦でもありましたが、GKの前川黛也選手が酒井選手や山川選手に対して、ハーフウェーラインぐらいのところをめがけてロングフィードを出すことが多くあります。彼らふたりはヘディングが強い特長があって、一方でティーラトン選手と松原選手は空中戦にそこまで強いわけではない。なので、そこでの空中戦によって神戸が敵陣に進入できてしまうケースが多くなるのではないでしょうか。
 
 その際、ティーラトン選手と松原選手は、相手のサイドハーフの選手を捨てていく素早い判断をしなければいけない。これが遅れてしまうと、この図のように前川選手からのロングフィードで競り負けてしまい、井上選手に裏に走り抜けられてしまうことも考えられます。

 さらに、中に入ってくる井上選手や中坂選手に対して、横浜のダブルボランチがどれだけサポートにいけるか。彼らふたりは守備面で非常にクレバーで、どこにボールが落ちてくるかの予測力もありますが、そこが一瞬でも遅れてしまうと、一発で裏を取られてしまう。ダブルボランチの守備範囲をサイド、もしくは後ろにどれだけ広げられるかが横浜側の守備のポイントですね。

 また中坂選手と井上選手はもっと下りることもありますし、もう少し中に入ることもあるし、2トップの一角の佐々木大樹選手とポジションが入れ替わることもある。自由に動いて、フリーになれるスペースを見つけるのがうまいふたりなので、そこへの準備を横浜がどれだけできるかも注目ポイントですね。
 
 横浜は、前田選手とエウベル選手が守備に戻れないとダブルボランチの横にスペースが生まれるというウイークポイントがあります。この図のように、中坂選手や井上選手が中に入ってきた場合、横浜のダブルボランチの横、図の中坂選手と井上選手がいるスペースを横浜は誰が埋めるのかが重要です。

 例えばエウベル選手の戻りが遅く、フェルマーレン選手から中坂選手に向けて縦にボールを入れられてしまうと、そこでターンをされて簡単にサイドバックに対して1対2を作られてしまう。横浜としてはそれを避けたいですが、前線の選手が前からプレスをかけて奪いに行くスタンスなので、距離があって守備に戻るのが難しくなります。神戸としては、ここを積極的に使いながらいかにして相手の裏を取っていくかというところです。

 神戸としても両サイドハーフの井上選手と中坂選手に、相手が嫌がるポジションを取らせたいと思っているはず。この図の形に、実際はおそらく佐々木選手や山口選手、サンペール選手も絡んでかなり人数をかけてきます。さらにその選手同士の距離間を約15メートルに保ち、1タッチ2タッチで繋げる技術を持っている選手たちが多くいるので、このエリアでのパス回しに注目です。

 横浜がしびれを切らして、強くプレッシャーをかけたとき、前線に張っている古橋亨梧選手も裏に抜ける準備をしていて、神戸には裏にボールを出せる選手がいっぱいいるので、誰をケアするかというのも横浜にとっては難しい部分です。もしイニエスタ選手が出場したとすれば、ボランチの横というウイークポイントを必ず突いてくる選手なので、彼の立ち位置も着目すべきポイントでしょう。

 したがって一番最後のポイントとしては、一番前の古橋選手や少し下がっている佐々木選手が、どのタイミングで、あるいは誰がボールを持っているときにスピードを上げて裏を取りに行くのか。それが、神戸が敵陣に押し込んでいるときの見どころのひとつとなります。

 また横浜は、この図のような4-2-3-1の形で守備ブロックを組んでいれば、簡単に崩されることはないでしょう。ただカウンターなどで、3トップとトップ下が守備に戻れないというときに、後ろの6人でどれだけ守り切れるか。FC東京戦ではカウンターを抑えるためのリスクヘッジができていた。前節と同じようにそれを遂行できるかというところです。

 両チームともにスピードがある選手、一発で裏へ抜け出せる選手を前線に備えているので、一瞬でも気を抜けばあっという間にボックスまで侵入される。そのうえで、これまでお話させていただいた視点で試合を見てもらえれば、より面白いのではないでしょうか。
 
【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献した。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014〜15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年〜20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝 
2018年:ルヴァンカップ・準優勝 
2019年:J1リーグ優勝