全米女子も日本人選手が優勝した。ゴルフ界にとってもビッグニュースだが、日本人にとっても誇りに思うゴルフ界の快挙でもある。

 松山英樹選手の優勝もこのコラムで取り上げさせてもらったが、余り日にちも経っていないなかでの笹生優花選手(19)の優勝。

 それも日本人同士のプレーオフ。もちろん優勝した笹生さんだけが騒がれるが、準優勝の畑岡奈紗選手(22)も同様に凄いことである。全米オープンという輝かしい舞台で、2人の日本人トップアスリートが最後まで闘ったことは、本当に嬉しいニュースだ。まずは「笹生優花選手おめでとう」。

 日本人のお父さんとフィリピン人のお母さんの笹生さんはお父さんの言う通り、練習に励み、素直に言う通りやっていたら19歳でこの位置に辿り着いたようなニュースが流れていたが、そんな簡単なことではないと思う。

 トレーニングを工夫して片足5キロ、両足で10キロの重りを足首につけて守備トレーニングやバットを降る姿が映像で流れていたのは印象的だった。

 厳しさに耐える誓約書をお父さんと交わして世界一を目指して、本当に世界一になった。

 そして優勝インタビューで涙を流しながら家族に感謝。試合後、ニュースの中でインタビュアーはオリンピックの話題に応える彼女を見た。彼女の答えにプロゴルファーとしての哲学に、僕は心打たれた。

 彼女は「オリンピックの前に、まだ試合(ツアー)がある!」と言った。「オリンピックの話はまだ早い」とでも言うように彼女は淡々と奢ることなく応えていた。

 オリンピックの話題を振ったインタビュアー。ここが日本人インタビュアーが、真のスポーツアスリートのメンタリティが分かっていないちょっとした部分なのだと思った。

 聞き手の気持ちは分かる。日本国籍とフィリピン国籍を持つ笹生さんがどちらの代表で出場するのか? 全米前の日本代表候補としての立ち位置と国民の期待。お母さんがフィリピン人ということによるフィリピンへのリスペクト。日本代表枠に対してのリスペクト……など、聞く方も発展させていきたいという欲があったと思う。

 僕は彼女をプレーヤーとして知らなかった。この全米女子に優勝したことで彼女を知ることになった。その僕は、彼女を応援する「大ファン」になった。

 彼女の言葉は、周りの人たちの期待と違う答えだったかもしれない。

「オリンピックを視野に入れて、オリンピックで金メダルを目指したい」
「日本代表に、フィリピン代表に、本音はなりたい……」
 こんな答えが聞きたい人が多いのかもしれない。

 しかしプロフェッショナルとは、そうした答えとは少し違うのだと思う。僕が言っていることは真面目過ぎて、つまらない意見なのかもしれないが……。
 
 しかしプロフェッショナルとは試合を選んではいけないのである。自分で試合に大小を付けず、どんな試合にも良い準備をして全力で戦う。

 自分のすべてを出す。しっかり努力することが大事なことなのである。

 もちろん大会には大きさがある。スポンサーの大小もあるし、注目の度合いは大会によって異なっている。世界大会と国内大会での大きさは違うし、TV放送の有無もある。

 だからといってプロ選手がそれによってその試合を勝手に下に位置づけるかどうかは、選手によって違う。

 不振にあえいでいる選手はコンディションを上げるため調整する。

 勝つことよりプレーイメージを持つために、何試合後かの勝利を狙うために、試合に望むことはあるかもしれない。しかし無駄な試合は1試合もないはずだ。
 
 試合の位置づけやモチベーションの持ち方は、グループスポーツと個人スポーツは少し異なる。そしてグループスポーツには個人スポーツより難しい側面もある。

 例えば今、行なわれている天皇杯。相手のカテゴリーによっては選手を全員入れ替える場合もある。決してベストメンバーではない状態で試合に臨む。

 ある意味、勝敗は関係なく、リーグ戦優先のメンバーは休ませ、カップ戦用のターンオーバーで望むことはある。

 しかしプロとはやる前から負けて良い試合はひとつもなく、全ての試合で勝利を目指して進まなければならない。やる前から負けて良い試合など存在しないのである。

 選手個々が勝手に試合の価値を決めてはいけない。プレーする選手にとって全てがビックゲームなのである。

 彼女の言う通りオリンピック前に行なわれる試合はオリンピック以上に大切な試合であり、その試合を集中でき、納得いくパフォーマンスが出せて次の試合に繋がっていくのだ。

 サッカーの世界でも勝手に選手が簡単な試合だと決めてしまう時がある。練習試合などは特にそうだ。本番(公式戦)より大事な大きな試合である事も気づかずに望んでしまえば、彼はチャンスを掴めないままプロ人生が終わってしまうかもしれない。

 一般の人たちは一番輝く発表会しか知らず、興味を持てない。その大きな発表会でしかその人を知る機会がない。

 トップアスリートがいつ努力をして、どんな試合を経験して、そこに辿り着いたか、小さな試合も全力で望み、大きな試合で悔しい思いをして、その努力とは想像以上のものなのだ。

 オリンピックだけが全てのように報道されること、そしてオリンピックでメダルを逃せばダメなアスリートのように扱うスポーツの世界ではいけない。

 サッカーで言えばワールドカップの本戦にピークを持っていける監督が良い監督なのか? それとも簡単に出場を決めてくれる監督が良いのか?

 簡単に予選突破を決め、ワールドカップにピークを持って来て勝利させる。

 そこに準備出来ている選手をしっかり選ぶ。選手はいつどこでも、どんな試合でもパフォーマンスをしっかり発揮できるか。

 大きな試合に弱い選手。逆に大きな試合に強い選手もいる。

 小さな試合はないが、格下には強いが格上には弱い。そう表現したら分かりやすいであろう。

 試合を自分で選ばずにどんな人間の期待にも応えられる。そして何かが懸かった試合になればなる程、力を発揮できる選手。これが真のプロフェッショナルアスリートであろう。
 
 彼女はまだ19歳。インタビューを聞くと、彼女のプロゴルファー生活はここからがスタートと感じる。彼女が歩んでゆくゴルフ道が楽しみでならない。この優勝で満足せず、一歩一歩進んでいってほしい。

 日本人が世界に通用することを証明してくれたのはゴルフ界だけではない。少し前には男子100メートルの山縣選手が日本新の9秒95というタイムを出した。五輪直前のこのタイミングでの9秒台だ。野球の大谷翔平も現地ファンやメディアも驚くような進化を遂げている。

 日本サッカーにも注目される舞台で格上に強い選手が育っていってほしい。東京オリンピックを開催するべきかの議論がされているが、どうなったとしても目の前にある試合に集中してベストのプレーを続けてほしい。

 そして世界で闘える選手がひとりでも多く育ち、誰もが誇り高く思う選手が日本のサッカー界に現われてほしい。

 全米女子オープンでの笹生優花さんの優勝で、そう感じた。

2021年6月15日
三浦泰年