東京五輪でベスト4に進出した日本代表が、サッカーファンを魅了するプレーを披露している。例えば、よく「天才」と称される久保建英は、開幕から3試合連続ゴールを奪取。とりわけ、南アフリカとのグループステージ初戦で決めたゴラッソは、「おぉ!」と思わず熱狂する素晴らしい得点だった。

 果たして、サッカーで「天才」と呼ばれる選手たちの脳は、いったいどうなっているのだろうか? 素朴な疑問を明らかにすべく、脳科学者の篠原菊紀氏に話を訊いた。ここでは、「天才脳の全貌」と題して、サッカー選手の頭脳に迫る。

 前編では、創造性溢れるプレーでファンを魅了する「天才的頭脳」への成長要因を解剖。篠原氏が説く脳と感情の深い関係性は、実に面白い研究内容だった。

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――天才脳の特徴は?

「天才脳の機能的特徴はありますが、脳の構造では一般人との差がハッキリしていません。アインシュタインの脳は想像力に関係する側頭頭頂接合部が大きいと解析されている一方、また別の天才を調べた研究では違った結果が出ます。つまり人によってバラバラなので、天才は生まれ持って脳の構造が違う、という実証はされていません。そもそも『天才』という言葉を定義しにくいので研究も難しい。それはサッカー選手における『天才脳』についても同様です」

――でも天才脳は機能的特徴がある。

「はい、脳は変化しながら作り上げていくので、どう成長させるか次第で機能に差が生まれます。そういう研究は行なわれているので、機能的特徴から天才脳は検証できます」

――代表的な研究を教えて下さい。

「バルセロナ時代のシャビ(現アル・サッド監督)を対象に行なわれた研究がありました。画面上で試合映像を見せながら、どこにパスをするか選ばせる実験です。結果は瞬間的に選ばせれば線条体の尾状核頭部が活性化しました。動いたのは運動の開始や維持に関係し、行動と快感を結び付けている場所。サッカーでは例えば『ここにパスを出せば点を取れる』というような経験をしたら発達する脳の一部です。その成功体験を繰り返すと、『パスが通りそうだな』の段階で線条体の尾状核頭部が活性化するようになります。そうなった感性が直感の正体です」

――つまりシャビはパスの成功体験を繰り返してきたおかげで、直感的に最適なパスを出せるようになった。

「まあ、でも誰でも瞬間的な判断をさせれば線条体の尾状核頭部が活性化します。だから脳の構造は変わらないんです。でも直感の“機能性”は違う。シャビは尾状核頭部が良質だからパス成功率が高いんです」

――機能の差が生まれるのはなぜ?

「最大の要因は感情です。パスが通ったなら『上手くいった』と喜び、通らなかったなら『失敗した』と悔やむ。そういう感情が良質な直感を育てます。だから喜怒哀楽を感じることはとても重要です」

――でも例えば直感で失敗を繰り返すと、時間をかけて冷静な判断をするようになってしまいませんか?

「もしそうなったら、直感は養われないですね。じっくり考えた場合は前頭葉が活性化していて、冷静な判断と直感では脳の使う場所が違う」

――つまり天才脳は、喜怒哀楽を感じながら直感的チャレンジを繰り返して作られていく。

「そうです。なので天才脳は生まれ持ったものではないんですよ。極論を言えば、幼稚園生の頃はみんな直感の質に差があまりない。ただ、そこから『成功した! やった!』や『失敗した! 悔しい!』という感情を持ちながら、直感的チャレンジを繰り返すと、『天才』と称されるような選手になれる可能性はあります」
――なるほど、閃きのあるプレーをできる天才は、感情を大事にしながら直感的チャレンジをしてきた。

「そうでしょう。あとは、天才的な直感の話からは逸れますが、サッカーが上手くなるには練習ノートが重要だと脳科学的に言えます。理由は、運動のプランニングや実行に関係する運動野が、実際のプレー中よりも練習ノートを書いている時のほうが活性化しているからです。さらに加えると、スキルや記憶は寝ている間に定着するので、寝る前に練習ノートを書くと効果的。だからトレーニングして、練習ノートを書き、しっかり寝るのも重要です」

――練習ノートや睡眠も重要なのは重々分かりますが、とはいえ反復トレーニングも効果的ですよね?

「もちろんです。『勉強の記憶』とは違って、『スポーツの技の記憶』は反復トレーニングによって無意識化されます。そうなると、意識に関係する脳の表面ではなく小脳が機能するようになります。いちいち脳に回るよりも早いので、サッカーにおけるプレースピードが上がります」

<後編に続く>

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)

※サッカーダイジェスト2021年6月24日号から一部を加筆修正して転載。

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*後編では脳と遺伝の関係性を解剖。ピッチを俯瞰的に把握する空間認知能力について、脳科学で分析してもらいます。