「ここまで来たら気持ちの問題。この先はメダルを取りたいという気持ちの強いチームが勝つ」

 3日の東京五輪準決勝・U-24スペイン戦(埼玉)で115分にマルコ・アセンシオ(レアル・マドリー)に均衡を破られ、0-1で惜敗した直後、キャプテン・吉田麻也(サンプドリア)は改めてこう強調した。

 言葉の裏側にあるのは、もちろん2012年ロンドン五輪の苦い経験だ。ロンドンでの準決勝でメキシコに1-3で敗れた後、カーディフへ移動し、中2日で挑んだ3位決定戦の韓国戦。日本は洪明甫監督(現蔚山現代)が採ったロングボール戦術にハマり、パク・チュヨン(FCソウル)とク・ジャチョル(アル・ガラファ)の2発に沈み、メダルを逃した。
 
「ロンドンの時は燃え尽きてしまった感があった」と吉田も振り返っていたが、まずはメンタル面の切り替えをしっかりすることが最重要テーマだ、同じ悔しさを味わった酒井宏樹(浦和)を含め、準決勝から3決への切り替えの難しさを熟知する両オーバーエージ(OA)選手がいることは、今の日本にとって大きい。「涙も出てこない」と失意を口にした久保建英(レアル・マドリー)らU-24世代の面々も、力強い先輩に導かれ、再び前を向けるはずだ。

 そのうえで、53年ぶりのメダル獲得という最低ノルマをクリアしなければいけない。奇しくも1968年メキシコ五輪の3決もメキシコ戦。今大会も7月25日の1次リーグ第2戦で対峙していて、因縁深い相手なのは間違いない。

 前回を簡単に振り返ると、日本は開始6分に堂安律(PSV)とのホットラインから久保が先制弾をゲット。その5分後には、堂安がVARで得たPKをギジェルモ・オチョア(クラブ・アメリカ)の守るゴールど真ん中に蹴り込み、早々と2点をリードした。その後、相手に主導権を握られる時間帯もあり、終盤にはロベルト・アルバラド(クルス・アスル)の直接FKで追い上げられたが、2-1で逃げ切っている。

 日本戦では攻めあぐんだ印象のメキシコだが、そこからのU-24南アフリカ戦(札幌)を3-0、U-24韓国戦(横浜)を6-3と連続で圧勝。準決勝・ブラジル戦(カシマ)こそスコアレスでPK戦までもつれ込んだが、破壊力は着実に増しているのだ。
 
 大会を通して見ても、セバスティン・コルドバ(クラブ・アメリカ)の3得点を筆頭に、OAのルイス・ロモ(クルス・アスル)、アレクシス・ベガ(グアダラハラ)、エドゥアルド・アギーレ(サントス・ラグナ)が各々2点ずつ奪っている。加えて、右サイドのディエゴ・ライネス(ベティス)や1トップのエンリ・マルティン(クラブ・アメリカ)といった攻撃タレントを擁する。ハイメ・ロサーノ監督は試合ごとにメンバーを入れ替える傾向が強く、どんなメンバー構成で3決に挑んでくるか読めない部分もある。
 
 一方で日本は主力固定が顕著だから、相手は徹底分析し、対策を取りやすい。特に久保・堂安にはタイトなマークをつけてくるはず。場合によっては人数をかけて封じてくるかもしれない。となれば、別の選手がフリーになれるチャンスが増えるということだ。

 今大会数多くのチャンスがありながら得点に至っていない林大地(鳥栖)、スペイン戦で個の打開力を見せつけた相馬勇紀(名古屋)らには得点機が巡ってくる可能性は大いにある。結局、スペイン戦では採らなかったスピードを誇る前田大然(横浜)の1トップ起用という策も有効かもしれない。彼らアタッカー陣は大一番になればなるほど重圧がかかり、フィニッシュの精度を欠くことになりがちだが、とにかく冷静に落ち着いて戦うことを心掛けてほしい。

 セットプレーをうまく活用することも重要ポイントのひとつ。今大会の日本はリスタートからの得点が取れていない。が、メキシコはDFセサル・サンチェス(モンテレイ)が191㎝の長身である以外は、主力の多くが170㎝台とそれほど大きくない。日本も前線のアタッカー陣は小柄だが、最終ラインは揃って180㎝台で、ヘディングに長けた遠藤航(シュツットガルト)を含めてもっとゴールが取れていいはず。久保の直接FKという武器もまださく裂していない。それをガッチリ守ってくる相手を崩すとしたら、止まったボールを確実に仕留めるのが手っ取り早い。そこに関してはこれまで以上に入念な準備をしてほしい。
 
 前回対戦時のように早い段階で先制ゴールを奪えれば、心身ともに楽な状態で戦えるようになる。守備陣は5試合フル出場の谷晃生(湘南)と吉田の疲労は懸念要素の1つではあるが、酒井はU-24ニュージーランド戦(カシマ)を1試合休んで休養十分だし、冨安健洋(ボローニャ)もスペイン戦出場停止だったため、次はフレッシュな状態でプレーできるはずだ。
 
 遠藤・田中碧(デュッセルドルフ)の消耗もやはり不安視される点ではあるものの、いざという時には板倉滉(フローニンヘン)と中山雄太(ズウォーレ)のコンビで行ける。ここまで来たら、ベンチ含めて総合力で戦い抜くしかない。スペイン戦では選手層の差が出る格好になったが、メキシコとは選手の質はそこまで変わらない。むしろ欧州で活躍している選手の数は日本の方が多い。そこは自信を持っていい。

 加えて言うと、日本はカシマでの試合以外はずっと東京近郊のエリアでの試合が続き、そこまで長距離の移動もしていない。トレーニングを高円宮記念JFA夢フィールドのある千葉で行なえているのも大きなアドバンテージだ。ここまでのホームの利点がある五輪は後にも先にも今回だけ。それだけの追い風を受けてもメダルを取れなければ、この先、当分チャンスは巡ってこないと思った方がいい。

 今回のU-24日本代表には歴史を変える責務がある。森保一監督は常日頃からセーフティな戦い方を選択しがちなだが、どこかで大胆な策を講じることも必要かもしれない。多彩な戦い方を駆使して、53年ぶりのメダルを貪欲に掴みにいってほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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