Jリーグは9月18日、J1第29節の10試合を各地で開催。鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアムでは、17位の徳島ヴォルティスと首位を走る川崎フロンターレが激突する。

『サッカーダイジェストWeb』では、Jリーグの各クラブでスカウティング担当を歴任し、2019年には横浜でチームや対戦相手を分析するアナリストとして、リーグ優勝にも貢献した杉崎健氏に、29節・徳島対川崎の勝負のポイントを伺った。

 確かな分析眼を持つプロアナリストは、注目の一戦をどう見るのか。予想布陣の解説とともに、試合展開を4つの状況に分け、それぞれの見どころを語ってもらった。

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●徳島ヴォルティス
今季成績(28節終了時):17位 勝点23 6勝5分17敗 20得点・40失点

●川崎フロンターレ
今季成績(27節終了時※1試合未消化):1位 勝点66 20勝6分1敗 58得点・17失点
 
【予想布陣解説】
 徳島はこれまでの試合から考えても、この11人がベースのようです。今後の日程は1週間に1試合のペースなので、大幅なメンバー変更は考えにくいでしょう。とはいえ、5連敗で得点も取れていない状況なので、攻撃面でテコ入れをする可能性はあります。ただ、宮代大聖が規定により出場できないので、選択肢はあまりないかもしれません。あるとすれば、新外国籍選手のムシャガ・バケンガでしょうか。

 前節からの変更は、右サイドバックです。本来このポジションの岸本武流が名古屋戦で退場処分となり、今節は出場停止。ですから24節の鹿島戦や4節の福岡戦など、岸本が不在だった際に代役を務めていた藤田征也を配置しました。

 相手の1トップはレアンドロ・ダミアンか小林悠か知念慶だと考えられますが、どちらにしても個人で結果を残せることに加えて、フィジカルも強いので、CBはカカと石井秀典にしていますが、ドゥシャンも可能性あるでしょう。

 川崎は、14日に韓国で行なわれたACLラウンド16で蔚山現代FCと対戦し、延長戦を含めた120分で決着がつかず、PK戦の末に敗戦しました。当然ながら、長い試合時間と移動の疲労は相当あるでしょう。帰国してからもおそらく隔離生活でしょうし、精神面での負担も計り知れません。

 それに加え、CBの谷口彰悟ほか大島僚太、旗手怜央、車屋紳太郎など怪我人も多く、山村和也も連戦できる状態か不明確であり、選手起用の選択肢が極めて少ないため、こういった予想スタメンとなっています。

 中盤のジョアン・シミッチ、脇坂泰斗、橘田健人は前回のACLと同じメンバーですが、もしそうだとするとこの3人は連戦に。最前線は、ほかのポジションに比べて怪我人が少ないので、過密日程を考慮して両ウイングにはここまで出場時間の短い宮城天と遠野大弥を置きました。もしかするとそれに応じて中盤の人選を変えることもあるかもしれません。

 川崎のシステムは、これまでずっと4-3-3ですが、試合中に立ち位置を変えることも多くあり、ACLでも途中から脇坂が一列前に出てJ・シミッチと橘田をダブルボランチにしたり、ルヴァンカップでは小林と知念の2トップに変更したこともあって、鬼木達監督のなかでは4-4-2の選択肢もありそうです。怪我人や、中盤の3人がかなり疲弊していることを考えれば、2トップでスタートすることも考えられます。

 また気象条件としては、台風が迫ってきていて、徳島のホームスタジアムは非常に風が強いことでも有名なので、晴れていたとしても風が強まる可能性が大いにあります。さらに予想最高気温が32度と、環境も試合展開に影響をもたらしそうです。
 
 これまでは、ほとんど岸本が右サイドバックで出ていて、そのメリットを生かした戦術で挑んでいました。しかし今回は岸本が不在なので、どういったビルドアップの仕方をするのかに注目です。

 岸本は高い位置をとって後ろの形を変化させることができますが、マンチェスター・シティのカンセロのプレーが、カンセロロールと言われているように、徳島の場合は“岸本ロール”と名付けさせてもらいました。この役割、岸本ロールを藤田にそのままやらせるのかというと、鹿島との試合でもやらせていた印象はなかったので、オーソドックスに4-4-2や4-2-3-1でビルドアップする可能性が高いです。

 そのなかで間違いなく取り組むのは、ボランチの岩尾憲が下りて受けるということ。この形を藤田の場合にやるのかもひとつの注目ポイントです。

 とはいえ相手は川崎。プレッシングの強度、ボールを奪う技術はかなり高いので、図のように単純に岩尾が下りてしまうと、脇坂がついてきて結局ここで岩尾がボールキープできないケースも考えられます。ですから、脇坂に捕まらないように、左CBの石井と左サイドバックの福岡将太のあいだに下りてくるなど、工夫が必要です。
 
 また下りない場合は、アンカーに岩尾だけを残して鈴木徳真が前に上がることで、左に流れる渡井理己にJ・シミッチがついていき、真ん中のスペースが空くことも考えられる。こうした中盤の3人の動きを見ても、徳島のビルドアップの狙いが見えてくるでしょう。

 対して川崎は、気温と風と疲労を考えたうえで、どこまで前からプレスをかけられるかです。これまで通りのシステムであれば問題ないかもしれませんが、4-4-2にした場合は中盤のマークにズレが生じる。これまでチームの基準としてきた、4-3-3でインサイドハーフが前からプレッシャーをかけることを今回もするのかも要チェックです。

 徳島に岸本がいないため、右サイドの選手の動きも、おそらく川崎からすると予測しにくい部分でしょう。とくに徳島の右サイドハーフは、中寄りに位置を取る傾向があるので、これに対して登里享平がついて行くのか、行かないかという判断が重要。図の赤いエリアで相手に出口を作らせないことがカギになってきます。
 
 徳島が相手を敵陣に追いやったというケースでは、岸本が不在の右サイドよりも左サイドが中心となると想定をしています。

 パスの配球役としては、やはり岩尾が中心となります。そこから、起点となるためにワイドに開いている西谷和希に預けて、彼のキープ力を生かすことを前節の名古屋戦もやっていました。

 そのなかで、赤丸で囲っているような少し左のハーフスペース、川崎のアンカーの脇がポイントになってきます。ここをベースにしながら、西谷が日本代表の山根視来との1対1で突破できないとき、3人目の動きで最前線の垣田裕暉らが縦に裏抜けしてサポートする。これにより、相手のCBが引っ張り出され、空いたスペースで受けたボランチの岩尾か鈴木徳がミドルを狙うこともできるでしょう。

 ほかにも、岩尾が逆サイドに展開するということもこれまでありましたが、今回は右サイドが岸本ではないので、どれだけ左右に振るかは読みづらい点です。ただ、サイドに展開できている試合では、ボックス内に人数をかけることができていて、チャンスになっていることも多いです。徳島が得点を取れていないひとつの要因は、クロスを上げるときに中の人数がいないことにあるので、いかにこの課題をクリアできるかにかかってきます。
 
 川崎の守り方としては、岩尾に展開されないように、ウイングがいかに戻れるかどうかがひとつの基準。また3センターが、サイドを変えさせないようなプレスのかけ方やスライドの仕方も大切です。

 そこでスライドを横にするのは簡単ですが、ここでは縦のスライドがポイント。ACLでもやっていましたが、脇坂を前に出して橘田を下げるといった上下にスライドすることで、ダブルボランチのような形になり、狙われそうなJ・シミッチの脇のスペースを埋めることができます。

 この際に、右サイドから中に入ってくる浜下瑛を橘田がケアしておくことも必要です。前回のACLでも、約70分以降は疲労が見えて選手間の距離が広がっていました。この状況で守備をするのは難しいので、選手交代などの策も含めて、川崎はどこまでカバーできるかが見どころです。
 
 川崎の自陣からの攻撃では、ルヴァンカップでも自陣で奪われて、カウンターから失点したシーンがありました。最近はビルドアップがうまくいかないケースが少し多いなかで、ACLでも鬼木監督からCBに、「難しかったらロングボールでいい」との指示があったそうなので、ロングボールでL・ダミアンのキープから敵陣に仕掛けることも考えているようです。ですから、CFにどれだけボールが収まるかも重要です。

 また、セカンドボールに対する3センターの立ち位置も大事で、ビルドアップするときに、図のように中盤の3枚がボールを受けに行くと、図の赤い線のように相手がついてきて、完全に1対1になってしまいます。

 このときに、相手は1トップで川崎はGKと2CBがいて数的優位なので、あえて中盤が下りてこないという選択もできます。それにより、図の赤いエリアのようなスペースが生まれることで、最終ラインで逆サイドに素早くボールを振って、赤いエリアのような数的優位を使って前進していくことが可能です。
 
 一方の徳島は、最近は前から激しくプレッシャーにいく姿勢が見られないのですが、相手が遠征などにより身体が重いことを考えると、今回は積極的にプレスをかけにいくことも予想できます。システム的にも相手とのかみ合わせが良いので、あとは球際に強い川崎に対し、徳島の選手たちがどれだけ上回れるかでしょう。

 ダブルボランチに関しても、前節の名古屋戦では前に出ないという選択をしていました。ただ今回で言えば、例えば中盤の脇坂がボールを受けに下りたときに、どれだけついていけるかが重要な点なので、今節は前に出ていくでしょう。このダブルボランチの“出る・出ない”によって徳島の狙いが見えてきそうです。

 徳島は、川崎が相手のプレスに苦戦したACL蔚山戦もチェックしているでしょうから、あのぐらい激しく守備に行こうとミーティングで話をしているかもしれません。
 
 川崎の鬼木監督は、1試合3点以上という目標を掲げてきましたが、最近はほとんど3点以上取れた試合がなく、むしろ1点を奪うのもようやくという状況が続いています。

 それは主力選手が移籍した影響だけではなく、やはり怪我人と過密日程によるところが大きいので、毎試合人選を変えなければいけない川崎は、連係不足にも悩まされています。今節も前線の3人が変わりそうなので、おそらく苦労するでしょう。そのなかで3トップのスピードや裏への抜け出しの上手さなどの特長を生かす必要があります。

 サイドを単独で突破できる選手が移籍してしまったなかで、図のような裏への動きとパスの配球で効果的に崩していくためには、脇坂がハーフスペースに顔を出しつつ、3人目で裏を取るといった狙いが有効でしょう。

 ACLの蔚山戦でもそういったシーンは多少見られ、家長昭博からJ・シミッチにボールが入り、裏に飛び出した3人目の脇坂を使う場面がありました。最後は脇坂のシュートがミスキックになって外れ、川崎が狙いとしている形なだけに、中継カメラに抜かれた鬼木監督が非常に悔しい表情をしていました。間違いなくどんな相手でも通用するので、今回もどれだけこの形を作れるかが勝敗の行方を左右しそうです。

 また川崎はシュート数自体も非常に減ってきていますが、それはきれいに崩そうとし過ぎて、そもそものシュートの意識が低いことが原因だと考えています。そのうえで、ウイングの選手たちも、足もとばかりに要求するのではなく、どんどん裏を狙っていくことも重要な点です。この課題を短い準備期間でどれだけ修正できたかに注目です。

 4バックの人選も変わりそうな徳島は、川崎を相手にマークの受け渡しなどの基礎的な守備を90分間どれだけ維持できるかです。とくにサイドバックの裏のスペースからピンチを作られることが多いので、ここを誰がケアしていくのかがポイントになってきます。

 あとは、名古屋戦の途中までは両サイドハーフが一生懸命戻ってきて、選手間の距離がきれいに整った4人・2列のブロックを組んだ際は、相手になかなか崩されていませんでした。どれだけ中央のスペースを消して、コンパクトに守り続けられるかが大切です。
 
【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014〜15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年〜20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝 
2018年:ルヴァンカップ・準優勝 
2019年:J1リーグ優勝