苦しい敗戦の中で広島の守護神らしさが光った。サンフレッチェ広島は15日、明治安田J1リーグ第14節で鹿島アントラーズと対戦し、1−3で敗れた。2試合連続で3失点を喫したが、フル出場したGK大迫敬介は好セーブで存在感を示した。


 広島は鹿島戦前の直近5試合で4分1敗。どの試合も失点が続いて、勝利から遠ざかっている。大迫も失点に絡むミスが続き、これまで幾度となくチームを救ってきた守護神らしさが影を潜めていた。


 6日の名古屋グランパス戦は開始直後の判断ミスが失点に直結し、チームも2−3で敗戦。試合後には沈んだ表情で「自分がゲームを壊してしまったので責任を感じます」と自身のミスに向き合い、「しっかり自分を見つめ直して、チームの力になれるように頑張りたい」と努めて前を向いていた。


 今季初黒星を喫した名古屋戦から今節の鹿島戦までは中8日。広島は厳しい連戦を一旦終えて、ひと息つける機会に恵まれた。その期間に大迫は自分自身と向き合った。「自分で納得できるぐらいトレーニングができたし、映像を見返して原因を突き詰めて整理ができた」。ミスを引きずっていたことを自覚し、自分らしさを取り戻すことに集中した。


「どうしても失点に絡んでしまうと、次は同じ失敗を繰り返さないようにと思ってしまって、その思考がよくなかったと思う。自分のいいところは思い切って決断して、それをしっかり完結させるところ。もっと最初の直感を信じて、思い切って決断していきたい」


 そんな守護神にミヒャエル・スキッベ監督からも「これまで見せていたパフォーマンス、『これが大迫敬介だ』というのをもう一度見たい」という言葉をかけられていた。


 指揮官は鹿島戦の前日、「今週話をして、スッキリしているようだし、また”いい大迫敬介”が見られると思う。ここまで2年半、いいサッカーができていた中で大きな部分を担ってきた選手だから、2つ3つミスしたところで問題はない」と変わらぬ信頼を口にしていた。


 大迫も「自分のことを信頼し続けているという話をしてもらえた」と監督との会話を明かし、「いつも通りの自分のプレーを出したい」と鹿島戦に向けて意気込んでいた。守護神の表情は晴れやかだった。


「(ミスを)引きずってないように見えていたけど、やっぱり引きずりますよね。でも、1回(連戦が)途切れたことで、また自分に戻れた気がします」


 迎えた鹿島戦。大迫は「これまでずっと自分がゲームを難しくしていたので、そういうリスクを避けながらプレーした」と振り返ったが、チームとしてはまたも試合の入りで崩れた。開始5分にCKからDF植田直通にパワフルかつ正確なヘディングシュートを沈められると、15分にはFW鈴木優磨にPKを決められて2失点。PKのシーンで大迫はコースを読み切って手に当てたが、力強いシュートを弾き切れず、「あれだけ触ったら、かき出したかった」と悔しさを噛み締めた。


 65分にはMFマルコス・ジュニオールが反撃のゴールを決めて勢いづいたが、84分にFWチャヴリッチの追加点を許して鹿島に勝負を決められた。大迫はこれまで続いていた失点に絡むミスこそなかったが、チームとしては痛い3失点。特に前節に続いて序盤に連続失点を喫し、「守備陣として立ち上がりはもっと締めないといけないし、まずは試合の入りで集中することが大事」と反省した。


 ただ、再び苦しいスタートになったが、そのなかでも大迫は切り替えていた。後半には好セーブを連発。73分、チャヴリッチにペナルティエリア内へ抜け出されてピンチを迎えたが、至近距離からのシュートを堂々と構えてブロック。78分にはDF濃野公人の強烈なミドルシュートを好反応で防ぎ切った。


 反撃で前がかりなチームを救った連続ビッグセーブ。まさに「これが大迫敬介だ」というプレーが戻ってきた。本人は「失点しても崩れないメンタリティは大事なので、今日はそこでひとついい感覚がつかめた」と胸を張りつつ、「それを今度は無失点を続けるためのプレーにしたい」と次に目を向けた。


 次節は中3日で19日に京都サンガF.C.とアウェイで対戦する。6試合勝ちなしで、また連戦が始まったが、まずは敗戦を引きずらず、前を向いて戦いたい。「もっとチームに貢献したいし、まだまだ自分らしいプレーを取り戻さないといけない」。広島の最後尾に戻ってきた“大迫らしさ”が、またチームの背中を押すはずだ。


取材・文=湊昂大