FC東京U−18からアメリカ留学の道を辿ったGK高瀬和楠の挑戦「ただのサッカー選手にはなりたくない」

FC東京U−18からアメリカ留学の道を辿ったGK高瀬和楠の挑戦「ただのサッカー選手にはなりたくない」

「サッカー選手がサッカーだけをする時代はもう終わったと思う」。そう語る高瀬和楠は、同年代の他の選手とは少し違った視点でサッカーと向き合っている。だからこそ、FC東京U−18を卒団後、アメリカにサッカー留学するという異色の挑戦に迷いはなかった。「ただのサッカー選手にはなりたくない」彼が思い描く未来図とは――。


「プロになる」か、「国内の大学でサッカーを続ける」か――。クラブユースを卒団した高校生の大半は、この2つのいずれかの道を辿る。しかし2018年夏、FC東京アカデミー出身のGK高瀬和楠は、海外留学という“第3の選択肢”を選び、アメリカ・フロリダ州にあるサウスフロリダ大学に進学した。


「自分の知らない世界に行ってみたい。自分の可能性を広げたい」。そう語る高瀬は、初めから海外に興味があったわけではなく、勉強熱心だったわけでもない。高校に入学した頃の彼はむしろ“真逆”だった。


「高校に入ったばかりの頃は、勉強なんか全然していなくて、サッカーだけやってればいいやって思ってたんです。プロになって、サッカーで生きていけばいいやって。まさに『ザ・サッカー少年』っていう感じの考え方ですよね(苦笑)」


 そんな彼の価値観を様々な“出会い”が変えていった。


「勉強を全然していなかった分、時間は結構あったので、人と出会う機会がありました。そこで、世の中にはいろいろな人がいること、自分と変わらないぐらいの年齢でも、サッカー以外の分野で“すごいこと”をしてる人がいっぱいいることを知った。それで、『自分はサッカー以外に何ができるんだろう?』と考えるようになって、『アメリカに行こう』という答えに行き着いたんです」


「アメリカ」が選択肢に浮かんだきっかけは、高校1年の春休みに参加した遠征にある。FC東京U−18は『ダラスカップ』に出場し、複数の海外クラブと対戦した。同年代の世界のレベルを肌で体感しただけでなく、遠征中にはFCダラスの施設を利用したり、トロントFCのGK練習に参加したり、シカゴ・ファイヤーとトレーニングマッチを行ったりと、MLS(メジャーリーグサッカー)のクラブや選手と関わる機会も設けられた。


 アメリカのサッカー界は、歴史こそヨーロッパや南米諸国と比べて浅いものの、昨今は急激な成長を遂げている。アメリカおよびカナダのプロサッカーリーグであるMLSの観客動員数はJリーグを上回り、近年では元スウェーデン代表のズラタン・イブラヒモヴィッチや元イングランド代表のウェイン・ルーニーといった世界的スター選手も次々にヨーロッパからアメリカへと活躍の場を移したことで、国内外から注目を集めている。


 また、アメリカは野球やバスケットボールをはじめとしたカレッジ・スポーツが栄えている国でもある。MLSの発展に伴って、大学サッカーリーグも熱気を帯び、強豪大学には充実した設備が整えられている。スポーツビジネスを学ぶ環境は、まさに世界トップクラス。現地で目にしたすべてのものが新鮮に映り、高瀬の好奇心をくすぐった。


「大学での4年間という時間で“人としての価値”をできるだけ高めたいと考えた時、日本の大学では少し物足りないなと感じました。アメリカに行けば、スポーツやビジネスについて最先端の勉強ができて、サッカーのレベルも発展途上で勢いがある。もちろん、日本人のGKが海外でプレーすることの難しさは絶対にあると思います。まず、身体の大きさや言語の壁にぶつかるはず。でも、だからこそ、僕は早めに海外に行ったほうがいいと思っています。学生のうちに言語や文化に慣れて、なおかつプレーのレベルも向上できれば、プロになった時に必ず生かせるはずですから」


◆奨学金を巡る部内競争…「感覚的にはプロに近い」

 高瀬はFC東京や代理人のサポートを得て、高校3年の5月にサウスフロリダ大学のトライアウトを受けにいった。このトライアウトは「サマーキャンプ」のような位置付けで、参加者の中には中学生や小学生もいた。サウスフロリダ大学のような強豪大学では、選手の大半をスカウトによって獲得しており、トライアウトを経由して入部する選手はほとんどいない。ただ、トライアウトで高い評価を受ければ、奨学金の受給額を増やしてもらえたり、入学のために受ける学力テストの合格点を下げてもらうことができる。


 トライアウトに合格した後には、『SAT』と『TOEFL』という2つの学力テストを受ける必要がある。日本の大学のスポーツ推薦とは異なり、アメリカの大学ではサッカー部への入部が決まっても、大学への入学が認められるわけではない。


 高瀬が本格的な受験勉強を開始したのは、高校3年の12月、高円宮杯チャンピオンシップを終えてチームを卒団してからだった。トライアウトの結果、合格に必要な点数を最低ラインまで下げてもらうことができたが、それでも高瀬には“猛勉強”が必要だった。


「僕は高校を選ぶ時、『勉強するのが嫌だから』という理由で偏差値の低い高校を選んだくらい、勉強が苦手でした(苦笑)。まずは『be動詞』の使い方を覚えるところからスタートして、FC東京U−18を卒団してからTOEFLのテストまでの3カ月間は、もう必死でした。でも、語学は勉強した分だけ必ず伸びます。こんな僕でも合格できたんですから」


 海外留学には、金銭面のハードルもある。アメリカでは、国外から留学してくる学生の学費が高く設定されているのだ。さらに、サウスフロリダ大学では、大学からサッカー部に振り分けられる奨学金は、全選手に均等に分配されるのではなく、各々のプレーの評価によって金額が定められる。そのため、各選手が分配額をめぐって熾烈な争いを繰り広げる。契約更新時期には選手自らが監督やスタッフに交渉することもあり、「感覚的にはプロに近い」という。


「僕の家は特別お金持ちではないですし、日本の大学にスポーツ推薦で入ることができれば、学費の全額免除を受けられる大学もあったと思います。それを選ばず、アメリカに行き、4年間でもらえる奨学金の金額もはっきりしないというのは……お金を出してくれる親に対しては、心苦しかったです」


進路相談を両親に持ちかけた当初は、「メチャクチャ反対されました」と苦笑いする。金銭の問題だけでなく、異国の地に我が子を送り出すことへの不安という親心もあっただろう。「僕も親も頑固なので(苦笑)、何時間も話し合いました。『どうしても行きたい』とひたすら言い続けて、最後は僕の“粘り勝ち”です」。最終的に両親は、「アメリカで思いっきりやってきていいよ」と背中を押してくれた。


◆ユース時代から見せていた“計算込み”のパフォーマンス

 幼い頃、プロサッカー選手に憧れたのは、「カッコいいから」、「目立てるから」、「サッカーが好きだから」。そんな理由だった。だが、視野が広がると、「プロサッカー選手になりたい」という夢はゴールではなく、目的を達成するための手段の一つになっていた。「MLSでプロになりたい」と公言する高瀬が目指すのは、「社会的な影響力を持つこと」だ。


「僕の考えですが、サッカー選手がサッカーだけをする時代はもう終わったのかなと思っています。サッカー選手が会社を経営してもいいし、サッカーとは全然違うことをしてもいいんじゃないかなって。もちろんサッカーで上を目指したいですけど、ただのサッカー選手にはなりたくないんです。なぜなら、サッカー選手になることで、できることがすごく増えるから。例えば、何かの寄付金を集めるとしても、一般人が呼びかけるのと、サッカー選手が呼びかけるのとでは影響力が全然違います。そんなふうに“できること”を増やすために、『サッカー選手になりたい』と今は考えています」


 プロサッカー選手が持つ社会的影響力の強さを生かしている人物の例として、高瀬は元日本代表FW本田圭佑の名を挙げた。


「本田選手は、僕が目指しているサッカー選手像の一つです。言動が批判されてしまうこともありますけど、おそらく本田選手の“計算どおり”だと思うんですよ。世間が過剰に反応すればするほど、結果的に本田選手は注目を集めることができていますし、支持してくれるファンも多くいます。今の日本人選手の中では、彼が真のプロフェッショナルだと僕は思っています」


 実は高瀬も、そういった“計算込み”のパフォーマンスをしていたことがある。高瀬の代のFC東京U−18は、3年次にユース年代3冠を達成している。その優勝セレモニーにおいて、高瀬がカップを掲げると、チームメイトは誰一人として呼応しない、という“お約束”のくだりがあった。もちろん、チームのムードメーカーとして愛される彼のキャラクターがあってのものだったが、「あのパフォーマンスをすることで、結局、自分が一番目立てるんですよ。それがきっかけで自分のことを知ってくれた人もいるかもしれない。そして認知度が高まっていけば、SNSなどで何かを発信した時の拡散力が上がります。そういった“計算”は少なからずありました」


 現在、高瀬は大学在学中にできることとして、サッカーでの海外留学を志す学生のサポートを行っている。SNSをとおして、見ず知らずの学生から進路に関する悩み相談の連絡を受けることもあるそうだ。


「僕がアメリカに行くと発表した時、『いいなぁ』とか『僕も行きたかった』と言ってきた人は何人もいたんですけど、彼らみんなが共通して口にしていたのが『行き方がわからない』とか、『どういう場所かわからない』という不安でした。だから、僕がアメリカでの学校生活の様子を伝えたり、相談に乗ったりすることで、多くの人に新しい選択肢が広がっていけばいいなと思っています」


◆「FC東京のおかげ」…愛するクラブへの感謝を胸に

「MLSでプロになる」ことの先には、ヨーロッパでのプレーも夢に描いている。では、高瀬の未来予想図の中に、「日本でプレーしたい」という気持ちはないのか。


「今は、自分の目指しているビジョンがあって、それに向かって進んでいるので、『日本で』とか『Jリーグで』という気持ちはあまり持っていません」


 もちろん未来のことは分からない。ただ、FC東京への想いだけは、高瀬の中にはっきりと存在している。


「今まで試合に出られず、サッカーが全然楽しくなくて辞めそうになるたびに、何度も仲間や指導者の方に助けてもらいました。FC東京にいると、どこに行っても『頑張れ。応援してるから』って言われるんです。親、友達、ファン・サポーターの皆さん。そういう方たちの支えがあって、今の僕がいる。FC東京に入っていなければ、ここまでサッカーを続けていなかったと思います。FC東京じゃなかったら、アメリカの大学に行くこともなかったと思う。僕はFC東京というクラブが好きで、そこで出会った仲間のことがすごく好きなんです」


 アメリカ留学という大きな決断を下した原点には、FC東京がある。スクールに通い始めた小学生からU−18を卒団するまで、FC東京で培った経験や、FC東京をとおして築いた人間関係があって、今の「高瀬和楠」がいる。愛するクラブへの想いは、遠く離れた地でも高瀬を支える力になっている。


「いつかFC東京に恩返しをしたいと思っています。ただ、プロになってFC東京でプレーすることだけが“恩返し”ではなくて、いろいろな方法があると思うんです。だから、アメリカで、自分にとってベストな“恩返し”の方法を考えたい。また、FC東京のファン・サポーターの皆さんの耳や目に僕の活躍が届く日まで、楽しみに待っていてください」


取材・文=平柳麻衣


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