2021年のクリスマスに打ち上げられ、約半年後の2022年夏に正式稼働した「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、次世代の望遠鏡としてその成果が期待されています。

ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線望遠鏡として設計されていますが、その理由の1つに深宇宙探査があげられます。この宇宙は膨張しているため、遠い天体を発した光は空間を伝わって地球へ届くまでの間に波長が引き延ばされます。これは「宇宙論的赤方偏移」と呼ばれる現象です。遠くの宇宙を観測することは、それだけ古い時代の宇宙を観測していることを意味しますが、初期の宇宙に存在する天体が放った紫外線は、地球に届くころには波長が伸びて赤外線になっています。初期宇宙の天体に由来するかすかな赤外線を観測することは、ウェッブ宇宙望遠鏡に期待されている成果の1つなのです。

【▲ 図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで撮影されたGLASS-z10 (左側) と GLASS-z12 (右側) 。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Tommaso Treu (UCLA), Zolt G. Levay (STScI)) 】

【▲ 図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで撮影されたGLASS-z10 (左側) と GLASS-z12 (右側) 。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Tommaso Treu (UCLA), Zolt G. Levay (STScI)) 】

ウェッブ宇宙望遠鏡を使った主な深宇宙探査プログラムには、「GLASS (Grism Lens-Amplified Survey from Space)」と「CEERS (Cosmic Evolution Early Release Science Survey)」の2つがあります。今回はそのうちのGLASSから、「ちょうこくしつ座」にある銀河団「Abell 2744」付近で見つかった超遠方の天体「GLASS-z12」と「GLASS-z10」に関する報告を取り上げます。

GLASS-z12GLASS-z10は、それぞれ宇宙誕生から3億3000万年後と約4億3000万年後の宇宙に存在した天体です。名称のうち「GLASS」はプログラム名に因んでいて、その後に続く英数字は赤方偏移の値を表します。2つの天体の赤方偏移の値は、GLASS-z12がz=12.4、GLASS-z10がz=10.4でした。

【▲ 図2: 今回GLASSで観測された2つの遠方の天体の新旧の値。赤方偏移の値が変わっているため、名称も変わっている。 (Image Credit: 彩恵りり) 】

【▲ 図2: 今回GLASSで観測された2つの遠方の天体の新旧の値。赤方偏移の値が変わっているため、名称も変わっている。 (Image Credit: 彩恵りり) 】

実はこれらの天体は、2022年7月19日にプレプリントサーバーのarXivに投稿された論文で、それぞれ「GLASS-z13」および「GLASS-z11」として報告された天体と同じものです。名称に含まれている数値が異なることからわかるように、当時示された赤方偏移の値はそれぞれz=13.1とz=10.9でした。

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その後の観測値の精査によって、赤方偏移はそれぞれ少し小さな値となりました。同年10月25日には論文の第2版がarXivに投稿され、同年11月17日に査読誌のThe Astrophysical Journal Lettersで公開されたことで、正式な名称が決定された形です。

今回発見が報告されたGLASS-z12などの天体は、これまでに知られている最も遠い天体というわけではありません。2022年4月には、これよりも大きいz=13.27の値を持つ銀河候補天体「HD1」の発見が報告されています。

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また、ウェッブ宇宙望遠鏡を使う別のプログラムであるCEERSも多数の遠方天体の観測を報告しており、その中にはz=16.74の値を持つ「CEERS 93316」があります。これは観測史上最遠の天体の1つです。

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それでもなお、GLASSの報告も注目されます。同プログラムではGLASS-z12とGLASS-z10の他にも、赤方偏移の値が9から15の天体を6個観測しています。驚くべきなのは、これらの天体がわずか4日間の観測で見つかったことです。従来は同じくらい遠方の天体を探るために、複数の望遠鏡で観測された数百日分以上のデータを照合する必要がありましたから、ウェッブ宇宙望遠鏡の登場によって時間が大幅に短縮されたことがわかります。

また、今回の観測では、遠方にありながらも明るい天体が予想外に多いことがわかりました。これは初期宇宙に関する見方を変えるかもしれません。宇宙で最も古い光は、「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる宇宙誕生から約38万年後の出来事に由来するマイクロ波です。これは「宇宙マイクロ波背景放射」として知られています。宇宙の晴れ上がりの後、宇宙に満ちた水素とヘリウムが集まって恒星となり、恒星の集団が初期の銀河を作るまでの間、宇宙では光を発するものが何もない「暗黒時代」が続いていました。

今回の観測に基づくと、宇宙の暗黒時代が終わったのは宇宙誕生から約1億年後ということになりますが、これは従来の予想よりも早い時期です。 “明るい天体が予想外に多い” とは、このことを意味します。

遠方の宇宙の性質には未知の点が多く、赤方偏移の値を解釈することには困難が伴います。今回の研究成果も途中で値が変更されたように、今後も何らかの変更があるかもしれません。そのことも含めて、まだ観測が始まったばかりのウェッブ宇宙望遠鏡による成果は引き続き注目されるところです。

 

Source

Rohan P. Naidu, et.al. “Two Remarkably Luminous Galaxy Candidates at z ≈ 10–12 Revealed by JWST” (The Astrophysical Journal Letters) Marco Castellano, et.al. “Early Results from GLASS-JWST. III. Galaxy Candidates at z ∼9–15”. (The Astrophysical Journal Letters) Ray Villard & Christine Pulliam. “NASA's Webb Draws Back Curtain on Universe's Early Galaxies”. (STScI)

文/彩恵りり