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【▲ 2015年NASAの探査機ニュー・ホライズンズが撮影した冥王星(Credit: NASA/JHU-APL/SwRI)】

観測者から見て近くにある見かけの大きな天体が、遠方にある天体を完全に隠す現象を「掩蔽」(えんぺい)と呼びます。ちなみに、月による掩蔽は「星食」と呼ばれることがあります。その掩蔽を利用して冥王星の大気密度(大気圧)の測定が行われています。

2021年10月4日、サウスウエスト研究所(SwRI: Southwest Research Institute)は、2018年8月15日の夜に冥王星による恒星の掩蔽を観測した結果を発表しました。サウスウエスト研究所主導の天文学者チームは、冥王星の大気の変化を観測するために、米国とメキシコの複数の場所に望遠鏡を配備しました。その結果、冥王星が太陽から遠ざかるにつれて、大気が再び表面で凍結し、消え始めているという現象(大気密度の低下)を確認し、その証拠を見つけました。

「科学者たちは1988年以来、冥王星の大気の変化を監視するために掩蔽を利用してきました」とサウスウエスト研究所のエリオット・ヤング(Eliot Young)博士は語っています。

「NASAの探査機ニュー・ホライズンズは、2015年冥王星に最接近し、大気密度の測定を行い、詳細なデータを取得しました。これは、冥王星の大気圧が10年ごとに倍増する傾向にあることと一致していますが、2018年の観測では、その傾向が2015年以降も続いていることは確認されていません」

米国とメキシコの複数の場所に配置された望遠鏡により観測された「セントラルフラッシュ」を含むW字型の光度曲線(Credit: NASA/SwRI)

【▲ 米国とメキシコの複数の場所に配置された望遠鏡により観測された「セントラルフラッシュ」を含むW字型の光度曲線(Credit: NASA/SwRI)】

冥王星の大気が背後にある恒星の光を屈折させることによって引き起こされる、「セントラルフラッシュ」(central flash)と呼ばれる閃光現象を観測することがあります。

大気を持つ天体による掩蔽を観測した場合、背後の恒星の光は大気を通過するとき、徐々に暗くなり、その後、再び徐々に明るさが戻ります。つまり、U字型の光度曲線を描きます。

ところが、今回の観測ではセントラルフラッシュが発生し、W字型の光度曲線に変わりました。このセントラルフラッシュは「これまで誰も見たことがないほど強いものでした」とヤング博士は語っています。セントラルフラッシュは、掩蔽による大気密度の測定に関する正確な情報を与えてくれます。

地球と同じように、冥王星の大気の主成分は窒素です。しかし、地球とは異なり、冥王星の大気はその表面にある窒素を主とした氷の蒸気圧によって支えられています。つまり、表面温度がわずかに変化するだけで氷は昇華し、大気の密度が大きく変化します。

準惑星である冥王星の軌道は、太陽系内の8つの惑星と異なり、離心率が大きく真円からはかなりはずれた軌道を描いています。そのため、近地点は太陽から約30天文単位(1天文単位は地球から太陽までの距離)であるのに対して、遠地点は約50天文単位にもなります。

過去四半世紀の間、冥王星は太陽から遠ざかっていたため、太陽光を浴びることが少なくなっていました。それにもかかわらず、これまで、冥王星の表面圧力と大気密度は増加し続けていました。科学者たちはその原因を「熱慣性」(thermal inertia)として知られる現象によるものではないかと考えています。

例えるならば、太陽がビーチの砂を加熱するようなものです。太陽光は正午頃に最も強くなりますが、砂は午後の間も熱を吸収し続けるので、午後遅くの時間帯に最も熱くなります。冥王星の表面の窒素貯留層が表面の下に蓄えられた熱によって、これまで温められていたことを示唆しています。今回の新たなデータは、一転して冥王星が冷え始めていることを示していると言えるでしょう。

現在知られている最大の窒素貯留層は、ハート型のトンボー地域の西側部分を構成するスプートニク平原です。

冥王星のハート型は外観として目を引くだけでなく、まだまだ探求すべき未知の魅力を秘めているようです。

 

関連:冥王星を離れゆく探査機「ニュー・ホライズンズ」が見た氷の地平線

Image Credit: NASA/JHU-APL/SwRI、NASA/SwRI
Source: SwRI(Southwest Research Institute)
文/吉田哲郎