日本記録更新もレース結果は12位

アメリカのオレゴン州で5月29日に行われた陸上競技会「Portland Track Festival(ポートランド・トラック・フェスティバル)」の男子1500mで、荒井七海(ホンダ)が日本記録を更新した。

2004年にベルギーで開催された「KBC Night of Athletics(ナイト・オブ・アスレチックス)」で小林史和(NTN)が樹立した3分37秒42を、0秒37上回るタイム。荒井の記録は17年ぶりの快挙となった。

荒井七海の日本新記録ⒸSPAIA


ただ、日本新記録とはいえ、結果は全体の12位だ。1位はナイキに所属するCraig Engels(クレイグ・エンゲルス)で、記録は3分33秒64。3位までの選手は全員33秒台を出している。

以上の結果から分かるように、日本の中距離は決して強いとは言えない。

五輪参加標準記録突破者から考える中距離の現状

2021年6月時点で、東京オリンピックの出場権を獲得している中距離選手はいないのが現状だ。以下で詳しく見ていこう。

東京五輪 陸上競技 個人種目別 参加標準記録突破者ⒸSPAIA


グラフで割合を確認してみよう。

東京五輪 陸上競技 個人種目別 参加標準記録突破者の割合:男子ⒸSPAIA
東京五輪 陸上競技 個人種目別 参加標準記録突破者の割合:女子ⒸSPAIA


男子はハードル走の参加標準記録突破者が一番多く、女子は長距離走となった。男子と女子で割合が異なるものの、競歩と道路競争(マラソン)はどちらも一定の割合を獲得している。つまり、男女ともに持久力が必要になる競技を得意としていることが分かる。

中距離と混成競技は、国内で参加標準記録を突破している選手が1人もいない。特に短距離や長距離と同じフラットレースの一種である中距離は、なぜ競技力が弱いのだろうか。

「徒競走やマラソンのように馴染みがないから」「そもそも陸上競技自体、マラソンと男子100mくらいしか注目されない」など様々な意見がある。その中でも「種目の人気度」は競技人口にも大きく影響するため、種目のレベルに深く関与していると言えるだろう。

44年ぶり五輪出場でも注目されなかった横田真人

横田真人は日本の元陸上中距離選手だ。現在は中距離選手と活躍している卜部蘭をはじめとしたトップアスリートを指導しながら、2つの会社を経営している。

横田は2012年に開催されたロンドンオリンピックに、男子800mの代表選手として出場した。この種目に日本人選手が出場したのは44年ぶりだったにも関わらず、世間の中距離に対する注目度は変わらなかったという。

自身が代表を務める「TWOLAPS TRACK CLUB(ツーラップス・トラック・クラブ)」のブログで以下のように述べている。

「僕が専門にしていた800mという種目は日本人が44年間オリンピックの舞台に立つことすらできなかった種目でした。オリンピックに出れば見方は変わるかもしれない。そう信じて競技を続け、オリンピックに出場しても中距離を取り巻く環境はなにも変わりませんでした。結果が足りなかったのかもしれない。僕らはいつ出るかわからない中距離のメダリストを待ち、『メダルを獲ったらファンが増えやすい』可能性にかけるのが正解なのでしょうか」

結果を出せば世間の注目度が変わるというのは、横田の言う通り、確かに安易な考えかもしれない。中距離種目の魅力は、タイムや順位などの結果だけでは到底語りきれないためだ。

頭脳戦略が中距離の魅力

中距離種目を専門としてきた筆者が感じる競技の魅力は「レース展開」だ。800mの場合、100m過ぎでセパレートコースからオープンコースへと切り替わる(コースラインが解放される)。ここのポジションをうまく獲得できるかでレースの結果が大きく変わる。トラックを2周する中で、順位が大きく変わることもあり、頭脳戦略がとても大事な競技だ。

横田はそんな中距離の魅力を伝えるために、サーキットレースなどのイベントを企画している。今年8月〜9月には「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT(ツーラップス・ミドル・ディスタンス・サーキット)」を開催する予定だ。

今回の荒井を皮切りに中距離で活躍する選手が増え、中距離の魅力が理解されることを願っている。

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