追い風2mで9秒95の日本新記録

鳥取市で行われた布勢スプリントに出場した山縣亮太が、男子100mで9秒95の日本新記録を樹立した。2019年6月にテキサス州オースティンで行われたNCAA屋外陸上選手権大会でサニブラウン・アブデル・ハキームが記録した9秒97を100分の2秒更新。今月24日(木)〜27日(日)に大阪・ヤンマースタジアム長居で開催される日本選手権に向けて最高の準備が整った。

追い風2mと言う好条件について、レース後のインタビューで山縣自身「風は運、今日はラッキー。10年に1度の風が吹きました」と述べているように、100mでは「風」の影響が非常に大きい。

2.1m以上の追い風は追い風参考記録として残るのみで公式記録にはならない。今回、山縣亮太が記録した日本新記録は公式記録として残るギリギリの追い風だった。

追い風2.0mで0.17秒短縮

これまで追い風参考記録では、山縣亮太の9秒95をはるかに超えるタイムがいくつか見受けられる。

2015年にアメリカのテキサスで行われたテキサスリレーの100mに出場した桐生祥秀は9秒87(追い風3.3m)をマーク。また、2017年の日本学生陸上競技個人選手権大会では、多田修平が9秒94(追い風4.5m)の好記録を残した。

100mにおいて「風」は記録にどれほどの影響をもたらすのだろうか。

アメリカのロヨラ・メリーマウント大学のJonas Mureika氏は短距離走と風との影響について研究した結果、追い風1mが吹くことで100mのタイムは0.085秒速くなることを報告している。

つまり、追い風2mの場合は無風の場合と比べて100mのタイムが0.17秒縮まるのだ。100mにおいて0.17秒はかなり大きな違いだろう。

日本記録が樹立された今大会が、仮に無風で行われていたら、山縣の記録は10秒12だった計算となる。対して、前記録保持者のサニブラウン・アブデル・ハキームが9秒97をマークした際の追い風は0.8mだったことから、もしも、その時追い風2.0mが吹いていれば日本人初となる9秒8代の記録が誕生していた可能性がある。

100mにおいて好記録を出すために風は大きなウエイトを占め、新記録の樹立には「運」の要素も加わるのだ。

追い風から考えるボルトの凄さ

日本新記録が樹立されたとはいえ、世界の壁は厚く安堵はできない。

100m世界歴代トップ5ⒸSPAIA 100m日本歴代トップ5ⒸSPAIA


2009年の世界陸上100m決勝では、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が追い風0.9mという条件下で9秒58という脅威の世界新記録で優勝を飾った。もしも、この時に追い風2mの追い風が吹いていたら9秒50を切っていた可能性がある。

世界の歴代トップ5の記録を見ても、2位のタイソン・ゲイの記録を除いてさほど追い風は吹いていない。「風」による運の要素が加わればさらに記録が良かっただろう。世界選手権やオリンピックでは同じ条件下(風速)での走力が競われるため、まだまだ世界との差が感じられる。

とはいえ、日本陸上界の短距離陣が着実に進化を遂げているのも事実。今年の日本選手権はオリンピック代表を争う大会となり、選手の意気込みも相当だろう。オリンピック代表を争うレースでも「風」を味方につけて、さらなる日本記録の更新に期待したい。

《ライタープロフィール》
近藤広貴
高校時代にボクシングを始め、全国高校総体3位、東農大時代に全日本選手権3位などの成績を残す。競技引退後は早稲田大学大学院にてスポーツ科学を学ぶ。現在は母校の教員としてボクシング部の指導やスポーツに関する研究を行う傍ら、執筆活動を行っている。

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