ダスマリナスを3度倒して防衛成功

WBAスーパー&IBF世界バンタム級タイトルマッチがアメリカ・ラスベガスで19日(日本時間20日)に行われ、王者・井上尚弥がマイケル・ダスマリナス(フィリピン)に3回TKOで勝ち、WBAが5度目、IBFが3度目の防衛に成功した。

井上が立ち上がりから挑戦者を圧倒した。ダスマリナスの左フックを警戒して右ガードを心持ち高めにキープした王者は、足を使って距離を取ろうとする挑戦者にじりじりとプレッシャーをかける。2回、強烈な左ボディをダスマリナスの脇腹にめり込ませて最初のダウンを奪うと、続く3回にも同じボディブローでダウン。カウント9で辛うじてファイティングポーズを取った挑戦者を追いつめた井上が、またしてもボディブローで倒すとレフリーが試合を止めた。

力の違いを見せつけた井上は無敗レコードを21連勝(18KO)に伸ばした。見せ場なく敗れたダスマリナスは30勝(20KO)3敗1分けとなった。

ミニマム級で世界を2度制した大橋秀行会長

有観客で行われた試合で、目の肥えた本場のファンを熱狂させたモンスター。リング上で眩い光を放つ井上の横で、丸い顔をほころばせたのが、所属する大橋ボクシングジムの大橋秀行会長だ。突き出たお腹からは想像しにくいが、現役時代は最軽量のミニマム級(47.62kg)で2度、世界を制した人気王者だった。

横浜高校時代にインターハイで優勝し、ヨネクラジムからプロ転向すると、米倉健司会長が「150年一人の天才」と売り出し、1986年にわずか7戦目で世界初挑戦。1988年の2度目の挑戦もいずれも韓国の名王者・張正九に敗れたが、1990年2月7日、後楽園ホールで崔漸煥(韓国)を強烈な左ボディアッパーで倒し、WBC世界ミニマム級王座を強奪した。

当時は日本のジム所属選手の世界挑戦が21連続失敗中という「ボクシング冬の時代」だっただけに、大橋の見事なKO勝利に日本中が酔いしれた。

ちなみに、その4日後の2月11日に東京ドームでマイク・タイソンがジェームス・ダグラスに倒されて「世紀の大番狂わせ」と言われた初黒星を喫した。ボクシングがいつになく注目された1週間だった。

大橋はナパ・キャットワンチャイ(タイ)を破って初防衛。2度目の防衛戦で、後に同王座を22度防衛するリカルド・ロペス(メキシコ)に敗れて無冠となったが、1992年には崔煕庸(韓国)に判定勝ちしてWBAミニマム級王座も奪取。生涯戦績19勝(12KO)5敗と、最軽量級としては破格のパンチ力と巧みなカウンターでファンを魅了した人気ボクサーだった。

男女計5人の世界王者を輩出

その大橋が引退後に設立したのが大橋ボクシングジム。これまでWBCスーパーフライ級の川嶋勝重、ミニマム級からフライ級まで3階級制覇した八重樫東、井上尚弥とその弟の拓真の4人の世界王者を輩出しており、女子もWBA女子世界ライトミニマム級を制した宮尾綾香が所属していた(2016年に移籍)。

大橋ジムの歴代男子世界王者


井上に「モンスター」と名付けて売り出したのは、他ならぬ大橋会長だ。横浜高校の後輩にあたる西武・松坂大輔が「平成の怪物」と呼ばれたことにちなみ、世界で通用するようにと願いを込めて名付けたニックネームは、狙い通りラスベガスを席捲する怪物となった。自身も現役時代に「150年に一人の天才」と売り出された経験も影響しているだろう。

大橋の師匠、米倉健司氏は高齢もあって2017年にヨネクラジムを閉鎖。柴田国明、ガッツ石松、中島成雄、川島郭志と大橋を含めて5人の世界王者を輩出したチャンピオンメーカーは、その歴史に幕を閉じた。

大橋ジムでは、現役時代にヨネクラジム所属で3度の世界タイトル挑戦の経験もある松本好二や、重量級で世界挑戦した西澤良徳らがトレーナーを務めるなど、名門ヨネクラの流れを汲む。

さらにロンドン五輪銅メダリストで現東洋太平洋フェザー級王者の清水聡や、井上尚弥の従兄弟でWBOアジアパシフィックスーパーライト級王座を制した井上浩樹、スーパーバンタム級で世界挑戦した松本亮、スーパーライト級の世界ランカー・平岡アンディら現役の強豪も多数所属。まさに「令和のチャンピオンメーカー」と言えるだろう。

また、井上にとっては幼い頃から指導を受けてきた父・真吾さんが、自身とともにトレーナーとして大橋ジム入りしたのも大きい。本人の努力が一番なのは言うまでもないが、大橋会長の懐の深さが井上を順調に成長させた面もある。

かつては具志堅用高や鬼塚勝也ら世界王者を13人輩出した協栄ジムが隆盛を誇ったが、金平桂一郎会長が休会届を提出するなどゴタゴタがあった。現在の日本ボクシング界は大橋ジムの勢いが凄まじい。「150年に一人の天才」はまだまだファンに夢を見させてくれそうだ。

統一戦はまだ先?

さて、気になる井上の今後について、統一戦の前にもう1試合挟む可能性が出てきた。8月14日にWBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)とWBO王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)が2団体統一戦を行い、その勝者とWBA正規王者ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)が対戦すると米国メディアなどが報じたのだ。

当初は8月14日にカシメロとリゴンドーが戦うとされていたため、井上は次戦でドネアと3団体統一戦に臨む可能性があったが、報道の通りならドネアとカシメロの勝者がリゴンドーと戦うのは早くても年末。その勝者と井上が戦うのはスケジュールが順調に進んでも来春以降になる。

井上にとっては1年近いブランクをつくるのは避けたいため、年内に別の相手と戦う可能性がある。いずれにしても流動的な部分も多く、4団体統一に向けて、まだまだ予断を許さない状況だ。

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