大衆演劇の入り口から[其之三十六] 祝・旗揚げ!走り出した「正舞座」、要正大座長の夢とは?

大衆演劇の入り口から[其之三十六] 祝・旗揚げ!走り出した「正舞座」、要正大座長の夢とは?

「20年越しの旗揚げの夢が、やっと叶いました!」

今月1日、旅芝居の世界に、また新しい風を吹き込む劇団が誕生した。要正大(かなめ・しょうた)座長率いる「正舞座(しょうぶざ)」は、6月28日昼の部まで、阪急庄内天満座(大阪府豊中市)で旗揚げ公演中だ。

これまではフリーとして様々な劇団にゲスト出演していた正大座長。今年2月、筆者は「スーパー兄弟」の東京公演に参加していた正大座長を観た。『紫陽花』というお芝居で純粋な男の役を演じていて、そのピュアな演技に泣かされ、この方の舞台に対する考えを伺いたいと思った。舞台からさわやかな風がビュンと吹くような、爽快な気持ちになる役者さんなのだ。

6月7日、劇場に伺い、座長にインタビューをお願いした。

「旗揚げの月は超多忙と思うので、来月以降でもかまいませんが…」

「いえ、せっかく来てくれたのですから、すぐに!」

舞台そのままの笑顔がニカッと返ってきて、取材日はその2日後に決まった。

11歳、里見要次郎会長に憧れて

――今月旗揚げされたことで、座長さんはどんな経歴の方なのだろう?と改めて注目されていると思います。この世界に入られたきっかけからお聞かせください。

僕は大分の出身なんですが、子どもの頃から家族に連れられてあちこち大衆演劇を観に行ってたんです。初めて観た場所は、今もある別府のヤングセンターでしたね。そのうち、兄と姉(※)が興味を持つようになって、劇団に入ることになりました。

――兄の茜大介(あかね・だいすけ)さん、姉の陽月(ひづき)ゆりさん、今も三兄弟そろって役者をされています。

でも、兄と姉が入団しても、僕にはまだ大衆演劇の魅力がよく分かってなかったんですよ。僕が11歳のとき、別府のスギノイパレスという所に、大衆演劇で一番すごい方が来てるってお兄ちゃんが教えてくれて。それで観に行ったのが里見要次郎(さとみ・ようじろう)会長でした。もう、感動しまして。その日のお芝居が『忠治と山形屋』、それから『お里沢市』っていう一人二役の早替わりの演目だったんですが、要次郎会長の早替わりが早すぎて衝撃を受けました。ショーも太鼓とか三味線とか色々なものが出てきて、その演出にも感動して。役者になりたいというより、里見要次郎先生の傍にいたいと感じたんです。そしていつかは先生みたいになりたい、あの人と同じになりたい――よし、だったら大衆演劇の座長になるんだと。

――最初から目標が座長だったんですね。

そうなんです。今月、ようやく達成できました。その月のうちに要次郎先生に「弟子にしてください」とお伝えして、すぐにでも里見劇団に入団したかったんですが、祖父母が反対しまして。お兄ちゃんとお姉ちゃんが既に大衆演劇の世界に入ってるのに、お前まで行くのかと。せめて中学までは家にいてくれっていう話になって、中学卒業を経て入団しました。4、5年待つ時間があったので、その間に両親にお願いして、日本舞踊をちょっとだけ習わせてもらったりしてましたね。

――里見劇団にはどのくらいの期間、いらしたんですか。

6年間、居させていただきました。当時は里見正大という名前でしたね。21歳の頃、色んなところで舞台の勉強がしたいという気持ちが強くなり、旗揚げの夢もあったので、無理を聞いていただいて退団しました。

その後、たくさんの劇団さんを観に行く中で、福岡のバーデンハウスっていう所で関東の若葉(わかば)劇団に出会ったんです。若葉しげる先生とお弟子さんの愛洋之介(あい・ようのすけ)座長のお芝居に、また感動しまして、学ばせてください!と若葉劇団に入りました。その段階では名前が里見正大のままだったんですけど、若葉しげる先生から、里見劇団を離れたのだったら一人立ちをするって気持ちを持たなくちゃダメだっておっしゃっていただいて。そこで師匠の要次郎会長のお名前を一文字頂いたのが、今の要正大という名です。若葉劇団に入って半年後に、愛洋之介座長が紫吹(しぶき)洋之介座長と名を改めて「劇団紫吹」を立ち上げられるということで、僕もそれについていく形になりました。

――劇団紫吹では副座長も務めておられました。

はい、副座長という立場でありながらほんとに無責任な話なんですけど…紫吹で6年間お世話になった後、もっと舞台を勉強したいという僕のわがままが、また出まして。洋之介座長にご無理をお願いし、「いいよ」とおっしゃっていただいて退団しました。それから4年間はフリーです。

――お芝居も複数の劇団で学ばれたのですね。

今月の初日にやらせていただいた『夫婦酒』は若葉しげる先生が立てられたお芝居で、大好きな一本です。それから『母恋星』という女形のお芝居も、とても好きなんですが、こちらは僕が16歳のときに里見要次郎先生が演じられていました。

――要さん自身は人情芝居がお好きなんですか?

そうですね、喜劇でも人情喜劇、笑いあり涙ありのもの。やくざ物とか侍物ではなくて、下町に暮らす町人の物語っていうのが好きです。結局演じる僕たちも、観に来る方も、そういう一般の人じゃないですか。侍でも役人でも警察官でもないので(笑)、一番親しみやすい物がそういった世話物なのかなーと僕は勝手に解釈してまして。でも最近になって恋川純弥(こいかわ・じゅんや)座長に立ち回りを教えていただく機会がありまして、改めてその素晴らしさや大事さを学べて、立ち回りも好きになりました!

きっちり古風な女形。

きっちり古風な女形。

旗揚げを報告「お前、大変やぞ」

――劇場入り口に飾られた大量の花輪にビックリしました。関西・関東・九州、あらゆる役者さんから届いていて、ここまで広い交友関係を持たれているんだと。

ほんとに周りの人に恵まれています。会長さん方、先輩方、同期、皆さんにすごく良くしていただいて、おかげでフリー時代も色んな劇団さんに行かせていただきました。

――その中でも師匠といったら要次郎会長なんですね。旗揚げされることを最初に師匠にご報告されたとき、どんな反応でした?

「お前、大変やぞ」(笑)。やっぱりそれが第一声でしたね。「もう、覚悟の上です」と答えたら「お前覚悟って言ってるけどな、そんなもんじゃないぞ。お前大丈夫か」とおっしゃられて。

――座長になるというのは本当に大変なんですね…!

でも最後は「頑張れよ」って。僕が里見劇団を退団するときも、退団した後にお会いしたときも、要次郎先生は必ず「頑張れよ」って言われました。里見劇団を出てからの10年間、「お前いつ旗揚げするんや。何かあったら、俺いつでも力になるからな」ってずーっと言ってくださったんで。だからもう、ほんとに頭が上がらないですね、先生には。僕は頭が上がらない人が多すぎて。今回、旗揚げをお願いしに行ったのは南條隆(なんじょう・たかし)会長でした。「お力を貸していただけないでしょうか」っていう風にお願いしたら、快諾してくださいました。南條会長も以前から「お前いつ旗揚げするんや」って言ってくださっていたので。

里見要次郎会長・南條隆会長の花に挟まれて。

里見要次郎会長・南條隆会長の花に挟まれて。

大衆演劇にとって“正しい”って?

――新生劇団、「正舞座」のことを教えてください。まず気になるのが劇団名の由来です。

「要正大劇団」とかも含めて検討していたんですが(笑)。いま、僕には5人の弟子がいます。その子たちの名字がみんな「舞咲(まいさき)」です。「要」というのは僕が師匠から頂いている字なので、自分の弟子に付けるのは違うんじゃないかと思って、舞台に咲くという名字を考えました。それで劇団名のほうは、粋心会の龍美麗(りゅう・びれい)会長に「何がいいですかねえ」って相談して、一緒に考えていただいたんです。美麗会長がおっしゃってくださったのが、僕の「正」の字と舞咲の「舞」の字を取って、「正舞座」。勝負をかけるって意味もひっくるめてどうかなって。僕もすぐ気に入りまして。

――正しく舞台を務めるという意味もあるのでしょうか。

はい、それを心掛けていこうと。まあ、舞台にとって正しいって何だろうって、多分これは役者にとって一生引っかかってくることだと思います。特に大衆演劇であればこそ。歌舞伎なら、まだ明確な部分があると思うんですけど、大衆演劇っていうのは正しいものが結局何か分からないところがあるので、自分の中でそれを見つける。間違った道に行かないっていう戒めにもなる劇団名です。

――大衆演劇にとって正しいって、どういうことだと思っていますか?

一番は「努力」じゃないですかね。特に、僕なんかはもともと両親が役者をしているわけでもなく、ただただ自分がやりたくて、祖父母の反対を押し切ってまで入った世界なんで。そこで手を抜くとか、楽をしようっていうのはちょっと違うんじゃないかなと。だから今まで応援してくださった方に報いる、正しい舞台をするっていうのが努力かなと。

――要さんが稽古好きとして有名な理由が分かったような気がします。

稽古は単に好きなんです(笑)。しんどいけれども、汗水たらして頑張ったものが舞台でようやく形になったっていう達成感がもう好きで、楽しくて。

――それが好きだったらもう、天職ですね。

生意気ですけど、僕自身、好き、楽しめるという点では天職じゃないかなと感じます。でも周りの方々からはよく、「正大くんのお弟子さんは稽古漬けで苦労するね」って言われてます(笑)。その通り、苦労させてるんです、ほんっとに。

5人のお弟子さんたち。正大座長いわく「みんな頑張り屋です。唯一困るのが、全員天然なこと(笑)」上段左から、舞咲花奈(まいさき・はな)さん、舞咲早耶香(さやか)さん、舞咲那奈(なな)さん。下段左から舞咲愛都(まなと)さん、舞咲碧士(あおし)さん

5人のお弟子さんたち。正大座長いわく「みんな頑張り屋です。唯一困るのが、全員天然なこと(笑)」上段左から、舞咲花奈(まいさき・はな)さん、舞咲早耶香(さやか)さん、舞咲那奈(なな)さん。下段左から舞咲愛都(まなと)さん、舞咲碧士(あおし)さん

正大座長の相棒である颯天蓮(そうま・れん)さん。

正大座長の相棒である颯天蓮(そうま・れん)さん。

正舞座後見人を務める、かつき浩二郎さん。

正舞座後見人を務める、かつき浩二郎さん。

――この6月はもう、皆さん朝方まで稽古でしょうか。

寮で3時くらいまで稽古して、それから片付けです。僕はパソコンで次の日の番組作ったり個人舞踊決めたりして、みんな寝るのが5時くらいでしょうか。翌朝8時頃にはみんな楽屋に来るので、寝るのは3、4時間。それでも誰一人、しんどいとか眠たいとか言わずにいます。稽古が終わったら気絶同然にこんな(眠るポーズ)になってる子もいて…。それを見ると可哀想だなとか、座長である自分の押し付けじゃないかなとか思うんです。それでもやっぱり、みんなは自分を信じて来てくれたので。自分自身、この世界で若手のときにもっと頑張ればよかった、ぬるま湯だった、甘えてたな、って思うことが多々あったんです。だから今、後悔が山ほどあります。でも1年、2年分の後悔は二度と取り返せない。弟子たちに僕と同じ後悔をしてもらいたくないなっていうのが、一番大きいんですよ。とは言え、少しずつでも座員が休憩できるように、そこも意識してプログラムを組まなくてはって考えてるんですけど。

――体を休めることとのバランスも取られているんですね。

ホッと一息ついたときに初めて、あ、これがいい!こうしよう!って舞台のアイディアを思いついたり、インスピレーションが沸くことって絶対あると思うんです。その意味でもメリハリは絶対大事やと思うんで。

――ファンも、好きな役者さんが健康でいてくれることが何よりの願いだと思います。

(深くうなずいて)僕、よく弟子たちに言うんですけど、しんどいとか、これは無理だと思ったら言ってくれって。なぜかというと、それは自分のためであり、結局は舞台のためだって。自分が倒れるということは人に迷惑をかける、他の人がそれを補填しなくちゃいけなくなる。すると結局無理が生じて、舞台にミスや失敗が出てくる、そうなるとお客様に迷惑がかかる。だから無理だと思ったら言ってほしいんです。みんな一斉に言われたら困るんですけどね(笑)。現時点でも、相当無理させてます。今日のラストショーも難しいダンスで、入って数か月の子たちにさせるような内容じゃないです。だから僕がもっとみんなに目を配って、気づかないといけないんだろうなって。

――正舞座でこれをいつか達成したい!という夢を教えてください。

一つは、大衆演劇っていうものの体現でしょうか。

――体現とは…?

大衆演劇のすごさって枠組みがないことだと思うんです。だからこそ、ポップスがあってダンスがあって、三味線も弾けて立ち回りもできて、時代劇があって現代劇もある。そのすべての要素が融合して、ぽんと一つの舞台に乗ってるんですよね。ただ、この低価格で内容が日替わりなので、正直言って限界はあります。時間のない中でどれだけのものができるかっていう限界。どうしても妥協はあります。でも、一つ一つの要素についてそれぞれのプロと同じというのは無理だとしても、一回でいいんで、これが大衆演劇だ!っていう融合の舞台をみんなで達成できたら――ほんとに夢なんですけどね。

――大衆演劇という芸能を、要さんが心から信じられているのがよく分かります。

やっぱり大衆演劇にしかできないものがあります。まず僕がやりたい舞台を弟子たちが理解してくれて、みんなが同じようにやりたいって思ってくれることですね。これがやりたい、あれもやりたい、挙げればキリがありません(笑)。

インタビュー中。

インタビュー中。

取材日6月9日の夜の部のお芝居は、『江戸の夜話夢話』。正大座長演じる騙されやすい三枚目の役人に、思わずハハハと声を出して笑った。培った技術の上に、持ち前の澄んだ明るさが光っていた。

正舞座は6月で大阪を離れ、7月は山口、8月は岐阜、9月・10月は福岡と全国を回る予定だ(公演詳細は記事末尾)。

取材日6月9日のラストショー。

取材日6月9日のラストショー。

いま庄内天満座は、汗が飛んでくるような熱演。

「みんながもっと上手くなって、僕ももっと上手くなって。初めてそのときに、正舞座のやりたい舞台を実現できたらいいなあって」

11歳の少年が見た夢は、走り続けている。

取材・文=お萩


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