寛永十二年旗揚げの江戸糸あやつり人形劇団・結城座による「結城座旗揚げ385 周年記念公演第一弾 結城数馬改め 十三代目結城孫三郎襲名披露公演『十一夜 あるいは星の輝く夜に』」が、2021年6月2日(水)〜6月6日(日)に東京芸術劇場 シアターウエストで行われる。

結城数馬は十二代目結城孫三郎の長男で、6歳で初舞台を踏み、『夢童子 ゆめ草紙』『寿獅子』に出演した。『寿獅子』では故・結城雪斎(十代目孫三郎)と仔獅子を遣っている。

披露目で上演されるのは古典劇『八百屋お七』と、新作劇『十一夜 あるいは星の輝く夜に』。『十一夜 あるいは星の輝く夜に』は、W・シェークスピアの『十二夜』を下敷きにした作品で、翻案・演出に鄭義信を迎える。なぜ十二から一つ少ない『十一夜』なのかと尋ねると、東日本大震災の3.11にかけているためだと言う。

稽古を行っている結城数馬に、本公演で演じる役への思いや、十三代目結城孫三郎襲名を控えた心境を語ってもらった。

■結城孫三郎が受け継いできたお七を遣う

――稽古の具合はいかがでしょうか(取材日は4月12日(月))。

今は新作の前に演じる、『八百屋お七』の稽古に取り組んでいます。

――結城座では古典のお七が、過去に新作(『明日またタクボク〜雲と劇場〜』『乱歩・白昼夢』など)にも何度か登場しています。今回の襲名披露公演でも演じられるということは、結城座のレパートリーの中でも八百屋お七は重要な役なのでしょうか。

そうですね。代々結城孫三郎は女形を得意としていて、とくにお七は祖父の十代目結城孫三郎が得意としていました。

結城雪斎(十代目孫三郎) 画像:結城座提供

結城雪斎(十代目孫三郎) 画像:結城座提供

――古典の人形を遣うときには、新作とは違った緊張感を感じるものですか。

お七は、結城孫三郎が受け継いできた役なので、自分もしっかり継承していかなければというプレッシャーはあります。お七は今、基本的に父から習っています。父の動きをキチンと再現しないといけないので、そういった面でも古典と新作は少し違いますね。

稽古場の様子 結城座提供

稽古場の様子 結城座提供

――ちなみに古典の遣い方を、新作の人形の動きに取り入れることはあるのでしょうか。

古典は動きが独特だったりします。古典の遣い方を必ず新作で使うかといえばそうではないのですが、基本の技術や息遣いをベースに応用することができます。なので僕は(新作と古典は)密接につながっている気がします。

また、人形は動かしてみないと分からない部分があります。人間の動きと人形の動きはまた違うもので、古典からでなければ学べないこともあります。

稽古場の様子 結城座提供

稽古場の様子 結城座提供

 

■男装した妹と双子の兄を演じ分ける台詞が、本作の見せ所

――鄭さんの台本をお読みになったときの第一印象はどのようなものでしたか。

『十一夜』で僕は、双子のヴァイオラとセバスチャンを演じます。一つの作品の中で双子の男女の役を演じるのは、自分の中では難しいことなのですが、同時にその面白さにもかなり惹かれました。

――結城座では今作のように人形遣いが台詞を喋ることがありますが、『十一夜』では役づくりもされていくのでしょうか。

はい。妹のヴァイオラは男装して男性のふりをしたり、また女性に戻るという場面があるので、そういった役は(演じるにあたって)少し考えていく必要があると思います。

――ヴァイオラが男装したときなどは、台詞や声で演じ方を変えていくのでしょうか。

そうですね。男と女の違いは演じ分けられるのですが、性格だけでなく、男装してる妹と兄の違いをどうつけていくのか。今、台本を読んで迷っている最中です。

――人形の遣い方は、男の役と女の役で違うものなんでしょうか。

例えば古典のお七のように、古典の女形の人形は足先がなかったりします。胴の部分も男の人形とは違った、特殊な胴を使っていたり。そういった面で人形の遣い方は変わってくるのですが、今回は人形のつくり自体に違いはないので、あまり多くは変えないと思います。

――もう台詞の違いで見せていく、と。

はい。台詞と心理描写で変えて見せていかなければいけない、と思っております。

――では台詞は、新作の見せ場と捉えても大丈夫ですか。

本番までには大丈夫にしたいと思います(笑)。
 

■鄭義信さんには演出家として信頼をおいている

――新作についてもお話しいただける範囲で伺いたいのですが、鄭義信さんは、『ドールズタウン』(2007年初演)でも脚本・演出を担当されていました。結城座の新作には、今回のように著名な方が演出や脚本に入られる機会はとても多いですが、数馬さんは鄭さんをどんな演出家・劇作家だと、感じていらっしゃいますか。

鄭さんとは今作で4回目です。父のときからのお付き合いになりますが、前回の『ドールズタウン』でも、キチンと駄目なところは駄目だと言って演出してくださったこともあり、とても信頼しております。たぶん父も同じ気持ちでいると思います。

(物語については)人間のドラマを描くことに重きを置かれている方だなと。もともと『十二夜』は喜劇ですし、今回もそういった(コメディの)要素が多くなるんじゃないかと想像しています。

――結城座では人形遣いが役者として演じることもありますが、今作についても人形の遣い手に演出家から話がありそうですか。

そうだと思います。鄭さんは人形遣いの動きや表情についても言われるので。たとえば『ドールズタウン』では、(衣装で)帽子をかぶっていたのですが、深くかぶりすぎると表情が見えないから、と。

――今回の特別な公演でシェイクスピアを持ってきた経緯は、どのような感じだったんでしょうか。

鄭さんから「『十二夜』で」と、言っていただきました。偶然ですが、父の襲名のときも『リチャード3世』でしたね。

『ドールズタウン』 結城座提供

『ドールズタウン』 結城座提供

 

■結城孫三郎の名を継ぎ、古い遣い方も残していく

――襲名に当たっての正直なお気持ちをお聞きできますか。

このところ新作をやることも多かったのですが、今回、古典のお七も演じることもあって、襲名した後は古典の比率も少しずつ増やしていこうと思っています。

また、平場(人形遣いが舞台に上がって、人形をあやつる)で行う舞台が結構増えてきて、足場を使う機会が減っています。もともと(人形芝居)は足場を組んでやっていました。足場は会場に持っていって組み立てないといけないので、なかなか手間がかかるのですが、足場を使った芝居もキチンとやっていきたいと思っています。

――足場を組む舞台では、人形遣いが客前に出てこないんですか。

出てこないです。高いところでずっと中腰でいて、下を見おろしているため大変だったりするんですけれども、そういったやり方も残していきたいと考えています。

――足場を使う場合、人形を操作する感覚は変わってくるものですか。

3mほどある長い糸を使うので変わりますね。人形しか見えないですし。

――先代の技術を盗もうというとき、足場を使った稽古ではどうするのでしょうか。降りて見るということですか。

そうですね。あと今は携帯で録画することができるので、映像を見て確認することもあります。

――やはり人形遣いは、手で覚えることに重きを置かれているんでしょうか。

はい。ただ映像だけでは身に付けられない部分がたくさんありますので、父から手ほどきを受け、対面であるが故の濃密な稽古をつけてもらっています。父からは、手先だけで人形を遣うな、といつも注意されていますし、身体全体で遣うこと、とくに腰の動きの重要性もたびたび言われます。

――2020年2月の「孫三郎 第一回古典小劇場」で、『東海道中膝栗毛』の弥次郎兵衛役を演じられました。それは一つの試練の場だったのかなと想像していますが、演じてみていかがでしたか。

台詞にしても人形の動かし方にしても、色々と覚えることが多く、糸も通常より10本ほど多い人形なのですが、最後に踊る場面もあってあれはなかなか大変でした。

『東海道中膝栗毛』 結城座提供

『東海道中膝栗毛』 結城座提供

 

■恩返しのための舞台に 「芝居ができる場所があることはすごくありがたい」

――新型コロナウイルスの感染拡大で公演の延期や中止など、演劇業界には困難な状況が続いていますが、2021年2月の『明日またタクボク〜雲と劇場〜』では、ハジメ先生をどのようなお気持ちで演じていましたか。

稽古の最中でもマスクをして、気をつけて(感染対策を)やっていました。公演自体も途中まで(実施するのか)決まっていませんでした。

結局、実際にお客様の前で舞台をやることができましたが、やはり芝居ができることはすごくありがたいことだなと。なにせ僕たちはそういった芝居をやれる場所がないと、本当に何もできなくなってしまうので。すごくありがたいことだと思いました。

『明日またタクボク〜雲と劇場〜』 宮川ヨシヒロ撮影 結城座提供

『明日またタクボク〜雲と劇場〜』 宮川ヨシヒロ撮影 結城座提供

――コロナ禍の中で制作された2020年公開のドキュメンタリー映像の中で、十二代目が結城座存続についての想いを話されていました。十三代目を継ぐにあたって、数馬さんはこういった状況をどのようにお感じになっていますか。

去年私たちはクラウドファンディングで、支援を募りました。そういったときに助けてくださった皆さんや、今まで観に来てくださっているお客様たちに本当に支えられています。(人形芝居は)自分たちだけではやっていけないものですから、本当に感謝しかありません。コロナの問題があり、本音を言えば迷うところはすごくあるのですが、支えて下さった方々へのお返しに僕たちがやれることは芝居しかないので、常にできる限りの感染対策をやっていきながら、何とか皆さまに恩返しするためにも頑張りたいと思っております。

――最後に襲名披露公演への意気込みをお願いいたします。

はい。『十一夜』に関して言えばもともと喜劇ですし、鄭さんならではの笑いの要素も入ってきて、きっと楽しいものになると思います。観てくださる皆様に喜んでいただけるような舞台にしたいと思っております。

取材・文=石水典子