蓬莱竜太が2017年に広島の劇作家・演劇人とともに創作した『広島ジャンゴ』。広島の牡蠣工場を舞台に、協調性のないパートタイマーの女性の扱いにシフト担当は頭を痛めていて……という、現代日本のどこにでもありそうな風景から、物語は気付くと西部劇の世界へ!?  “広島弁で西部劇”というコンセプトで作られた本作が、脚本、演出、美術、音楽を一新し、豪華俳優陣で新たに『広島ジャンゴ2022』として上演される。主演は、舞台では初タッグとなる天海祐希と鈴木亮平。ほか野村周平、中村ゆり、土居志央梨、芋生悠、北香那、宮下今日子、池津祥子、藤井隆、仲村トオルら、個性あふれる面々が顔をそろえる。破天荒なようで、現代社会の諸問題を鋭く描く蓬莱ワールドに浸かる天海祐希と鈴木亮平に話を聞いた。

ーー蓬莱竜太さんの隠れた(?)名作のリニューアル上演です。まずは本作に臨むお気持ちをお聞かせください。

天海:(しばし見つめ合い)どうぞどうぞ。

鈴木:……僕から(笑)?僕は蓬莱さんの演出作品に出演するのは2回目です。前作(『渦が森団地の眠れない子たち』/2019年)に出演する以前から蓬莱作品のファンでした。何を観に行っても「面白かった」と思って帰れるし、面白いだけでなく、心に刺さったものを反芻できる作品が多いんです。ご一緒して、稽古場の雰囲気やご本人の人間性含め「次に舞台をやるとしてもまた蓬莱さんとやりたい」と思っていたので、嬉しいです。しかも天海さんはじめ、超一流の方々とご一緒ですので、身が引き締まります。

天海:私も何作か拝見していて、本当に穏やかにストーリーが始まり、日常を繰り返しているようなのに、あることをきっかけに歯車が少しずつ狂いだし、そこから人間の深層心理が浮き彫りになっていく、というところが面白くて。それでいてちょっとした幸せや安らぎがきちんと描かれている。鋭い何かでちょっと切りつけられるような物語展開が面白く、いつかご一緒できたら幸せだなと思っていました。その蓬莱さんの世界の一員になれることは楽しみです。鈴木さんがおっしゃったように、これだけの強力なキャストの皆さんとご一緒できるのは身が引き締まりますし、励みにもなるし、なおかつ「バカなことはできないな」という気持ちです(笑)。お稽古場もとても身になることが多そうで、すごくすごく、楽しみにしています。

天海祐希

天海祐希

ーー演じる役柄について教えてください。

鈴木:僕は広島の牡蠣工場の中間管理職……シフト係の木村という役です。そこに新しく入ってきたパートタイマーの山本さんという方がなかなかみんなの輪の中に入ってくれず、残業もしてくれず、僕はまわりとの板挟みになっていて、そんな中である日、目が覚めたら西部劇の世界に自分が入りこんでしまっている。そこでは山本さんはジャンゴという流れ者のガンマンになっていて、僕はその馬になっている……という役です。

天海:私の役は鈴木さんがご説明してくださったように山本という女性でシングルマザー、西部劇の世界に行くとお尋ね者の凄腕ガンマン。自分の置かれた状況や気持ちをあまり喋らない、寡黙な女性です。

鈴木:木村は独身の男性で、女性が……山本さんの置かれている状況や背負っているものに想像が働かない、社会や人が抱えている問題に鈍感なんです。その無知な青年がそれらに気付いていくという大きな流れがあります。

天海:一見、牡蠣工場と西部劇ってまったく繋がらない世界なのですが、私たちの役に限らず、同じ登場人物が現代と西部劇両方に出てくる。そのことで、裏側というか、違う面を見せることができる。牡蠣工場と西部劇の話をくっつけてひとりの人物を表現しているのがすごく面白い。でも鈴木さん演じるディカプリオという馬は、すべての場面での目撃者になってくれるので、彼がその中でどうふるまうか、どう気付いていくのかというのは、お客さまの目線と同じなんじゃないかな。

鈴木:はい。木村という役は翻弄されていく役なので、お客さまと同じく、急に西部劇になる世界の中で戸惑いながら色々なことを経験していく。受ける芝居がすごく課題になるなと感じています。その“回し”の役を、きちんとリアリティを持ちつつお客さまに楽しんでもらえるようにということを一番に意識しています。

ーーこういう役を受け取った時、どう思いましたか? ポスターなどはかなりインパクトありますが……。

天海:どうでしたか、馬ですよ。

鈴木:(笑)。馬なんですが、実際は周りから馬だと思われているだけで、(自分の中では変わらず)木村という男です。馬だからこそ見れる、知れることがあったりはしますが。僕はどうしても身体が大きいので、快活な役や強い役、頼りにされる役をいただくことが多いのですが、人間なので弱い面もあります。自分で言うのはおかしいですが、わりと「自分、繊細だな」と思うところもあります(笑)。蓬莱さんは、前回僕にくれた役も、どちらかというと気弱な、あまり色の濃くない役で、そういう役をくれるのがすごく嬉しくて。今回も強くも弱くもない人間で、そしてストーリーを回していく役だというのは嬉しく、やりがいがありますし、燃えます。

天海:蓬莱さんが描く人間って、一見強くいるようでも、必ず裏がある。強いだけではないんです。私が演じる山本も、外から見ると強い女性ですが、ものすごく葛藤があって、強くならざるをえなかった人。ひとりの人間の一色ではない部分を丁寧に描いてくれています。それは自分たちの役柄だけでなく、みんながそうで、それぞれが生きている時代と環境と、自分をどう折り合いをつけていくのかがとても面白いし、興味がそそられる。読んでいてもとても納得ができます。

ーーもともと広島で創作され、広島らしき土地をモチーフにした物語です。おふたりが思う広島のイメージは?

天海:お好み焼き……。

鈴木:あー、美味しい。

天海:牡蠣、広島弁、菅原文太さん(仁義なき戦い)、もみじ饅頭……。

鈴木:厳島神社、原爆ドーム……。

鈴木亮平

鈴木亮平

ーー劇中、広島弁も出てきますね。

天海:私は(東から来た人という設定で)広島弁は喋りませんが、鈴木さんどうですか。私はすごく楽しみ! 広島弁、いいですよね。鈴木さんは映画でも喋っていましたが。とてもお上手だと聞いていますよ。

鈴木:そうですね。ただ、前回やったのが極道の話(『孤狼の血 LEVEL2』/2021年)だったので、強めの広島弁でした。僕を含め多くの方が広島弁にそういうイメージを抱いていると思うのですが、今回は普通の男の子の喋る広島弁。強いイメージではない広島弁をどう喋るかというのが課題になってくると思います。(一般の、強い)広島弁のイメージを変えたいですね。

ーーそして劇中、広島カープの応援歌なども出てきます。ちなみに野球はどのチームがご贔屓ですか?

天海:(日本ハム製品のイメージキャラクターを務めていたため)日本ハムは変わらず応援しています! そして幼少の頃は、テレビで野球中継をつけると、父が巨人を応援していたので、その印象も強いですね。

鈴木:僕はあまり野球を見ないのでさほど詳しくないのですが、阪神のお膝元で生まれ、阪神甲子園球場で高校時代、アルバイトをしていた身としては阪神タイガースと言わざるをえません、というかそこしか知らない(笑)。

天海:えーっ、アルバイトは何を?

鈴木:ビールを売っていました。

天海:すごい! あれは時給? 売った数?

鈴木:基本給はあるのですが、微々たるもので、そこからは歩合ですね。

天海:手を挙げた人をめざとく見逃さない技術とか必要ですよね。

鈴木:ちょっと舞台とも似ていると思います。どの位置取りで、どのくらい身体をお客さんの方に向けて、どのくらいのトーンの声を出すか、とか……。

(左から)天海祐希、鈴木亮平

(左から)天海祐希、鈴木亮平

ーーすごい。そして、今回はカープの応援歌を歌うことになりますが……。

天海:そうよ!

鈴木:はい、もうすでに聴きこんでいます!

ーーすでにとても息が合っているようにお見受けしますが、共演自体は13年ぶりとか。改めてお互いの印象を教えてください。

天海:私は『カイジ 人生逆転ゲーム』(2009年)でご一緒した時の強烈なイメージが鈴木さんの印象のベースになっています。その後色々なドラマや映画、雑誌のインタビューなども読んでいますが、すごい熱量をもってひとつの役に突き進んでいらっしゃいますよね。作品のことも共演者のことも考えて、その上で真ん中に立つことができる人ってそうそういないと思っていて。そういうことができる、人間性の大きい方。お芝居もスケール感があり、熱量がある。今回13年ぶりの共演ですが、台詞を交わすという意味ではほぼ初共演みたいなものです。とても楽しみですし、私としては自分よりこれだけ身長の高い方の横に立てるのは、単純に嬉しいです(笑)。頼りにしています。

鈴木:馬ですので、まず、人を乗せないといけないので、身体が大きくて良かったなと思っています(笑)。『カイジ』ってもう13年前なんですね。当時僕はたまに台詞をしゃべらせてもらうような役。現場で、先輩方のお芝居をじっと見ていた時期でした。それなのにこの方はなんでこんなに普通に話しかけてきてくれるんだろうと思ったくらい、天海さんとはお話をさせていただきました。本当に壁を作らない方で、テレビなどで見ていて抱くイメージとまったく変わりません。その方とこういう形でご一緒できるのは、感慨深いです。足を引っ張らないように頑張ります。

ーーおふたりともお好きだという蓬莱さんの世界ですが、改めてこの『広島ジャンゴ2022』という物語自体の、どんなところに魅力を感じていますか。

天海:西部劇の形をとっていますが、見ようによっては本当に現代社会が抱える色々な問題が山ほど含まれている。これは鈴木さんがおっしゃっていたことなのですが、家庭内や友だち間の小さな諍いのようにも、国家間の話にも見え、だからこそ物事の中心を突いているんじゃないかなと感じ、いまさらながら蓬莱さんの脚本に驚愕しています。本当によくできている本なので、この世界観を壊さないように、うまくこの世界に入っていきたいです。

鈴木:西部劇というフィルターを通すからこそ、より現代の一つひとつの問題が浮き上がってくる脚本なんです。現代のコミュニケーションの希薄さ、DVの問題、労働環境の問題、同調圧力……。物語の発端は「職場の飲み会に参加しなければいけないのか」というところじゃないですか。

天海:そう、そうなんですよね。

鈴木:「職場の飲み会って行かなきゃいけないの?」という問題提起が西部劇になり、しかもそれに留まらない諸問題が浮かび上がってくる。そんなことを考えたことのなかった木村君がその問題に直面し、じゃあどうすればちょっとでも良くなるかなと一歩踏み出すという、小さいけれどすごく大きな話。演劇でしかできない世界がここにあると思います。

天海:色々な嫌なことも出てくるのですが、最後には希望が残るようなお話になっています。それもまた蓬莱さんらしいと思います。

天海祐希

天海祐希

ーー今、お話にも出てきましたが、職場の飲み会に出る/出ない、など、意見の違う人を説得しなければいけなかったり、コミュニケーションを取りにくい人とも接していかないといけない状況というのは、社会に出ると必ずあります。ちょうど公演は4月、新しい環境で人間関係を築くことの悩みを抱いている人もいる時期かもしれません。おふたりは「この人、合わないかも……」という相手とコミュニケーションをとるコツはありますか?

鈴木:それ、僕も聞きたい(笑)!

天海:そうですよね。どうしても仕事上、協力し合わないといけない相手だったらちゃんとコミュニケーションはとらないといけないじゃないですか。今回限り、期間限定だったらその瞬間頑張って我慢すればいいけれど。でもその後もお付き合いが続くようだったら、やっぱり、その人のことも理解しつつ、自分のこともわかってもらえるように「話すこと」が大事ですよね。嫌だなと思っていると、その気持ちは向こうにも伝わってしまうので、自分の抱いた印象だけではなく、その人の日頃の行動、言動をきちんと見る。自分の先入観で判断しない。話してみると案外いい人だったり、共通の話題が見つかったりします。……それでもダメだった、自分とは合わないという人はいますので、そうなったら自分の中でシャットアウトして(笑)、表面上きちんとお仕事する、という感じかな。

鈴木:僕も同じです。まずは相手のことを理解すること。理解するためのコミュニケーションの努力は必要だと思います。そうすると、好きな部分や尊敬できる部分が見つかることが多いと思います。人間関係って、向こうが自分のことを好きだったら、その人を嫌うことってけっこう難しいじゃないですか。それは相手に対しても同じで、自分が向こうを好きになれば、向こうもこちらを好きにならざるを得ないと思います。その「好きだな、いいな」と思う部分を相手にきちんと伝えていく。さらに、自分の弱さもきちんと見せるということも大事。無理はしない。そして天海さんがおっしゃったように、それでも無理な相手は絶対いるので、そういう場合は環境を変える。仕事上の人で、どうにもならないと思ったら、職場を変えるということも全然悪いことではないと思います。

ーーおふたりともオープンマインドで、フランクな印象がありますが、そんなおふたりでも苦手な人っていますか?

天海:もちろんいますよー! そういう場合は、多分向こうも私のこと苦手なんだろうなって思う(笑)。

鈴木:うん、そういう場合は無理はしないです(笑)。

天海:そうそう!

ーー今回、ご自身にとっての課題になりそうだなと感じていること、そして楽しみにしていることは?

鈴木:僕はさっきから「歌があるんです」と天海さんに相談しています……。

天海:アハハ!

鈴木:そうしたら天海さんは「決してうまい歌である必要はない、気持ちが伝わればいい、木村という人間が歌っているのであって、鈴木さんが歌っているわけじゃないから大丈夫」と言ってくださいました。

天海:そうです。物語の中にちゃんと入っていればいいだけ。鈴木さんは何でもおできになるから、大丈夫! 私は逆に、傍らに鈴木さん扮する木村ディカプリオがいてくれるので、安心してジャンゴの役を誠実に生きられたらと思います。

鈴木:あとは僕、コロナ禍になって初めての舞台出演なんです。なので、マスクをしながら稽古をした経験がなくて。たぶん相手の顔の下半分が見えないというのは、伝わってくる情報がすごく減る。本番になってマスクを外すと、一気に情報量が増えると思うので、そうなったら、人間は目以外のものからどのくらい情報を受け取っているのかということに気付けると思うんです。その気付きを自分がどう感じるか、興味を持っています。

鈴木亮平

鈴木亮平

天海:本当は舞台作品って、長い時間カンパニーのみんなと一緒にいて、このシーンはどうだ、この役はどうだと議論し、時にはケンカしながらひとつのものを作り上げるのが素敵なところだと思うんです。今回はそれができない。稽古場で、限られた中で最大限にコミュニケーションをとって、お互いの芝居を見ながら心を動かし、動かされ、稽古をしていきたいですね。

ーーまだまだコロナは油断できない状況ではあります。コロナ禍で演劇をやるということについての気持ちは。

天海:2020年のステイホームの期間、人と直に触れ合えず、本当に生で人と会えることのありがたさに気付きました。会えることって当たり前じゃないんだなと思った。今もまだ油断できない状況ですが、ライブエンターテインメントは動いています。みんなと同じものを見て、笑えること、感動すること、泣けることの素晴らしさを、劇場に足を運んでくださっているお客さまは実感していると思います。名前も知らない人たちと、同じ空間で同じ感動を分け合える幸せ、それが当たり前じゃないんだよと、やる側も、観てくださる方もひしひしと感じているんじゃないでしょうか。そして今の状況は「ひとつの作品をみんなで完成させましょう」という気持ちが高まっている気がします。そういう時期にこうやって作品を上演できることはありがたく、最後まで完走しなければという責任感も感じています。

鈴木:僕は先日舞台を観に行って、すごくいい作品で、終わったあとにみんなで拍手をしました。それはまさに同じものを知らない人と共有している感覚でした。それはあの場にいないと感じられないこと。そして今、どんどんエンターテインメントが「今でなくても見られる」ものになっています。配信サービスも増え、テレビも見逃し配信で見られたりします。その中でライブエンターテインメントは、その場に行かないと味わえない一回きりのもの。それが僕にとっては魅力的で、「そこにしかない魅力」がより際立ってきていると思います。

ーー最後に劇場に足を運ぶお客さまへメッセージを。

天海:とにかく蓬莱さんの脚本が非常に力があります。私はむしろ、何をお客さまが受け取ってくださるのだろうということが楽しみ。私たちは皆さまの目の前で精いっぱいやるだけです。その熱量を感じていただけたら嬉しい。面白い作品ですので、劇場に足を運んでいただけたらと思います。

鈴木:僕は最近映像の仕事が続いていましたが、舞台はお芝居の基本の形がある気がして、いつも自分をリセットさせてもらえます。もちろん演出から大きく外れることはありませんが、心の流れやリズムは、相手とのやり取りで毎日新鮮なセッションで生まれる。それが舞台です。その、“一回きり”の毎日の舞台をお客さまに観ていただけるのは本当に嬉しいこと。観てくださる方は、おそらく自分の生活に照らし合わせ、一歩踏み出してみようとか、こうしてみようと思うこともあるんじゃないかなと思います。もちろん、ただ「面白かった!」と思って帰ってくださってもいいですし。

天海:色々なことを感じていただけたらいいですよね。

(左から)天海祐希、鈴木亮平

(左から)天海祐希、鈴木亮平

取材・文=平野祥恵   撮影=iwa