演出家・俳優の流山児祥が主宰する流山児★事務所は、「宮本研連続上演」として、劇作家・宮本研(1926年〜1988年)の戯曲『夢・桃中軒牛右衛門の』を2022年8月に、『美しきものの伝説』を同年10月に上演する。まず第一弾の『夢・桃中軒牛右衛門の』が、8月10日(水)に下北沢・小劇場B1で開幕する(8月17日まで上演)。

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

戦後の職場演劇運動で頭角を現し職業劇作家になった宮本研は、「革命」と「民衆の夢」をめぐる男女の葛藤をモチーフとし、群像劇を得意とする劇作家だ。流山児★事務所は「関東大震災99年、宮崎滔天没後100年、辛亥革命110年、大逆事件死刑執行111年の現在、2022年、日本人はどこに向かおうとするのか? 革命は? 叛逆の志は失われたのか? 演劇がイマ、ココにある意義をかけて、稀代の劇作家・宮本研と格闘したい」との意志のもと、今回の二作品を上演するという。

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

8月10日(水)開幕の『夢・桃中軒牛右衛門の』は、1976年に文学座で初演の作品。孫文の辛亥革命をささえた日本人として有名な革命家・宮崎滔天が、ある日突然、浪曲師となるところから物語は始まる。

1902年に桃中軒牛右衛門を名乗り浪曲師となる宮崎滔天は、かつて「天下の乞食に錦を着せ、車夫や馬丁を馬車に乗せ、水飲み百姓を玉の輿、四海兄弟無我自由」(「落花の歌」)を志し、天下国家を論じアジアを駆け巡っていた。挫折したと思われた革命家は常に大衆と交わりをやめなかった。そんな滔天と彼を取り巻く人々の在り様を描く群像劇を、今回は劇作家・詩森ろば(映画『新聞記者』の脚本で日本アカデミー賞脚本賞受賞)が「現在の視点」で大胆にアダプテーション。また、音楽に朝比奈尚行を迎え、演出を流山児祥が務める。出演は、シライケイタ(劇団温泉ドラゴン)、山﨑薫、伊藤弘子、さとうこうじ、眞藤ヒロシ、三上陽永(ぽこぽこクラブ)、井村タカオ、石本径代、杉木隆幸、流山児祥ほか。

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

■詩森ろば(脚色)コメント

尊敬する宮本研さんの脚色をいきなり頼まれました。今よりずっと世界の民主化運動や革命、そして戦争などが近い時代の作品で、その知識と理解するためのインテリジェンスがあること前提の、比喩や暗喩に満ちた作品たちの上演は、なかなか難しいと前々から思っていました。

とは言え、わたしのような三流劇作家に筆を入れろなどといくらなんでも大胆すぎるというものです。さすが流山児祥。

でもおこがましさに耐えて引き受けたのは、そんな理由で理解されないのは悔しすぎる。今、ほんとうに上演すべき作品だと思ったからです。そして自分は、宮本研さんが生涯かけて言わんとしたことがわかる女だという少々のウヌボレがあったからです。

左翼的思想は持ちつつも、そのロマンチシズムに屈しなかった稀代の劇作家宮本研さんの真骨頂を、現代の物語として再生したいと臨みました。どうぞ劇場で、批判精神を山ほど持ってご覧ください。すべて受けて立ちます。

■流山児祥(演出・出演・芸術監督)コメント

〜『夢・桃中軒牛右衛門の』上演は40年来の念願であった〜

70余年前、この劇の主人公・宮崎滔天(シライケイタ)の実家の近くで僕は生れた。辛亥革命を支え続けた革命家・滔天の伝説を幼少時から聞かされたものです。滔天さんは「謀叛の児」でありながら庶民の英雄であった。そして、僕は少年時代の1960年代に、熊本出身の反骨の劇作家:宮本研の存在を知って衝撃を受けた。1976年『夢・桃中軒牛右衛門の』戯曲に出会い、いつの日にか上演しようと決めた。46年後、最高のキャスト・スタッフたちとともにやっと上演出来る、大感謝である。

明治の青年・滔天は「自由民権」の洗礼を受け、アジアを駆け巡り名著『三十三年の夢』を出版中国の民主化運動に多大な影響を与えた。辛亥革命に向けて新宿の借家(中国革命同盟会・民報社)には孫文(さとうこうじ)、黄興(甲津拓平)、宋教仁(木暮拓矢)といった革命家の英雄たちが集う梁山泊と化す。浪曲師・桃中軒雲右衛門(井村タカオ)に弟子入り、牛右衛門に転身しながら、滔天は辛亥革命と浪花節革命の果てに「世界革命者」へと変貌してゆくのである。

そんな滔天と中国の革命家たちの友情と冒険のドラマを、詩森ろばは妻・槌(山﨑薫)とその姉・波(伊藤弘子)をナビゲーターに「女性=現代の視点」で大胆に脚色してくれた。この劇は槌と滔天の「革命と愛」を描く壮絶な人間ドラマでもある。シライケイタと山﨑薫の競演をたっぷりおたのしみください。誰も見たことない「宮本研の革命音楽劇」に仕上げました。歌って踊って浪花節まで唸る流山児★事務所の自信作です。

コロナ禍を乗り越えて何とか上演できる「奇蹟」に感謝しながら全力で8日間10ステージ駆け抜けます。ぜひ、ふらりと下北沢B1までおいで下さい。熱い芝居が待ってます。(2022.8.10)

 

なお、10月5日(水)〜12日(水)には同じく下北沢・小劇場B1で『美しきものの伝説』を上演。こちらは1968年に文学座で初演の作品。登場するのは、大杉栄、伊藤野枝、堺利彦、荒畑寒村、平塚らいてう、島村抱月、松井須磨子、小山内薫、辻潤、神近市子など。大逆事件で弾圧を受けた社会主義者たち。残された者はそれでも新たな時代を求め、文筆活動・演劇などで民衆を動かそうと足掻く。新たな国の形、恋愛の形、思想、言論……。信じる自由のために悩み、衝突し、それでも理想を求め、やがて激しい時代の波に飲み込まれて行く。揺れ動く時代の中で閉塞状況を打ち破ろうと必死に生きる男女を描いたこの戯曲に気鋭の演出家・西沢栄治が挑む。出演は、田島亮(serial number)、申大樹(深海洋燈)、山丸莉菜、里美和彦、鈴木幸二、佐野バビ市(劇団東京ミルクホール)諏訪創、荒木理恵ほか。

「宮本研連続上演」の二作品とも今から約100年以上前を描く内容だが、21世紀の現代社会においても、私たちは相変わらず両作品から続く(あるいはそれ以上にヤバい)濃厚なキナ臭さに取り巻かれている。そんな時だからこそ、いま改めて宮本研作品から考えるヒントを得たいものである。

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)

流山児★事務所 宮本研連続上演『夢・桃中軒牛右衛門の』 (撮影:横田敦史)