『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』がスタート、その初日公演が埼玉県・戸田市文化会館にて2023年5月14日に開催された。
“絶望系アニソンシンガー”を掲げ、昨年は『ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 “Naked”』と題し全国7会場を、STANDING -歪-"、SEATING -響-“と2つのコンセプトで巡り、今年3月には『ReoNa ONE-MAN Concert 2023“ピルグリム”at 日本武道館〜3.6day 逃げて逢おうね〜』を開催、来場者を釘付けにしたReoNa。日本武道館公演を終えた後にはアルバム『HUMAN』をリリースし、そのアルバムを引っ提げてのツアーと勢いは止まるところを知らない。今回は新しい一歩を踏み出した初日、5月13日の様子をレポートする。

主にクラシックコンサートで使用されることが多い戸田市文化会館。その厳格な空気が漂う会場にファンが集結。各々が指定された座席に着くと開演時間を今か今かと待ち構えていた。そこに訪れる定刻、薄明かりが照らす舞台上にバンド隊が到着すると、拍手が巻き起こる。そして暗転、照らし出された舞台中央に本日の主役・ReoNaが姿を現した。
白のワンピースに白のレザージャケット、明るい髪色、全身を薄色に統一した彼女が立っていたのは、白く輝く一筋の光の上。足元に設置されていたのはLEDスクリーン、そこから真っ白な光が放たれている。そして彼女の登場に合わせてバンド隊によるサウンドが走り出す。そこに力強い歌声が合流し、本コンサートの幕が開いた。

撮影:平野タカシ

撮影:平野タカシ

撮影:平野タカシ

撮影:平野タカシ

ライブ冒頭はバンド隊全員で奏でる楽曲が続く。力強いサウンドと、それに負けない、しかし同時に儚さをも孕んだReoNaの歌声が聴くものを魅了する。ライブだからこそ聴くことができる、バンド隊とReoNaによるセッション。ReoNaの歌声に応えるように強く、時にははかなげに色を変えていくバンド隊の演奏と、その演奏を指揮するように新たな魅力を帯びるReoNaの歌声。その相互作用に大きく胸が震える。中でもバンドマスターでありキーボードを担当する荒幡亮平が、楽曲ごとに七色の音色をもって彩りを作り上げていく様子は実に感動的だった。

「いつも楽しみにしていた日には雨が降るのですが……」

ライブ序盤を駆け抜け、MCでそう語ったReoNa。そう、この日の埼玉県は生憎の悪天候、開演前の会場はシトシトとした雨に包まれ、会場隣の後谷公園に聳える木々は大いに水気を含んでいた。その言葉に心当たりがある観客も多かったのだろう、会場からは笑いが漏れる。しかし、彼女はそのあとこう続けた。

「さっき止んだらしいんだけど。」

その言葉に、拍手が起こる。日本武道館を経て、新たな一歩を踏み出したReoNa。その一歩は、天気すらも変えてしまう力を持っている、そう感じさせられる瞬間だった。

平野タカシ

平野タカシ

まだ始まったばかりの今回のツアーについて、極力披露した楽曲を伏せて記述してきた。しかし、中盤に披露した楽曲の中から、中でも印象的だった一曲には触れておこうと思う。2023年3月にリリースされたアルバム『HUMAN』を提げて開催される今回のライブ、本ライブでは収録曲の中から、おおかみのナラと、にんげんのさよこの物語、「さよナラ」が披露された。

「出会えたことが何より大切 出会えたことが何より嬉しい」

オルゴールのような優しい音色の中でそう語り、始まる本楽曲。荒幡亮平が奏でるピアノの上で、絵本を読み聞かせるように優しく歌いかけるReoNa。彼女が感情たっぷりに歌う物語に対して、自然と情景が浮かぶ。
そしてこの物語はクライマックスへ。その歌声には、ありありと情景を浮かばせる力があった。息を飲まずにはいられない。そして、この後に続く優しい「ふたりは友だち」の一言に涙を流さずにはいられなかった。

撮影:平野タカシ

撮影:平野タカシ

本ライブの味わいの深さは決して上述したエモーショナルさだけではないことは知っておいてもらいたい。中盤から後半にかけては多幸感あふれる展開も私たちを待ち受けていた。中でも印象深かったのは、NHK『みんなのうた』4月・5月放送曲「地球が一枚の板だったら」だ。

「君が10000苦しんでいるのなら 僕も一緖に苦しんでみせるから」

苦しいと感じている人に優しく寄り添う歌詞が、歌声として優しく会場を包み込む。これまで“絶望系アニソンシンガー”を掲げてお歌を披露してきたReoNa。その目には数々の絶望が写ってきただろう。そんな彼女だからこそ、寄り添うことができる誰かがいる。彼女に寄り添ってもらうことで救われる人がいる。それを感じさせる歌声がそこにはあった。会場に集まった人々はその優しい歌声に心地よく身体を揺らした。

撮影:平野タカシ

撮影:平野タカシ

ここに至るまで多くの表情を見せてきたReoNa。それを視覚的に盛り上げてきた演出についても触れておこうと思う。序盤でも触れた通り、今回のライブにおいて、ステージ中央には一本の光の道があった。ステージ中央に設置されたLEDスクリーンで作られた光の道は、楽曲に合わせた映像によって楽曲を盛り立てる。希望を映し出す白に、絶望を暗示させる深紅に、自在に表情を変えることで楽曲の世界観を表現してきたこの光の道。その上に立つReoNaの姿は実に印象的で、見るものの目に焼き付く。

撮影:平野タカシ

撮影:平野タカシ

そしてこの光の道が楽曲の魅力を最大限に引き出したのが、本ライブタイトルともなっている楽曲「HUMAN」だった。
ギターを手に、虹色に輝く光の道の上に立つReoNa。その姿に呼応するように荘厳なサウンドが会場に鳴り響くと、彼女が奏でるギターの音色と、儚くも力強い歌声が乗る。絶望だらけのこの世界で力強く生きていく、そんなメッセージが込められた本楽曲を歌う彼女の姿には、神々しさすら感じることができた。お歌を発する彼女の、そのまっすぐな視線にも胸を打たれずにはいられない。是非とも注目してほしい。

まだスタートして間もない今回のツアー。その様子をこれから目の当たりにする人も多いことを思うと、多くを語るのは躊躇われる。しかし、これだけは伝えておきたい。武道館での単独公演という大舞台を経たReoNaは、既に新しいステップに足を踏み出している、それを大いに感じることができたのだ。その姿を会場で目の当たりにしてもらいたい。

取材・文:一野大悟 撮影:平野タカシ