2023年9月浜離宮朝日ホール、2024年の紀尾井ホールとフェニックス・ホールの初ツアーそしてついに8月のサントリー・ホールを開催3か月前に完売した、注目のピアニストのBudo。4月はBS11『貴公子たちの音楽会』やサントリー・ホールで行われた『NEO PIANO Acoustic』、5月には京都のロームシアターの『のだめカンタービレ・クラシック・フェスティヴァル』にも登場、実に多彩かつ多才な魅力を見せてくれた。

ショパンの名曲やリスト「ラ・カンパネラ」、ベートーヴェンの「月光」など、人生のどこかで一度は聴いたことがある、クラシック音楽の超絶技巧曲をストリートピアノで演奏する動画は高い人気を博し、ついに10万人のフォロワー数を突破。長髪のカジュアルなルックスで、「ごきげんよう」から始まる独自の世界観はもはや「けいちゃん」や「菊池亮太」まで物真似するほど浸透しつつある。

そんなBudoが、サントリー・ホールを前にして緊急発表したのが、6月22日(土)岡山県立美術館ホールでのコンサート『Budo Classic 2024 SUPER STARS&ALL TIME BEST』である。角野隼斗や石井琢磨など新進気鋭のピアニストたちのコンサートを岡山で成功させ続けている、テレビせとうちの要請でツアーに先駆けて東京・大阪以外では初めてのリサイタルとなる。

Budoのコンサートを他のエリアに先駆けて実現したテレビせとうちの森通憲プロデューサーはこう語る。

「岡山はYouTubeでも活躍する若手ピアニストの登竜門!というのはおこがましいですが、2年前、角野さん初の全国ツアーは岡山からスタートし、今のご活躍は皆さん知っての通りです。また石井さんは岡山でのMV撮影、2台ピアノ公演、47都道府県ツアーとここ1年のうちに3度もご一緒し、会う度にスケールアップされていて、今後の活躍から目が離せません。

そして今、私が注目しているのがBudoさんです。成功するピアニストは皆さん唯一無二の個性があると確信しています。Budoさんの場合はエキゾチックな風貌、しかし口を開くととってもフレンドリーで親しみやすくそれだけで彼の魅力に引きこまれます。そしてひとたび演奏が始まると、時に力強く、また繊細で心の奥底まで沁み入る音色を紡ぎ出します。彼と出会って1年、すでにサントリーホールを完売させるまでに成長されていますが、この魅力をどこよりも早く、岡山で皆さんにお届けしたい!との思いでオファーし、今回の公演が実現しました。200席と距離感の近いホールだからこそ感じられる彼の息づかいにぜひ注目下さい」

2024年5月開催『のだめフェス』での演奏の様子

2024年5月開催『のだめフェス』での演奏の様子

演奏予定曲目をご紹介しよう。

冒頭はどうやらベートーヴェンの月光ソナタの第1楽章のようだ。バックサイドで括った長髪をなびかせながら颯爽と登場して、冒頭の一音目から驚かされた2月のリサイタル・ツアーを思い出させる。本来はピアニッシモで密やかにスタートするはずの低音2音は、岡山でも真逆なフォルテッシモで、ホールに響き渡るのだろうか。あの時と同じようにまた、一気にBudoの音楽世界へと引き込まれて、独自で自由な「月光」の演奏をまた聴いてみたいところだ。

ベートーヴェンのピアノ音楽の中でももっとも熱量が高い、このソナタの第3楽章を取り出して第2楽章を飛ばして弾くという、クラシックの常識を打ち破る「展開」も同じだ。シューベルト=リストの「魔王」に続いて、カナダでピアノに再挑戦するきっかけとなった、恩人マリーからプレゼントされたリストの楽譜を手元において「愛の夢第3番」を弾いてくれるようだ。ここまでは2月のSUPER STARSを踏襲した選曲であるが、後半はいよいよ新しいBudoの音楽を聴かせてくれそうだ。

サン=サーンス(ゴドフスキー編)「白鳥」
リスト「ラ・カンパネラ」
ベートーヴェン(リスト編)「交響曲第5番《運命》」第1楽章
ガーシュウィン(Budo版)「ラプソディー・イン・ブルー」

難曲をぶっ続けで聴かせてくれる予定である。選曲を見るだけでワクワクさせられるではないか。今回リストの「ラ・カンパネラ」は4月に亡くなったフジコ・ヘミングへの追悼の気持ちを込めて弾きたいというメッセージをBudoは発していた。

前回のツアー・レポートでも改めて、これほどまでにクラシックのピアノ音楽を楽しく聴かせてくれる演奏家が今までいただろうか、と書いた。その片鱗を今回も必ず見せてくれるはずだ。熱すぎる「クラシック愛」に溢れたBudoの演奏は、その場に居合わせたすべての聴衆の心を鷲掴みにしてくれるにちがいない。

ノリの良い大阪会場では、クラシック・コンサートとしては信じられない景色が展開された。弾いているうちに、促されたわけでもないのに、自然発生的に手拍子が起こったのだ。岡山でのそんな景色を見ることができるのだろうか。

文=神山薫