『BABY Q 沖縄場所』2024.6.2(SUN)沖縄・ミュージックタウン音市場

2024年6月1日(土)・6月2日(日)、弾き語り形式の回遊イベント「BABY Q」の沖縄場所が”音楽の街”として知られる沖縄市コザのミュージックタウン音市場で開催された。2019年から「Q」として始まり、2021年から『BABY Q』として弾き語り形式の全国各地で開催されている歴史については、第一夜のライブレポートを読んで頂きたい。

6月2日(日)第二夜も、第一夜同様に舞台後方はお馴染みの「Q」と描かれた大きなフラッグが飾られている。改めて第一夜の向井秀徳アコースティック&エレクトリック×折坂悠太の競演は凄まじく予想不可能な最狂の宴になったと振り返りつつも、第二夜の岸田繁(くるり)×青葉市子の競演にも期待が膨らみまくる。

青葉市子

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

青葉は青いワンピースで黄色の帯を腰に巻いて静かに現れる。青葉の声、鳥の鳴き声といった神秘的な声が会場に響き、沖縄民謡の青葉解釈による新曲が歌われる。続く「テリフリアメ」では、第一夜以上に舞台に置かれたロウソクや上から吊るされた電球が幻想的に光る。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

「みなさん、こんばんは。雨の中、来て下さってありがとうございます。昨日、凄かったみたいですね? 引き継いで……引き継いでいけるのか? 雨の中でしっとりいきます」

第一夜で全く書いていなかったが、沖縄でありながら2日間、かなりの大雨が降った。でも、特に青葉の音楽には雨のしっとり感が似あうように思う。そして、アニメーション『銀河鉄道の夜』を観た後に作ったという「アンディーヴと眠って」へ。曲終わり、外から聴こえる「サー……」という音について、青葉が「雨かな?」と触れる一幕も。歌と雨が同化したロマンチックな環境の中で、「海辺の葬列」や電子ピアノで鳴らされた新曲も披露された。不思議や幻想という言葉を軽く飛び越えて、神聖な時間とすら感じられる。続いても電子ピアノで音をループして重ねていきながら「Space Orphans」へ。静けさの中、静かに鳴らされる。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

「沖縄に着いた瞬間に体が大喜びしているのがわかりました。水を得た魚みたい。ただいまという気持ちになりました。こっち生まれじゃないのに。前作の「アダンの風」はこっちで制作をして、明日は今帰仁村でワンマンライブをします」

彼女にとって沖縄という場所が特別な場所であることが伝わってくる。「機械仕掛乃宇宙」では、それまでとの楽曲とはテイストが違い、リズムやメロディーが少し力強く届いてくる。メロディアスでありアップテンポでありリフレインもあり、駆け出していくような魅力があり、ナチュラルに惹きつけられていく。約10分を越える超大作であるが、聴き終わったあとの充実感は凄かった。ラストナンバー「アダンの島の誕生祭」で、しっとり静かに終えて、大先輩の岸田へとバトンを繋ぐ。

岸田繁(くるり)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

ゆったり出てくるだけで歓声が起きる岸田。ギターを持ち、首にかけたハーモニカを吹き、<夜は霧島 煙草は国分 もえて上がるは オハラハー桜島>と民謡の「鹿児島おはら節」を歌い始める。先程の青葉の沖縄民謡の始まりではないが、南の土地土地で歌い継がれる民謡を、現代の音楽家が歌うことで我々が知れることは誠に意義深い。

約15年前のくるりによる楽曲「デルタ」も歌われるが、しっかり歌詞が我々聴く者の頭に、心に入ってきて、改めて歌の存在感に気付かされる。続くは同じくるりによる約24年前の「ワンダーフォーゲル」。打ち込みとバンドとの融合したサウンドが斬新な楽曲だが、岸田ひとり弾き語りで聴くと、また聴き方や受け止め方が違ってきて新鮮で興味深かった……。

<ハローもグッバイもサンキューも言わなくなって こんなにもすれ違って歩いてゆく>

何度も何度も聴いてきた歌詞だが、やはり、とてつもなく沁みる……。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

「青葉市子と申します。声変わりをしました」という冗談を飛ばしながら、以前は2年に1回くらいは沖縄に来ていたが、今回は8年ぶりだと話す。その間に色々なことがあったという話題から、46歳で免許を取り、今回もレンタカーを借りて、美ら海に行ってきたなどと喋る。モノレール、沖縄そば、ステーキなどなど観光的に楽しみながら、ホテルの真裏にある初見のバーに飛び込みで入り、マスターや女性店員に年齢を聞いたら、48歳にも関わらず50代と答えられた話などを嬉しそうに振り返っていく。8年ぶりの沖縄でリフレッシュしていることが伝わってくる。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

「そろそろ名前を明かしましょう! 私、岸田繁と申します。ひとりなんで、くるりじゃない曲も歌おうと。昔、沖縄に住んでいたミュージシャンが書いた曲です。ローザ・ルクセンブルグ、どんとさんの「橋の下」を」

<何にもないけれど橋の下>という言葉が響き渡って、兎にも角にも良い歌である……。

ここからは「琥珀色の街、上海蟹の朝」「言葉はさんかく、こころは四角」とくるりの楽曲が続く。沖縄だからこそのカバー楽曲、そして、くるりのオリジナル楽曲を交互に聴けるというのは本当に贅沢すぎる。8月にはくるりのツアーで沖縄にも来ることもあり、「ひとりでしかできない曲を持ってきていて、ちょっと珍しいものをやりましょか」とカバー楽曲へ。充分にカバー楽曲を聴かせてもらっていただけに、次は何が歌われるのかとワクワクしていたら、岸田が高校の文化祭でコピバンして演奏したアメリカのハードロックバンドであるMR.BIG「To Be With You」! 1991年の世界的大ヒット曲だが、久しぶりに聴くとグッドメロディーであり、ドラマチックであり、今時の言葉で言うならばエモーショナルでもあり、本当に貴重なものを聴くことができた。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

「カバーの方が楽やな(笑)。カバーやろか! 俺の十八番やるわ!」

そう言って歌われたのは、<涙には幾つもの想い出がある>と名調子で始まる、吉幾三の1988年の大ヒット演歌ナンバー「酒よ」。MR.BIGと吉幾三の振れ幅が凄すぎるが、共に共通するのは懐かしさだけではなく、普遍的な音楽の良さを感じられるということ。特に「酒よ」は岸田のかき鳴らすギターがブルージーでもあり痺れるしかなかった……。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

凄まじい2曲で〆られたが、すぐにアンコールの拍手が鳴りやまなくなり、岸田と青葉が笑顔で登場する。沖縄名物タコライスは学生時代にタコが入ったライスだと思っていたという他愛もない話から、いよいよ本題へ。昨日のアンコールセッションが凄かったことを聴いていると青葉が切り出し、岸田も青葉と楽屋で遊んだことはあっても、みなさんの前では初めてですから「表で遊びましょ」とアンコールセッションを始めることに。青葉は電子ピアノで浮遊感ある音色を生み出していき、そこに岸田のギターも爪弾かれていき、くるり「ばらの花」へ。スペシャルなセッションだからこその、ここでしか聴けない演奏。岸田も「これだけで俺、来た甲斐があったわ。めっちゃエエわ!」と大満足する。

青葉が波照間島のムシャーマというお祭りで教えてもらった沖縄民謡「波照間口説」もふたりで披露する。いつもよりテンポが速かったらしく、青葉は「岸田節!」とこれまたここでしか聴けない貴重なものが聴けた。「もう1曲やりますか?」という岸田の声掛けで、青葉の新曲に決まるが、「ひとりではできないので、岸田さん、ペンギンの足音を手伝って下さい!」と青葉のレクチャーで、岸田がペンギンの足音を擬音で表現するまさかの展開に! 「打ち合わせに無いな? 俺がやる!?」と岸田は笑いながらも、キュートなスキャットの如くチャーミングにペンギンの足音を表現して、これこそ本当にここでしか絶対に観れないセッションに! 青葉は「大先輩なのに……」と恐縮しながらも、岸田も「ペンギンに先輩も後輩も無い!」と和気あいあいとした状況になっていく。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

岸田と青葉が初めて逢ったのが細野晴臣のライブということもあり、細野が沖縄民謡とは違う解釈で作った沖縄民謡っぽい楽曲「Roochoo Gumbo」を、岸田がまた違う解釈を入れてカバーすることに。そこから、細野のライブで初めて逢った時に、細野の指示によりふたりで鳥のダンスを披露したことも、ラストナンバーは細野晴臣「悲しみのラッキースター」。歌い終わり、岸田から青葉に手を差し伸べて、最後は縦一列で、おそらく鳥のダンスと思われる動きで、ふたりは仲良く袖に去っていった。

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)

第二夜のふたりが第一夜のふたりが何をしたかを気にかけて引き継ぎながら、しのぎを削って高め合うというか……。お互いに顔を合わせない二夜に分かれたイベントながらも、揺るぎない繋がりの物語を体感することができたし、或る意味、弾き語りでありながら、第一夜と第二夜の対バン的な要素も伝わってきて、極めてぜいたくな夜だった。

次は早くも8月3日(土)に石川県金沢市文化ホールにて『BABY Q 金沢場所』が開催されて、EGO-WRAPP N’(Acoustic Set)、TENDRE、ハナレグミの3組の出演が決定している。今までにも行ったことがある方は全制覇する気持ちで向かっていただき、今まで行ったことがない方は是非とも次から向かっていただきたい。こんなに稀有な全国各地を巡る弾き語り競演イベントは『BABY Q』でしか有り得ないので。

取材・文=鈴木淳史 写真=『BABY Q』提供(撮影:Makiko Nagamine)