前橋育英、点が入らなくても慌てず騒がず。流経大柏をこじ開け初優勝

前橋育英、点が入らなくても慌てず騒がず。流経大柏をこじ開け初優勝

 正月恒例の全国高校サッカー選手権。今年度の決勝は、掛け値なしの好ゲームだった。

 ハイレベルな試合内容はもちろん、最近2大会の決勝がいずれも5−0というワンサイドゲームに終わったのに比べると、最後の最後までどちらが勝つかわからない展開も、試合を非常に見応えがあるものにした。

 結果から言えば、前橋育英(群馬県)が流通経済大柏(千葉県)を1−0で下し、初優勝を遂げた。

 今大会の前橋育英は、全5試合で16得点1失点。相手に打たれたシュートはわずかに11本と、1試合平均で2本程度しかシュートを許さなかった。選手個々の技術が高く、正確なパスワークで攻め込むことができるうえ、一度ボールを失っても素早い攻守の切り替えと、球際での争いの強さで、すぐにボールを奪い返すことができた。常に敵陣で攻守を繰り返す、圧倒的な強さを見せつけての戴冠だった。

 とはいえ、決勝で敗れた流経柏もさすがだった。

 前々日に行なわれた準決勝を見る限り、決勝は大差になる可能性もあるのではないかとも思えた。それほどに、前橋育英は強度の高いプレーの連続で相手を圧倒していた。にもかかわらず、決勝が一方的な試合にならなかったのは、過去に選手権優勝経験を持ち、今年度の全国高校総体(インターハイ)王者でもある流経柏が、前橋育英のなすがままにはならなかったからだ。

 流経柏はこの試合、大会得点王になった前橋育英のエースストライカー、FW飯島陸(いいじま・りく/3年)に、MF三本木達哉(さんぼんぎ・たつや/3年)をマンツーマンで張りつかせ、まずは相手の得点源を絶ち、加えて前線からの積極的なプレスで前橋育英の攻撃を制限した。流経柏の本田裕一郎監督が語る。

「前橋育英の攻撃力はうちより上。守備的にやらざるをえなかった」

 いわば、相手の実力を認めたうえでの苦肉の策。だが、前橋育英の山田耕介監督が「前半は(流経柏の)圧力に押されていた」と振り返ったように、流経柏の戦略は功を奏した。

「相手は(試合への)入りがいいチーム。プレッシャーに慣れるのに時間がかかった」

 鋭いドリブルを生かした攻撃参加を得意とする、前橋育英のDF渡邊泰基(わたなべ・たいき/3年)もそんな言葉で前半の戦いを振り返る。

 実はこの両校は、昨夏の全国高校総体の準決勝でも顔を合わせ、そのときは前橋育英が敗れている。渡邊が語る。

「インターハイのときも、(流経柏は)ああいう(マンマーカーを置く)フォーメーションだった。そのときは攻め手がつかめず、ロングボール頼りになってしまい、自分たちのサッカーができなかった」

 流経柏のゲームプランは、「前半は0−0でいき、後半勝負」(本田監督)。ボールを保持する時間が長かったという意味では、前橋育英が攻勢だった前半だが、狙いどおりに試合を進めていたのは、むしろ流経柏だったのかもしれない。

 後半に入っても、驚異的と表現していいほどの粘り強いディフェンスで、前橋育英に得点を与えない流経柏。こうなると、攻めている前橋育英に嫌なムードが漂い始めるのが、サッカーの常である。時折、流経柏が繰り出すカウンターも、そんな雰囲気に拍車をかけた。

 しかし、流経柏は耐えて守ることはできても、そこからさらに勝利を手繰り寄せる手段は持ち合わせていなかった。「なかなか勝負をかけられなかった。策が見つからなかった」とは本田監督の弁だが、準決勝でスーパーゴールを叩き込んだMF加藤蓮(かとう・れん/3年)を交代投入するなど、前橋育英よりも先に手を打つも、さしたる効果は見られなかった。

 その一方で、前橋育英は総体で敗れた経験から、「今日は普段どおりに戦えた」と渡邊。アルビレックス新潟入りが内定している攻撃的サイドバックは、「もう少し攻撃に厚みを出せればよかったが」と反省の弁を口にしながらも、「時間が経つにつれ、ボールをつなげるようになった。前半の終わりぐらいにチャンスが作れて、後半はいい感じで攻められた」と語る。

 自分たちがやるべきことはできている。そんな手応えのある前橋育英に焦りはなかった。キャプテンのMF田部井涼(たべい・りょう/3年)はこう言う。

「流経柏は、ホントに守備が堅くて強いチーム。だから、(得点が)入らないのが当たり前というくらいの気持ちで焦れずにやれた」

 そして試合は90分を過ぎ、後半のロスタイムに突入。田部井涼は「延長戦も頭にあった」と、振り返る。

 だが、山田監督がそのリーダーシップを高く評価するキャプテンは、冷静に試合の流れを把握したうえで、「(試合終盤の)決定機が作れていた時間帯だったので、流れ的に(得点が)入るかもしれないと思っていた」。

 はたして、ロスタイムの92分。待望の決勝ゴールが決まる。

 田部井涼が左サイドからフワリと浮かしたボールを中央へ送ると、FW榎本樹(えのもと・いつき/2年)がヘディングで落とす。これを拾った飯島がうまくターンしてマークを外し、左足で放ったシュートはマンツーマンマークの三本木にブロックされたが、こぼれたボールを榎本がゴールへ叩き込んだ。殊勲の2年生FWが語る。

「ゲームには流れがある。(ゴールが決まったときは)流れがいい時間だったので、(延長戦突入目前でも)諦めずにゴールへ向かうことが大事だった。(ロスタイムの)3分という時間は短いようで長いから」

 敗軍の将、本田監督が「負けに不思議の負けなし。負けるべくして負けた」と、潔く語ったように、両校の間には決して小さくない実力差があった。結果は妥当なものと言うしかない。

 しかし、だからこそ、流経柏はその差を埋めるべく策を講じ、勝機を探った。一方の前橋育英は落ち着いて試合の流れを見極め、慌てずに勝負どころを待った。

 90分間にわたって両校が繰り広げた、駆け引きを含めた激しい攻防。それこそが、試合を見応えのあるものにした最大の理由である。

 それにしても、今季の日本サッカー界を振り返ると、どうやら「初」がキーワードだったようだ。

 今季J1では川崎フロンターレ、ルヴァンカップと天皇杯ではセレッソ大阪という、これまで優勝に届きそうで届かず、何度も”銀メダル”に泣いてきた悲運の2クラブが、そろってクラブ史上初タイトルを手にした。

 そして、高校選手権。前橋育英もまた、過去にベスト4が4回、準優勝が2回と、頂点まであと一歩のところで涙を飲み続けてきたチームである。

 出場21回目にして、ついに悲願成就の選手権初制覇だった。

関連記事

webスポルティーバの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索