大迫、平山、浅野…歴代得点王とは違う高校サッカーの「小さな怪物」

大迫、平山、浅野…歴代得点王とは違う高校サッカーの「小さな怪物」

 全国高校サッカー選手権の歴史を紐解けば、常に”怪物”と呼ばれる存在がそこにはいた。

 その多くは、得点を量産するストライカーを指している。今大会の応援リーダーを務めたFW大迫勇也(ケルン)は、その筆頭だろう。

 第87回大会(2008年度)に出場した大迫は圧倒的なフィジカルとシュートセンスを遺憾なく発揮し、ゴールを連発。1大会における最多得点記録となる10ゴールをマークして鹿児島城西の準優勝に貢献している。

 その体格や技術は群を抜いており、高校生のなかにひとりだけ大人が混じっていたようなもの。得点能力だけでなく「後ろ向きのボールめっちゃトラップする」、まさに「ハンパない」選手として全国のサッカーファンに強烈なインパクトを残した。

 この大迫だけでなく、通算17ゴールの大会記録を持つ国見のFW平山相太(ベガルタ仙台)、強烈なシュートを連発して優勝に貢献した同じ国見のFW大久保嘉人(川崎フロンターレ)、鮮烈なスピードで対戦相手を手玉に取った四日市中央工のFW浅野拓磨(シュツットガルト)らも、”怪物”の枠に組み込まれるだろう。彼らは前評判どおりの活躍を示して得点王に輝いている。

 彼らに共通するのは、いずれも高校生離れしたフィジカルを備えていたこと。高さ、強さ、速さと、その特長は異なるが、身体的な能力が他の高校生よりも秀でていた。いわば早熟であり、だからこそ高校生年代の試合のなかでは図抜けた存在となり得たのだ(もちろん技術面も十分に備わっていたが)。

 一方で、高校時代に怪物と呼ばれた選手たちがその後、大成するケースは意外と多くない。高校時代には武器だったフィジカル面が、プロの世界に行けば特別なものではなくなってしまうからだ。そこだけに頼っていた選手が上のレベルで伸び悩み、苦戦する例は枚挙にいとまがなく、大迫や大久保のようにプロでも成功する選手はむしろ稀(まれ)と言えるかもしれない。

 ひるがえって、今大会で得点王に輝いたのは、初優勝を果たした前橋育英(群馬県)のFW飯島陸(いいじま・りく/3年)だった。強烈なフィジカルを備え持つという怪物の定義を持ち出せば、飯島はむしろその対極にある。

 身長166cm体重58kgと、体格は一般的な高校生の平均よりも劣るだろう。しかし、この小柄なストライカーがゴールを量産できたのは、類稀(たぐいまれ)なる能力が備わっていたからだ。

 その能力とは、動き出しだ。対峙するディフェンダーの一瞬の隙を突き、あっという間に裏に抜け出していく。その”ラインブレイク”の技術の高さは、名古屋グランパスのFW佐藤寿人を彷彿とさせる。

 今大会、飯島が決めたゴールは全部で7つ。2回戦の初芝橋本(和歌山県)戦で4ゴールを奪うと、3回戦の富山第一(富山県)戦では終了間際に決勝ゴールを奪取。準決勝の上田西(長野県)戦でも2点を記録した。

 7ゴールのうち4得点が得意の裏に抜け出す形から奪っており、2点はこぼれ球を押し込んだもの。もう1点はロングスローを頭で合わせたものだったが、いち早く到達地点を察知するその嗅覚は、まさにゴールハンターの動きだった。

 もっとも、流通経済大柏(千葉県)との決勝戦ではゴールを奪うことができなかった。それは、執拗なマンマークを受けたことが原因だった。

「飯島くんはすごい選手ですから、ほっといたら何点獲られたかわからない」

 流経大柏の本田裕一郎監督が講じた”飯島封じ”の奇策に、小柄なストライカーは大いに手こずった。ボールを引き出そうと動いても、常にとなりには赤いユニフォームの20番――DF三本木達哉(さんぼんぎ・たつや/3年)につきまとわれる。

「ここまでマンマークされたことはないですね。すごくしつこいなという感じで、やりづらかったです。でも、相手がマンマークでくるのはわかっていたので、そこでどういうふうにやろうかということは考えていました」

 マークにつかれながらも、飯島は冷静だった。自身が動き出すことで味方のスペースを作る役割を担いつつ、前半終了間際には三本木の一瞬の隙を突いてポスト直撃の決定的なシュートも放った。

 そして試合終了間際に生まれた決勝ゴールも、飯島の動きの鋭さがもたらしたものだった。味方が競り合ったボールにいち早く反応すると、追いすがる三本木と飛び出してきたGKを振り切って左足を一閃(いっせん)。このシュートは三本木の驚異的な粘りによって阻まれてしまったが、こぼれ球を2年生ストライカーのFW榎本樹(えのもと・いつき)が押し込んで、前橋育英に歓喜の瞬間が訪れた。

「打った瞬間、やっちまったなと思ったんですけど、樹がうまく詰めてくれたのでよかったです」

 ヒーローの座は後輩に譲ったが、マークを受けながらも常に隙を狙い続けた飯島の執念が実った瞬間だった。

 2年生のときから10番を背負い、準優勝に終わった昨年の大会でも全試合にスタメン出場。しかし大会を通じて1点しか奪えず、0−5と大敗を喫した青森山田(青森県)との決勝では途中交代の屈辱も味わった。

「昨年の大会から学んだ決定力の部分は、この1年間、こだわってやってきました」

 飯島はそう振り返る。シュート練習を徹底して行ない、気づけば2時間もボールを蹴り続けたこともあったという。その成果として、得点王に輝き、母校に悲願の初優勝をもたらした。

 見た目もさることながら、報道陣からの質問にたどたどしく答える飯島は、どこにでもいるような素朴な高校生と変わりはない。それでもその答えには、ストライカーとしての強烈な自負が備わっていた。

「7ゴールも獲れてうれしいですし、去年より全然いいと思っていますが、まだまだ決め切れるシーンもあったんで、もっと点を獲れたと思います」

 卒業後は法政大に進学し、4年後のプロ入りを目指すという。

「大学ではもっと相手の身体も強くなってくると思うので、そういうところも鍛えていかないといけない。そのなかでも結果にこだわってやっていきたいです」

 怪物と呼ぶには、まだ迫力に欠ける。それでも、そのポテンシャルは過去の怪物たちにも見劣りしない。むしろ伸びしろがあるぶん、大成の可能性も大きいだろう。日本一を掴んだこの大会が、小さなストライカーを真の怪物へと向かわせる、第一歩となるかもしれない。

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