たとえ裏切り者と言われても…。齋藤学がライバル川崎Fに移籍した理由

たとえ裏切り者と言われても…。齋藤学がライバル川崎Fに移籍した理由

 昨年春、海外も含めて移籍の噂が立っていたときのことだった。齋藤学は毅然として語っていた。

「もし自分が外に出るなら、たとえ何を言ったとしても、”裏切り者”であることには変わりない。そう思っています」

 齋藤は少し思い詰めたように息を吐いた。

 2018年1月、横浜F・マリノスのキャプテンで背番号10、生え抜きのエースは、J1王者である川崎フロンターレへの移籍を決めている。一昨シーズンの終わりからオファーを受けていたが、海外への移籍を優先していたこともあって、当時は成立していない。今回は契約満了で、同じ神奈川県のクラブへの鞍替えになった。

 これが長年望んでいた海外への移籍だったら、これほど激しい反感を買うこともなかったのだろうか――。

「逃げたくない」

 齋藤は自身のキャリアの中で、繰り返し言っている。プロに入ってから、安易な道を選んだことはない。「行ったら戻ってこられない。片道切符」と言われた愛媛へのレンタル移籍も、自ら率先して選び、プレーする場所を得て活躍し、見事に1年で返り咲いている。


 ギリギリの勝負をしてきた”報酬”だったのだろう。ロンドン五輪もブラジルワールドカップも、最後の最後でメンバーに滑り込んでいる。

 2017年シーズンに横浜F・マリノスでキャプテンを引き受けたときも、「重圧になるのではないか」という声に対し、敢然と言い放った。

「前のシーズンと同じ(環境)だったら意味がない。苦しいのを乗り越えてこそ、強くなれる。自分が大きくなるひとつのチャンスだと捉えています」

 そして下馬評は低かったチームを牽引し、シーズン途中から反転攻勢に転じた。

「まだまだです」

 彼はどれだけ活躍しても、むしろ活躍すればするほど、飽くなき欲求をたぎらせていた。キャプテンとして若手選手に積極的に声をかけ、フォア・ザ・チームに徹するようになった。一方で、ゴールが生まれないことに自らを叱咤した。

「足りないことばかり。ボールを失うし、仕掛けるのも足りない。全然、足りないです。点を獲れていないのは何か理由があるんです。そこを追求しますよ」

 齋藤は自らを追い込むように言い、決して状況から逃げなかった。少しの言い訳も口にしていない。真面目すぎるほどすべてを背負い、8月には優勝争いに加わった。

「(チームを)背負いすぎと言われているけど、自分の前の人たちはみんなそうだったし。苦しい今、つらい今を、逃げずに過ごせています」

 齋藤は気丈にそう語っていたが、実はかなりの無理を自らに強いていた。シーズン序盤と中盤に、2度ほどケガで戦列を離れている。1試合休んでから復帰したものの、以来、痛みが引かないまま騙(だま)し騙しのプレーだった。

 そして昨年9月、ヴァンフォーレ甲府戦で右膝前十字靱帯断裂という全治8カ月の大ケガを負っている。

 その代償は大きく、ロシアワールドカップへの道のりは険しくなった。もっとも、本人は奇跡を起こすことを諦めていない。なぜなら、彼は強烈な責任感と向上心をてこに、高く飛ぶことができた選手だからだ。

「厳しい道を選びますよ」

 川崎移籍を発表する前に、齋藤はそう洩らしている。言葉では言い表せないほどに、苦渋の決断だったはずだ。

「この移籍は許せない!」

 そう反発する人が出るのを、彼が想像しないはずはなかった。

 今回の件は、「温情」と「ビジネス」という相容れない要素が根っこにある。一昨年、齋藤は海外移籍を視野に入れるも契約がまとまらず、出戻りの形になった。再び海外移籍を見据えての単年契約。これは交渉の問題で、齋藤本人の罪ではない。

 しかし1年間プレーし、思いのほかクラブから自身への評価は低く、他の選手への査定や強化方針にも不信感が募った。一方で、熱心な誘いで納得のいく評価をくれたJ王者があった。そして、移籍を決断した。

 プロとしては当然の決定であるが、愛されていただけに憎しみも深かった。他の選手なら、「裏切り者」とまで責められはしない。彼のプレーはそれほど人の心を動かしてきたのだろう。

「プレーヤーとしてピッチで喜びを伝えたいですね。僕のことを知らなくても、サッカーを知らなくても、サッカーってこんな面白いんだって。幸せな気持ちになって、またスタジアムに来てもらえるように」

 それが齋藤のプロサッカー選手としての境地である。2018年シーズン、齋藤は川崎フロンターレのユニフォームを着る。

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