熱気と哀愁の「村田修一フィーバー」に栃木の選手、ファンが思うこと

熱気と哀愁の「村田修一フィーバー」に栃木の選手、ファンが思うこと

 試合開始4時間前というのに、球場前にはすでに行列ができていた。試合開始1時間半前の開門時になると、その列はさらに長く伸びていた。ところは栃木市民球場。休日であることを考えても独立リーグでは異例の光景といっていい。

 今シーズン、村田修一がルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに入団した。一昨年、NPBの巨人で3割をマークし、ベストナイン、ゴールデングラブ賞に輝きながらも、昨年はケーシー・マギーの加入により開幕はベンチスタート。それでもシーズン途中からは三塁手のレギュラーとして活躍し、15年連続となる2ケタ本塁打(14本)を記録した。

 だがチームは3年連続優勝を逃すどころか、11年ぶりのBクラス転落。若返りを図るべく、2000本安打を目前にした大ベテランの村田を放出したのだった。

 巨人を退団した当初は、多くの人が「そのうち(移籍先が)決まるだろう」と思っていたに違いない。実際、入団に向け村田を調査していたNPB球団もあったと聞く。だが、年が明け、キャンプが始まっても村田に声をかける球団は出てこなかった。

 それでも村田は現役続行を決意し、それまで気にも留めたことがなかった独立リーグにプレーの場を求めた。

「今までも地方球場で試合をしたことありますんで……」と、独立リーグの厳しい環境も気にしないと平静を装っているが、悔しくないわけがない。ただその思いを胸に封じ込めていられるのは、”NPB復帰”という大きな目標があるからだ。

 その村田を受け入れた栃木ゴールデンブレーブスは、想像もしなかった大スターの入団に大きな期待を寄せる。なにしろNPBで2度の本塁打王を獲得するなど、セ・リーグ屈指の強打者が、オラが町のチームに来てくれたのだ。

 開幕から1カ月近くが経ったが、「観客動員は昨年とまったく違う」と地元記者は驚きを隠さない。

 村田も、行き先のなかった自分を引き受けてくれた球団に恩義を感じているようで、時間の許す限りファンにサインする姿があった。

 運営資金に四苦八苦している球団は、ここぞとばかりにレプリカユニフォームに村田の直筆サインを入れ、通常と同じ値段で販売しているが、昨年とは比べものにならないくらいの売れ行きに、現場はうれしい悲鳴を上げている。

 その盛り上がりは、グラウンドで戦っている選手たちも実感している。

「『やっぱりお客さんがいっぱいだと気合いが入るよな』ってみんな言っています」

 そう語るのは、入団2年目の投手・前田大佳(まさよし)だ。ベンチの雰囲気が村田の存在によって変わったかどうかについては、「そもそもメンバーの入れ替えが多かったのでわからない」と言うが、”村田効果”は確実にチームにとってプラスに働いているという。

 ただ前田自身は、投手の立場から「ほかのチームに入ってくれていれば対戦できたんですけどね」と、村田と対戦できない悔しさをにじませていた。

 村田は独立リーグへの参加を「人生経験」と言う。これまで経験したことのない環境に身を置くことで、仮にNPB復帰を果たせなくても「何かを得る」という姿勢だ。それはグラウンドでの姿にも表れている。試合前、ティーバッティング、シートノック中は時折、笑顔がこぼれ、積極的に若い選手に声をかけているのが印象的だ。今年入団した比嘉大智は言う。

「最初はやっぱり怖かったですよ。でも、村田さんの方から結構声をかけてくれるんです。ベンチでも積極的に声を出してくれていますし」

 ただ村田の入団によって、出場のチャンスを減らす選手がいることも事実だ。大物ベテラン選手の入団は、若い選手の芽を摘むことにならないのだろうか。その疑問に対して、栃木の辻武史監督はこう断言する。

「独立リーグはチャレンジの場。それは元NPBの選手にとっても同じ。村田だってNPBに戻るためにここでチャレンジしているんです。若い選手はそれに勝たないと」

 一方、対戦相手は村田をどう見ているのだろうか。同地区のライバル・新潟アルビレックスでサードを守る樋口龍之介は「別に気にしていません」と言い、こう続ける。

「そりゃ、すごい選手っていうのはわかっていますけどね。ただ、村田さんひとりで勝てるわけでもないですし……。特に参考にしていることもないですが、村田さんの打席はしっかり見ています」

 同じ土俵に立てば経歴は関係ない――あえて、自分にそう言い聞かせているようにも思えた。

 実際に誰よりも”村田効果”を感じているのはファンだろう。巨人ファンの多い栃木という土地柄もあって、村田の入団にファンは沸き立った。

 タクシーに乗って行き先を告げると、まず村田の話題から始まる。またBCリーグは試合の模様をネット中継しているが、この視聴者も昨年に比べて大幅増とのこと。

 さらに今年の開幕戦は、チームが本拠地を置く小山(おやま)市の5500人収容の球場で行なわれたが、当日は駐車場がいっぱいになり、渋滞で前売り券を購入したにもかかわらず、球場にたどり着けなかったファンもいたという。まさに今、栃木ではちょっとした”村田フィーバー”が起きている。

 このフィーバーはしばらく続きそうだ。栃木ゴールデンブレーブスは、公式戦として5月11日から3連戦で巨人三軍との交流戦を迎える。球団はこのシリーズを”男・村田祭り”と題して、村田の”古巣退治”を盛り上げようと様々な企画を練っている。

 しかし、こうした盛り上がりは村田にとって必ずしも本意ではないだろう。野球好き女子で結成された栃木のチアリーディングチーム「ゴールドラッシュ」のメンバーも、憧れの存在である村田を前に複雑な表情を浮かべる。メンバーのひとりはこう語る。

「もちろん、間近で見ることができて嬉しい気持ちもあるんですけど……。本来はNPBで活躍して当然の選手ですから。半分はさみしい気持ちですね」

 独立リーグは村田修一のいる場所ではない。そのことは本人のみならず、球団、選手、ファンの誰もがわかっていることだ。近い将来、村田の姿が再びきらびやかなカクテル光線に包まれることを切に願う。

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