あの北大医学部サウスポーが「プロ挑戦は今年が最後」という背水の陣

あの北大医学部サウスポーが「プロ挑戦は今年が最後」という背水の陣

「今日はよろしくお願いします。次のトレーニングが終わったら、すぐ行きますので」

 少し日に焼けた青年は、慣れた様子でこう述べて、颯爽とトレーニング場へと向かっていった。青年の名は三木田龍元(みきた・りゅうげん)。2017年、四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズに入団し、今季2年目を迎える左投手だ。

 挨拶を交わしただけでも、”取材慣れ”していることが伝わってきた。それもそのはず、昨シーズンの開幕前、三木田はアイランドリーグの”主役”だったからだ。

 小樽潮陵高(北海道)を卒業後は、”道内最高学府”である北海道大へ。医学部保健学科で学び、卒業時には作業療法士の国家試験に合格。

 さらには在学中に「ふと書店で対策テキストが目に入り、興味が湧いて」と、合格率5%未満の難関資格である気象予報士の試験も突破した。

 卒業後は北海道大の大学院に進もうと考えていたが、自身の成長の手応えと、合うランドリーグのトライアウト受験時にリーグ関係者から「本気でやればNPBを目指せる」と熱心なアプローチを受けたことから、挑戦を決意した。

 野球選手としては異色のエピソードを数多く持つ三木田を、メディアが放っておくはずがない。「北大医学部出身のインテリ左腕」。このフレーズとともに、地元だけでなく、全国メディアでも取り上げられた。

「『学歴や来歴ではなく、野球の実力で取り上げられたい』という気持ちは当時から強く持っていました。でも、高校、大学では全国大会に行けていないですし、自分が歩んできたのは”日陰”の野球人生。野球以外の部分で取り上げられる違和感がある半面、取材してもらえることは嬉しくもありました」

 こうして幕を開けた独立リーグ生活だったが、シーズンに入ると、開幕前の喧騒が嘘のようにパタリと止む。シーズン終盤には、テレビ局から約3日間の密着取材を受けるも、放送当日の番組に三木田の姿は一切登場せず。別日程で追加取材を受けたチームメイトの映像に差し替えられる悔しさも味わった。

「すべての原因は、期待していただきながらも結果を残せなかった自分。でも、あれは悔しかったですね」

 苦笑しながら、当時の心境を振り返る。昨シーズンは33試合に登板し、1勝6敗2セーブ、防御率3.58。結果を残せたとは言い難い内容という自覚も当然ある。

 ドラフトが近づいても、NPB球団が獲得の可能性を伝える調査書は手元に届かず、スーツを着て会見場の最前列に座る”スーツ組”には加わることができなかった。自身は練習用のウェアに身を包み、指名を心待ちにするチームメイトを見守ることしかできない歯痒さも経験した。
 
 そんな雌伏(しふく)の時を過ごした独立リーグ1年目。登板を重ねるなかで、強く感じたのが「メンタル面の弱さ」だったという。

「ここで打たれたらどうしよう、という気持ちが強すぎて厳しいコースを狙う。腕を振りきれず、コースも攻めきれない。結局、四球を出す……。すぐ弱気になってしまい、打者に対してまったく”上”に立つことができませんでした」
 
 シーズンを戦うなかで浮き彫りになった精神面の課題。通常であれば、メンタルトレーニングに取り組むところだが、三木田の考えは異なるものだった。

「メンタル面の弱さを自覚した上で、身体を強化する、心技体の”体”の部分を鍛えようと考えました。身体を大きくして球威を上げれば、少々コースが甘くても打者を押し込める。ピンチの場面、不利なカウントを迎えた状況で、『ストライクゾーンで勝負すればOK』と考えることができれば、精神的にグッと楽になると思ったんです」

 このオフは徹底的なウエイトトレーニングと摂取する栄養の見直しを行ない、約8キロの体重増加を果たした。「何かを変えなければ」という気持ちは強かったが、決してやみくもに取り組んだわけではなく、大学野球引退後のクラブチーム(ウイン北広島)時代に得た、ひとつの経験則も背景にあった。

「クラブチーム時代、チーム全体での練習が少なかった分、自主的にウエイトトレーニングに取り組んでいたんです。その時は知識も乏(とぼ)しく、決して効率的とはいえないやり方でしたが、ピッチングに好影響があった。正しい方法で計画的に取り組めば、間違いなくプラスになると思いました」

 トレーニングと並行して、母校の図書館に通い、投球や身体の構造に関する書物を中心に読み進めた。インプットを繰り返すだけでなく、自身のSNS等でアウトプットも行ない、知識の増強を図った。学生時代の勉強で身につけた姿勢も駆使しながら、貪欲に成長のヒントを求めていった。

「効率的、理想的といわれる体の使い方や投球フォームの共通点を見つけようと考えました。理に適(かな)ったフォームに作り替えるというよりも、共通点を知った上で、そこから”はみ出す”。そこから生まれる個性が、NPBに行くためには必要だと」

「ボールの出どころが見づらい」といわれるフォームが特長の三木田だが、同時に上体の前傾が深くなり過ぎるという悪癖があった。そこを完全に修正するのではなく、球威向上のために必要な前傾角度と、リリースが見えづらいという”個性”が共存する落としどころを探す。そのためにも知識が必要だった。

「今回のオフだけでなく、シーズンが始まってからもですが、『身体を休めても、頭は休めない』ことが必要だと思っています。トレーニングもしない完全な休息日に、漫然と過ごしてしまったら前進できない。必要な休息は取りつつも、野球に関する本を読んだり、動画を見たり、何かしら知識を得るようにしたいです」

 今シーズンは昨年以上に、「チームの結果」にこだわりたいとも話す。

「1年目はチームが勝っても、自分の結果が悪かったり、登板できなかったときは落ち込んだり……。言ってみれば自分のことしか考えていなかった。勝ちに貢献できるような結果を自分自身が出すことはもちろん、チームとして優勝したいです。

 それに加えて、11年続いていた香川からのドラフト指名が昨年途切れてしまった。これは僕たち選手が重く受け止めなければならないと思っています。チームとして独立リーグ日本一になる。そこに繋がる結果を出して、個人としてはNPBに行く。その両方にこだわっていきたいです」

 強い決意の裏には、今シーズン使用するグラブに込められた”約束”の存在がある。紺色のグラブの親指には自身の名前ではなく、「MASAYA」と刺繍が施されている。昨シーズン、香川で投手コーチを務めた江村将也(現・東京ヤクルト打撃投手兼広報)から譲り受けたものだ。

「去年、江村コーチに『グラブほしいです』とお願いしたら、『リーグ最多登板を達成したらあげるよ』と言ってもらっていて」

 昨シーズンの登板数は33。チーム最多登板を記録したが、リーグトップの39には届かず。交わした約束を果たすことはできなかったが、江村はグラブを手渡した。かけられた言葉は多くなかったが、三木田はあるメッセージを感じ取ったという。

「昨年、本当に親身になって指導をしていただいたのに、自分は結果で応えることができませんでした。それでも、グラブを手渡してくれたのは『今年こそ頑張れよ』というメッセージかなと……。去年約束した登板数に限らず、ひとつでも多くの項目でリーグ1位を獲る、四国で一番になってNPBに行く。それが一番の恩返しになると思っています」

 四国に来て2年目、今年25歳を迎える。「2年以内にNPBに行く」と挑戦前に決めていたように、結果に関わらず今シーズンを最後にすると決めている。

「去年結果が出ないなかでも、西田(真二)監督は使い続けてくださいました。その経験を今年生かすことができなければ……という気持ちが強いです。年齢的なこともありますし、長く続けるほど指名は難しくなるとも思うので……」

 独立リーガーの生活は恵まれたものではない。昨年は生活を切り詰めるなかで、体重の減少にも悩まされた。

「日々節約するなかで、重要な栄養面までも切り詰めてしまった。今年も支出を抑えるべきところは抑えていきますが、食事や身体のメンテナンスまで切り詰めないように。『今年が最後』と決めた以上は、そういったところで後悔を残さないようにしたい」

 こうした心掛けが功を奏し、現在は冬場に増量した体重が減ることもなく、順調に進んでいる。

「こういう取材、久しぶりなんですよ」と語ったように、賑やかだった昨年とは異なり、今年の周囲は落ち着いている。しかしながら、「楽しみでもある」と三木田は言う。

「去年は野球以外の部分で取り上げてもらってばかりでした。ある意味、今年は”フラット”に見てもらえると思っています。今年こそ結果を出して、野球の実力で評価されるように頑張りたい」

 インテリ左腕ではなく、”独立リーガー・三木田龍元”として。目指す場所は一寸たりともぶれることはない。不退転の覚悟で臨むラストシーズンを、全力で駆け抜ける準備はできている。

関連記事

webスポルティーバの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索