東海大のエース、關颯人と館澤亨次が語る「1500mからの箱根駅伝」

東海大のエース、關颯人と館澤亨次が語る「1500mからの箱根駅伝」

◆東海大・駅伝戦記  第25回

 4月、兵庫リレーカーニバル。

 神戸のユニバー記念競技場で行なわれる大会にエントリーされた選手は、1500mに關颯人(せき・はやと/3年)、館澤亨次(3年)、木村理来(りく/3年)。3000mSCには三上嵩斗(しゅうと/4年)、1万mには鬼塚翔太(3年)の計5名だった。チームの主力選手である關、館澤、鬼塚は2月、3月とアメリカでトレーニングを積んできた後、この大会が帰国後、初レースとなる。昨年も同時期、アメリカで生活しながらトレーニングを行ない、いろいろな刺激を受け、自身のレベルアップにつなげてきた。

 今回の2カ月間のトレーニングも、実り多きものになったはずだ。このレースでどんな走りを見せてくれるのか、非常に注目していた。

 1500mのエントリーは、学生と実業団の選手が半々程度。關たち学生以外にも荒井七海(ななみ/ホンダ)、國行麗生(くにゆき れお/大塚製薬)の2人の東海大OBも参戦していた。

 レースがスタートした。

 1周目、木村がレースを引っ張る。「積極的にいく」との言葉どおり、いつもの動きだ。そのまま2、3周続き、館澤と關は中間に位置している。ラスト1周、館澤と關、小林航央(こおう/筑波大・4年)がスピードを上げていく。3コーナーで館澤が先頭に立ったが、直後の4コーナーから直線に入るところで小林がグっと前に出た。館澤は必死にスパートをかけるが小林に届かず、それに続いて關がフィニッシュした。

1位:小林航央:3分46秒96
2位:館澤亨次:3分47秒06
3位:關颯人 :3分47秒09

 フィニッシュした後、館澤はガッカリした表情で、掲示板を見つめていた。

「いやー、情けない」

 館澤は悔しげに呟いた。

「昨年の日本選手権以降、まともに勝てていなくて、今日は勝ちにこだわるレースをしようと思っていたんですが、一番得意なラストスパートで負けてしまって……。情けないし、悔しいですね」

 レース展開はイメージした通りだった。500mぐらいでいい位置に出て、ラスト300mで前に出て、残り200mでスパートをかける。誤算だったのは、残り300mの地点で、余力がほとんど残っておらず、ラストスパートがいっぱいいっぱいになってしまったことだ。

「中途半端なレースでした。このままじゃダメですね。なんか昨年の日本選手権に勝ってからプレッシャーなのかわからないですけど、1500mを走る前、怖くなるというか、負けちゃいけないという気持ちが強くて……。海外だと気持ち的にラクに走れるんですけど、日本では負けちゃいけないって思ってしまうんです。全日本インカレで負けているから、もう王者でもないんですけど、変に考えてしまって。

 練習もしっくりこない日がずっと続いていて、それを打破するために今日は優勝したいなって思ったんですけど、それができなかった。負けられない関東インカレ、そして、日本選手権までに心の弱さをどうにかしないと」

 館澤は、憔悴した表情でそう言った。

 昨年、館澤は1500mで関東インカレ、個人学生選手権、日本選手権の3冠を達成。全日本インカレは6位に終わり、惜しくも4冠達成は逃したが、堂々たる成績を残した。

 だが、その3度の勝利が館澤の心に自信と不安を生み落とした。それまで挑戦者で追いかける立場だった者がいざ勝者となり、追いかけられる立場になると、途端に精神的な弱さを露呈してしまうケースがよくある。相手のことが気になり、自分のことに集中できなくなり、その地位を守ろうとすることばかり考えてしまう。真の勝者は負けることなど考えないが、そうでない者は自分が負けてしまうのではないかと恐怖を感じてしまう。

 館澤はいま、その恐怖と闘っている。

 しかし、それは勝者になったからこそ感じるもの。それを打ち破ることができたら、もうワンランク上の選手に成長することができる。現状打破のために、すでにフォームの改善などにトライしている。

「全体的な走りもそうなんですけど、ラストの切り替えのところですね。簡単にいうと自分はストライドを伸ばしてスパートをかけるイメージでいるんですが、海外の選手はピッチを上げてスピードを上げている。それにトライしているんですが、どうもしっくりこなくて……。自分のモノにできていないこともあるんですが、思い切って新しいやり方でいくのか、それとも今のままのフォームで戦っていくのか。自分の中でしっかりと答えを出してレースに集中していかないといけないですね。日本選手権までには覚悟を持ってやっていきたいです」

 館澤は厳しい表情で、そう言った。

 悩みを抱える館澤だが、両角速(もろずみ・はやし)監督は、それほど心配はしていない。

「館澤は今日負けた悔しさがあると思うけど、レースは勝ったり負けたりするもの。今は課題を意識してやっているし、結果は出てないですけど、私は悲観していないです。腹を括(くく)れば、一気によくなると思いますよ」

 長年の指導の経験からだろう。館澤のように苦しむ選手はたくさん見てきている。そういう余裕が話しぶりからうかがえる。

 はたして、館澤は今後、どんな決断を下すのだろうか。

「1500mについては、館澤も關も優勝争いに絡んだのでまずまずですね」

 両角監督は、レースについてそう言った。

*     *     *

 關はレース後、サブトラックでクールダウンを行なっていた。他の選手と話しながらインフィールドの芝でゆっくりとジョグしていた。待機場所に戻る間、高校生たちが求めるサインや写真に対応する。待機所に戻り、足にアイシングをして一息ついた。

 關は今回、1500mにエントリーしていた。本来は5000mが主である。

「アメリカで練習をやってきて、1500mのスピードが足りないなって思ったんです。最終的に5000mのために、というのはありますけど、しっかり1500mを日本で戦える力がないと、5000mでも世界で戦えない。1500mはひとつの種目としても、これからしっかり取り組んでいこうと思っています」

 關も2月、3月の2カ月間、アメリカのオレゴンでトレーニングを積んできた。

 昨年の春、夏に続き、アメリカでのトレーニングは3回目になる。だいぶ環境にも慣れ、リラックスして練習できたようだが、いつも驚かされるのがアメリカの勉強の厳しさだという。レース会場の待ち時間でも、現地の学生選手たちは教科書を開いていた。成績が悪いと練習や試合に参加できないペナルティが課されるので、彼らは必死で勉強しているのだ。その姿に「勉強あってのスポーツ」という学生の本分を改めて理解したと苦笑する。

 東海大では両角監督が選手の成績表をチェックし、成績が落ちた選手には指導をしている。「学業がおろそかになる選手は競技力も落ちる」という監督の考えからなのだが、日本ではスポーツ奨学生はどうしてもスポーツ中心になってしまう。

「あと、現地ではアメリカの大学に通って競技をしている打越(雄允/ゆうすけ)さんに会ったんですが、僕は高校の時、海外に行くという考えがなかった。そこに自分から行く、そのチャレンジ精神がすごいなって思いました」

 打越は国学院久我山高校時代、優秀なランナーで多くの駅伝強豪校から勧誘があった選手である。だが、アメリカへの留学を選択し、浪人生活を経て現在、ボイシ州立大学に通い、学業と競技を両立させている。そういう生き方もあるのだと刺激を受けた。

 關は「アメリカでは特別な練習はしていなかった」と言うが、箱根以来となるフォームを見ると、お尻周辺に筋肉がつき、全体的にも引き締まった感がある。ウエイトにしっかりと取り組んできた様子が見て取れる。

「日本ではデッドリフト(背筋や下半身後面を鍛える筋トレ)や上半身のウエイトが多かったんですけど、アメリカでは尻回りのトレーニングが多かったですね。海外の選手の走りを見ていると、ラストスパートでもフォームをブラさずにきれいなフォームのまま、ピッチを上げていくんです。それができるのはお尻を含めた下半身が安定しているから。自分も最後までブレない走りというか、効率のいい走りを目指しているので参考になりました」

 そのトレーニングの成果が、この日の走りにも出ていた。

 もともと1500mは昨年8月に東海大記録のベスト(現在は館澤の3分41秒82がベスト)を出したようにスピードには自信を持っているが、この日のラストスパートでのスピードの伸びは昨年よりも上がっていた感がある。

「昨年の日本選手権はラストスパートで動かせなくて……。スピードがついても体を動かせないと意味がないんですよ。でも、今日もそうですが、ラストスパートで動かせるようになってきたのは、昨年のアメリカからこの1年での成長かなと思っています」

 持ち味のスピードがさらに磨かれると駅伝シーズンでは大きな武器になるだろう。昨年の出雲ではアンカーとして力強い走りを見せ、優勝に貢献した。出雲、全日本は距離が短いゆえに東海大の強み、關の持ち味がフルに活かされることになるが、1区間が20kmを超える箱根はまったく別の勝負になる。実際、昨年の箱根で選手たちは力を発揮できず、スピードはあるが長距離には活かせていないと厳しい評価を受けた。

 それでも、ひとつ光明があった。

 昨年8区を走り、区間2位の結果を出した館澤は1500mで結果を出してきた選手。彼はスピードを強さに変え、20kmでも十分に”走れる”ことを証明したのだ。

「20kmという距離をマイナスに捉えてしまうと、1500mに影響が出てしまう。本音を言えば、1500mや5000mに特化したいという気持ちがあります。でも、箱根があるから僕たちの(今の練習)環境がある。たくさん支援してもらって、『箱根は走りません』というわけにはいかないですし、支援があるから東海大で陸上やれていると思うんです。もどかしさはあるけど、箱根は避けて通れない。箱根を走るからマイナスになるとか考えず、自分の中で箱根も自分の競技力にしっかり結びつけていきたいなと思います」

 關には、勝負すべき将来がハッキリと見えている。

 5000mで日本のトップになり、世界に挑戦する。卒業後の進路はまだ決めていないが、「自分はどうすれば、強くなるのか」ということを考えて決断していくという。

「まずはトラックシーズン、日本選手権の5000mで3位以内に入り、ジャカルタでのアジア競技大会に出場する。上半期はそこを目標に勝負したいと思います」

 館澤とは対照的に、關は今後に向けて明るい表情を見せた。

 木村は1500mを3分58秒20に終わり、三上は3000mSCで8分47秒56の4位。神奈川大の荻野太成(3年)に敗れ、両角監督は「学年が下の荻野には勝ってほしかったな」と物足りなさを口にした。鬼塚は10000mに出場したが、3000mぐらいから足の裏の皮がめくれ、血だらけになって走り、29分22秒44で完走した。すぐに医務室で治療を受けたが、「大丈夫です」と小さな笑みを見せた。

 彼ら主力選手たちは、これから関東インカレに集中する。

 チームとしての目標は関東インカレ、全日本インカレ、出雲駅伝、全日本駅伝、箱根駅駅伝制覇の「長距離5冠」だ。

 その目標達成に向けて関東インカレで、まずは1冠を目指す。

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