ジュビロ・名波浩監督の告白。「サッカー人生で初めて悔し涙を流した」

ジュビロ磐田・名波浩監督インタビュー(1)

 J1に復帰して2年目となった昨シーズン、ジュビロ磐田は前年の13位(年間順位)から6位へと躍進した。迎えた今季、チームを率いる名波浩監督は「トップ5」を目標に掲げてスタートを切った。

 ロシアW杯による中断前の成績は、6勝3分6敗の勝ち点21。順位は8位という状況にある。例年にも増して混戦模様のなか、目標は十分に射程圏内にあるが、指揮官はここまでの戦いをどう見ているのだろうか――。


ジュビロ磐田を率いて5年目の名波浩監督

――ロシアW杯による中断期間に入るまでにJ1は第15節まで終えています(※セレッソ大阪vs鹿島アントラーズの第14節のみ、未消化)。今季ここまでの成績について、率直な感想を聞かせてください。また、ここまでの戦いぶりを振り返って、どんな印象をお持ちですか。

「まずは、アダイウトンとムサエフのふたりがケガで長期離脱してしまったことは、チームにとってかなり痛かった。加えて、チームは開幕から公式戦3連敗(※ルヴァンカップ1試合を含む)。しかも、(その3試合で)得点がゼロという状況からスタートしたことを考えると、今の順位、成績については、よくやっているほうかな、と思います。

 これは、リーグ中断前に選手にも言ったんですが、『一歩とはいえずとも、チームとしては、半歩は前に進んでいる』。ケガ人が多いなかで、出場機会をつかんだ若い選手たちが少しずつ自信を得て、巡ってきたチャンスを生かしてくれた。

 選手たちの成功体験を増やしていきたいという思いで常に指導しているなかで、その成功体験を積み重ねていると感じられる選手が、個々にたくさん出てきた。それが、大学や高校を卒業してウチに加入した選手や、ユースから昇格した選手など、いわゆる”自前の選手”が多いので、余計にうれしいですよね。クラブの進み方や歩みとしても、理想に近づいている感覚がある」

――主力であるムサエフやアダイウトンらの長期離脱には、名波監督も当初のプランを変更せざるを得なかったと思います。それを踏まえると、五分の勝率はまずまずといえますね。

「ただ、これはキャプテンの大井健太郎には話をしたんだけど、自分としては『あと勝ち点5は獲れた』と思っている。選手たちからしてみれば、ケガ人が続出したなかで、ある程度仕方がないという部分もあるかもしれない。でも、自分としては、受け入れ難いジャッジによって勝ち点2を失った(第11節の)セレッソ戦(1−1)と、その他の負けた試合のどれかで、もう勝ち点3(1勝)は獲れていたと思っている。この5ポイント(を獲れたであろう試合)に目を向けなければならないですし、こだわっていきたい」

――話を開幕前に戻させていただきたいのですが、今季に向けてのキャンプでは、どういった点に力を入れてきたのでしょうか。

「MF田口泰士(名古屋グランパス→)をはじめ、新加入の選手が何人かいたので、まずはもう一度、戦術を浸透させること。今季も、3バックと4バックを併用して戦うつもりでいたので、選手たちにはあらためてシステムに関する説明をしました。

 そのうえで、自分は一人称、二人称と表現しているんだけど、まずはその一人称、二人称といった少人数でのトレーニングから入って、設定した狭いグリッドの中でハードな練習をやりながら、徐々に(グリッド内の)人数を増やしていって、グリッドも広げていく感じで(トレーニングを)やっていった。

 そして、試合形式の練習では、自分もその中に入りながら、『こう動こう』という守備の構築をあらためて行なってきた。そうしたことを行なうことによって、新加入の選手にはチームでの動きをレクチャーすることができるし、既存の選手たちには昨季までの動きを思い起こさせることができる。

 そのなかで新しいことといえば、2トップを試みたことですかね。それと、トップ下を置くような形もトライした。

 ただこれは、既存の選手からしてみれば、自然の流れだったはず。ユースまでウチにいたFW中野誠也が筑波大から加入して、FW小川航基がケガから復帰してきた状況において、そうしたシステムに変わっていくだろうということは、ある程度、予想できていたと思う。もちろん、キャンプでそこにトライした大前提として、アダイウトンと川又堅碁の2トップという考えがあったからですけどね」

――名波監督がチームを率いて5年目。既存の選手たちには戦術もかなり浸透していると思いますが、新加入の選手はイチから覚えることになります。どのようにレクチャーし、アプローチしてきたのでしょうか。

「今季の新加入選手、たとえば泰士とDF新里亮(ヴァンフォーレ甲府→)のふたりは、これまで異なるサッカーをやってきていて、それが身体に染みついている。昨季加入したムサエフや(中村)俊輔もそうだったけど、フィットするまでにはある程度時間がかかるもの。だから、そこは腹をくくっていたところがあった。それでも、今名前を挙げた新加入のふたりは、(ジュビロの戦術に)馴染むのが早かった印象がある。

 そもそも、試合の記録を振り返ってもらえばわかるけど、泰士と新里のふたりは開幕戦に先発していない。特に泰士には、『おまえの開幕戦はみんなよりも遅くなる。自分自身の開幕戦までは時間があるから、その時間をマイナスに捉えるのではなく、プラスに考えてほしい』と言っていた。『開幕に向けてメンバーが見えてくるなかで、”チームがこういうサッカーをやるんだ”ということを感じる余力が、おまえにはもう1週間あるんだぞ』と。

 本人もそこで考えたのか、俊輔をはじめ、川又らに『どうしたらやりやすいか』といったことを相談し、会話の”パス交換”をたくさんしているのを、自分も見ていた。それで、開幕戦で後半途中から起用したら、抜群によくて驚きました(笑)。

 加えて、泰士にはこんな話もした。『おまえは日本代表に入りたいだろ。日の丸をつけて強い国と戦いたいだろ』と。『だったら、国際試合を意識したプレーをイメージしろ』と。その先には、もしかしたらヨーロッパのクラブでプレーしたいという思いもあるかもしれないけど、その点に関しては、今も言い続けている。

 新里に関しては、正直なところ、当初は10試合ぐらい終えた辺りから起用するイメージを持っていた。でも、3月7日のルヴァンカップ第1節、清水エスパルス戦で3バックの一角として起用してみたら、これがまた抜群によくて。コーチ陣とも相談して『リーグ戦で起用してみよう』という話になった。

 3バックの中央には大井がいるので、出場させるならば(3バックの)右か、左か、になる。自分は、選手に対して固定観念を持たないので、まずは(レギュラーの高橋)祥平に左右どちらがプレーしやすいか聞いてみた。そうしたら、『どちらでも大丈夫』だと言うので、新里は最初、右で起用しようと思ったんですけど、(左サイドバックの)ギレルメとのコーチングの問題で、新里を左に置いたほうがしっくりきたので、最終的に左で出場させました」

――さて、序盤は監督もおっしゃっていたように連敗スタートとなりましたが、そうしたなかで、チームの仕上がりに関しての手応えはつかんでいたのでしょうか。

「開幕戦の川崎フロンターレ戦は0−3で敗れましたが、後半の内容は悪くなかった。第2節のグランパス戦も(相手に)パスをつながせなかったし、相手を間延びさせることができていた。ルヴァンカップのエスパルス戦も、相手が守備的な戦いを挑んできたこともあって、こちらがかなり押し込んでいた。ただただ、結果だけがついてこなかった。

 これが、先ほど触れた”成功体験”という話につながっていて、ひとつ勝てば、選手たちは自信を取り戻すだろうと踏んでいた。実際、選手たちも最初は昨季の戦い方を思い起こそうとしながらプレーしていたと思うけど、勝つことで、そうした動きも自然と整理されていった。そして、若手がその成功したグループの中に、『自分も入りたい』と思うような流れを作ることができた」

――チームがいい流れをつかんだ試合、ターニングポイントとなるゲームなどはありましたか。

「実は……セレッソ戦の試合後、不覚にも選手たちの前で号泣してしまって……。あの試合は前半、被シュートをゼロに抑えることができていたんですね。そうした展開で迎えた後半、不可解な判定でPKを取られて1−1の引き分け。それが本当に悔しくて、試合後のロッカールームで『一生懸命やっているやつらが報われないのはかわいそうだ』と、選手たちを前にして思わず泣いてしまった。

 2015年にJ1昇格を決める2週間前に父親が亡くなって、昇格が決まった試合で堪え切れずに泣いてしまったことがあったけど、純粋に試合の結果に対して涙を流したのは初めてのことだった。

 小学生からサッカーを始めて、これまで悔しいことなんて何回も経験してきた。それこそ選手時代には何度も、試合終了間際に失点したこともあれば、タイトルを獲り逃したこともあるけれど、一度も悔し涙なんて流したことはなかった。

 試合で泣いたことなんて、日本が初めてW杯出場を決めたジョホールバル以来。あとは、自分の現役引退セレモニーのときに、暗転したスタジアムの中からゴンちゃん(中山雅史)が出てきてくれたときだけかもしれない。

 今振り返ってみても、あのセレッソ戦は、それだけ自分にとっても悔しかったということ。試合後の選手のコメントで、『あそこまで監督が悔しがるのは初めて見た』と言ってくれていたのを見たけど、その思いが次の横浜F・マリノス戦での快勝(3−1)につながったのかもしれない。

 この場を借りて、あらためて審判に伝えられるのであれば、それぐらい自分たちは真剣に戦っているということ。あの試合では、選手たちにも自分たちが懸けているものの大きさを感じてもらいたかった」

(つづく)

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