セレソンは甘やかされていた。チッチ監督は続投も、ネイマールは正念場

セレソンは甘やかされていた。チッチ監督は続投も、ネイマールは正念場

 いま、ブラジルで流行っているジョークがある。

「ブラジルがW杯で優勝できなかったのは日本のせいだ! 日本がベルギーを止めてくれなかったからさ」

 もちろん、ブラジルが負けたのは日本のせいなどでないことは承知している。ブラジルが負けたのは、ただ、ふがいなかったせいだ。だが、サッカーはブラジル人にとって人生そのもの。その失敗は死に等しい。笑い話にでもしないと、やっていられないのだ。優勝すると信じていたチームは、他のチームの単なるひきたて役にすぎなかった。

 ネイマールは世界中でからかわれ、パウリーニョはさっさと中国行きを決め、ガブリエル・ジェズスは1974年以来の、W杯で1ゴールも挙げられなかったCFとして、歴史に不名誉な名を残すことになった。

 セレソンがブラジルに帰国した際、リオの空港で彼らを出迎えたサポーターはたった56人。彼らを許すことができたのはそれだけだった。数日前、カザンの空港に8000人が詰めかけ、試合には1万6000人のサポーターがはるばるやってきたのが、まるで嘘のようだ。

 それにしても、ブラジルにいったい何が起こったのか?

 今大会、誰もがブラジルを優勝候補の最右翼にあげていた。チッチ監督のもと、ドゥンガ時代の旧弊は一掃され、この1年はほぼ負け知らず。チーム内の空気も和やかで、仲がよく陽気。ブラジルは生まれ変わった、またあの強いブラジルに戻ったのだと、みんなが信じ込んでいた。サポーターも、マスコミも、協会も、監督も、そして選手たち自身も……。 

 しかし、グループリーグ初戦から、ブラジルの調子はよくなかった。スイス戦のプレーは最低で、どうにか引き分けに持ち込み、コスタリカとセルビアにはギリギリの勝利。決勝トーナメントに駒を進めることはできたが、ブラジルが強いチームでないことは明らかだった。

 そんな成り行きに一番ショックを受けたのは、選手たちだった。これまで「すばらしいチームだ」「絶対に勝てる」とさんざん周囲からおだてあげられ、自分たちは強いと信じ込んでいたのに、結果はそれを裏付けてはくれない。選手たちはパニックに陥り、焦りとプレッシャーから、次第に感情をコントロールできなくなっていった。

 それを象徴しているのが、コスタリカ戦の後のネイマールだ。どうにか勝利を手にすると、ネイマールはピッチに膝をつき、世界が注視するなかで、まるで子供のように泣いていた。

 決勝トーナメント1回戦のメキシコ戦では少しマシになったが、本当の強いチーム、強い選手とのガチンコ勝負になった途端、つまりベルギーと当たった途端、ブラジルは負けてしまった。

 ブラジルに足りなかったもの。それは現実を見据える力だったのではないか。

 この1年間無敗だったこと、なにより前回ブラジルW杯で大敗(1−7)したドイツに、親善試合とはいえ勝利(1−0)したことは、ブラジルに過信をもたらしてしまった。まさかドイツが、これほど弱体化していたとは思ってもいなかったのだ。

 真の強豪だった時代にはとうてい及ばないのに、蝶よ花よと持ち上げられ、自分たちが世界で一番強いと思い込んでしまった選手たちは、ライバルも決してサッカーを知らない素人ではないことを忘れてしまった。ネイマールという名前なら、絶対にファンタスティックなプレーができるはずだと信じ込んでいた。

 もちろん、まるっきり実力がなかったわけではない。ブラジルが腹をくくってからは、いいプレーも見せていた。ただ、すべての試合の立ち上がり20分は、どれも最低だった。自分たちは強いという驕った気持ちを捨てきれなかったからだ。強いはずなのに思うようにプレーできない。そこで混乱し、パニックになる。感情的になる。後半は多少改善されるが、次の試合ではまた一からやり直し……。

 チッチ監督の采配も問題だった。

 チッチはどんなに悪いプレーをしても、その選手に注意しなかった。スイス戦の後、変える必要があると周囲が騒いでも、決してスタメンは変えない。彼はガブリエル・ジェズスにこう言って使い続ける。

「君は天才だ。大丈夫、きっと次の試合では活躍できる」

 彼の狙いはこうだったのだろう。調子が悪くてもガブリエル・ジェズスを使い続ければ、彼はきっとそのメッセージを理解し、奮闘してくれる。反対にフィルミーノをベンチに置き続ければ、それだけプレーへの強い気持ちが生まれ、いざというときに大きな力となる――。

 代表メンバーの選考にしてもそうだ。チッチは、新しい選手を発掘するよりも、起用してきた選手を使い続けることを望んだ。新たな選手と新たな関係を築くより、すでに気心の知れた選手を使うほうがやりやすいのは当たり前だ。

 しかし、それはクラブチームの監督のロジックだろう。ここぞという試合で、最大の力を発揮する選手を選び出す。それが代表監督の仕事だ。

 そして彼は、いくら調子が悪くてもネイマールを下げる勇気がなかった。テレビ局やスポンサーが彼を使うことを望んでいるのを知っていたからだ。

 チームに本物のリーダーがいなかったことも、マイナスに働いた。ブラジルにはピッチの中の精神的主柱、責任を負う者がいなかった。ブラジルは今回のW杯で、キャプテンの交代制をとっていた。つまり全試合、キャプテンが違った。みんながキャプテンとなり、みんなで責任を負うシステムは、論理としては美しい。しかしチームが混乱したとき、それを収拾できる者はやはり必要だった。

 また、これは何も今大会に始まったことではないが、どの選手もブラジルとの縁が希薄である。今回の代表選手のほとんどは若くしてブラジルを去っている。ネイマールは19歳、コウチーニョは18歳で外国に行ってしまった。ブラジルで生まれたが、選手として成長したのはブラジルではないのだ。

 ブラジル人にしても、選手が国外のチームでプレーしているから、愛着が薄い。フィルミーノのプレーを、多くの人はナマで見たことはない。「カゼミーロって誰?」「フェリペ・ルイス?」「アリソン? 知らないな」……。セレソンはサポーターと愛国心に支えられたメンタルの強さも持てなかった。

 さて、起こってしまったことを嘆いてばかりいても仕方ない。大切なのはこれからのセレソンのあり方だ。

 私としてはあまり承服できないが、チッチはこのまま監督として残るだろう。彼も続投に意欲的だ。しかし次回のW杯では、多くの選手の名前が変わることになるだろう。その際には、ぜひブラジル国内でプレーする選手を多く起用してほしい。国内にも優秀な若手はたくさんいる。そして「我々はブラジルだ」という誇りはいったん捨て、最初からチームをつくり直してほしい。

 9月にはアメリカとの親善試合があり、1年後には自国開催のコパアメリカがある。そこでは今回とは違ったセレソンが見られることを期待している。

 コパアメリカはネイマールにとって正念場となるだろう。もしそこで今回のような失敗を繰り返せば、ロマーリオ、ロナウド、カカといったブラジルのレジェンドの系譜に、その名前を連ねることは永遠にできないだろう。


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