イニエスタが超一流である「証」は、ボールを持っていないときに見える

イニエスタが超一流である「証」は、ボールを持っていないときに見える

◆福田正博 フォーメーション進化論

 W杯で中断していたJリーグが再開した。最大の注目はやはりヴィッセル神戸に加入したアンドレス・イニエスタだ。

 7月22日の湘南ベルマーレ戦に途中交代で出場し、Jリーグデビュー。続く第18節の柏レイソル戦では初先発を果たして82分までプレーした。

 イニエスタのプレーを目の当たりにして感じたのは、「判断が正確で速い」ということ。高度なテクニックに目を奪われがちだが、うまいだけの選手は世界中にごまんといる。彼がバルセロナやスペイン代表で輝きを放ち続けてきたのは、技術力だけではなく、「圧倒的な判断能力の高さ」があるからということを見逃さないでもらいたい。

 イニエスタがすばやく、かつ正しい判断ができるのは、ボールをもらう前に頻繁に首を振って味方選手と敵選手の位置をチェックし、多くの情報を収集しているからだ。

 スタジアムで観戦する時は、ボールを持っていない時のイニエスタの体の向きを注意深く観察してもらいたい。体の向きが悪いと視野を確保できなくなるため、イニエスタはこまめに体の向きを変えている。ボールのないところでの準備にこそ、彼が超一流である秘密があるのだ。

 そうやってプレーの選択肢をたくさん持ったなかで、イニエスタがボールを受けたときに最初に選択するのが、『縦パスを入れる』ことだ。これはサガン鳥栖に加入したフェルナンド・トーレスにも共通するが、彼らは得点するためには、縦パスを入れなければチャンスが生まれないことを知っている。

 だが、Jリーグでは、こうした『縦パスを入れる』プレーが実は少ない。

 Jリーグでは、相手陣内での横パスやバックパスが圧倒的に多く、これは、選手が「チャレンジする」よりも、「ボールを失わない」ことを優先してしまうからだろう。

 日本では、ポゼッションサッカーというのは、パスをしながらただひたすらボールを保持することと勘違いしている人もいるのではないか。何のためにボールを保持するのかを考えたとき、本来、得点を奪って勝つためのポゼッションなのだが、Jリーグでは「ボールを保持すること」それ自体が目的になってしまっているケースが見られる。

 つまり、欧州のトップと比べると、Jリーグはボールを失うことを恐れて横や後ろにばかりパスをする傾向が見られる。

 パスを回す目的は、相手の守備ブロックを左右に揺さぶり、DFの間にギャップが生まれた瞬間、そこを縦パスやドリブルで突くことにある。だからこそ、イニエスタのプレーの根底には常に『縦パスを入れる』ことがあり、そのことを理解して彼のプレーを見ると、世界のトップと日本の差をあらためて実感できるはずだ。

 ただし、イニエスタひとりでは、チームはなかなか変貌しないもの。イニエスタがどんなに正しい判断でプレーしても、味方がそのレベルになければ、宝の持ち腐れになってしまう。

 ルーカス・ポドルスキが故障から復帰してくれば状況は少し変わってくるはずだが、そうした判断力と技術力を持つ選手が増えれば、神戸でのイニエスタはもっとクオリティの高いプレーを披露してくれるはずだ。

 私が個人的に見たい組み合わせは、川崎フロンターレの大島僚太とイニエスタのコンビだ。W杯ロシア大会では出番がなかった悔しさを晴らすかのように、大島はJリーグで好調を維持している。川崎のサポーターには怒られてしまうと思うが、大島がイニエスタとプレーしながら、その高次元のエッセンスを吸収して、どう進化するのか見てみたいと、つい思ってしまう。

 大島に限らず、FC東京の久保建英のような若手が、イニエスタと一緒にプレーして成長していけば、それは神戸のサッカーが魅力的になるだけではなく、日本サッカー全体の発展にもつながっていく。イニエスタの年俸32億円に比べれば、彼らの移籍金の金額は大きくない。それだけに、神戸の三浦淳寛スポーツダイレクターには、本気で大島の獲得を考えてもらいたい。

 また、もうひとりの注目のJリーグ新加入選手、鳥栖のフェルナンド・トーレスは、降格圏争いの真っ只中にいるチームの起爆剤になれるか注目の存在だ。ただし、チーム状況を考えるとフラストレーションを溜めこんでしまう可能性もある。

 鳥栖は中断期間中にFWヴィクトル・イバルボが全治7カ月のケガをしたこともあって、豊田陽平をKリーグの蔚山現代から呼び戻し、金崎夢生を鹿島アントラーズから獲得した。ただ、このFW偏重の補強にはやや疑問が残る。

 トーレスを生かすなら、パスを供給できる中盤の選手も補強すべきだった。マッシモ・フィッカデンティ監督のスタイルである堅守速攻で、トーレス、金崎、豊田が生きるパスを出せる選手が増えないと、宝の持ち腐れになってしまう。

 その鳥栖と降格圏を争う名古屋グランパスとガンバ大阪は、中断期間中の残留に向けたそれぞれの対応に差があった。

 今シーズンの名古屋は開幕から2連勝した後は黒星が続き、2勝3分10敗で勝ち点9の最下位で前半戦を終えた。風間八宏監督の体制を刷新する選択肢もあったと思うが、「風間サッカー」を根付かせるのは時間がかかり、選手のクオリティが必要。そのことをクラブが理解を示し、全面的なサポートに乗り出した。

 最大の課題だったDF陣には、CBに中谷進之介(前・柏レイソル)、丸山祐市(前・FC東京)を獲得し、左SBに金井貢史(前・横浜F・マリノス)、ボランチにエドゥアルド・ネット(前・川崎)を獲得。前線に前田直輝(前・松本山雅FC)を加えた。

 スタメンのうち5人の入れ替えがあれば、ほぼ別のチームだ。懸案の失点は減ってはいないが、攻撃力で圧倒する風間サッカーらしさは取り戻しつつある。

 後半戦の初戦、名古屋は首位サンフレッチェ広島と引き分けて勝ち点1を手にすると、その後は2連勝。新戦力の前田がFWジョーとのコンビネーションを確立し、得点チャンスを生み出している。ここにケガで離脱中のエドゥアルド・ネットが戻ってきて、中盤が安定してくれば、名古屋は大きく巻き返すのではないか。

 その名古屋とは対照的に、ガンバ大阪は後手を踏んだ感が否めない。レビー・クルピ監督を成績不振で解任し、宮本恒靖新監督が就任したが、その発表は7月23日のことだった。JリーグがW杯で中断期間に入ったのは、5月19日。その後もJリーグカップや天皇杯などがあったとはいえ、もっと早く決断して、新体制でのトレーニングに時間を割くこともできた。

 結局、宮本監督にとって準備期間があまりないなかでの就任になったが、現役時代同様、クレバーに、そして堅実に守備を再構築しながらチームを立て直すのではないか。ここから終盤戦まで、残留を狙えるチームをつくってくるはずだ。

 残留争いは、鳥栖、G大阪、名古屋の下位3チームにばかり目が行くが、この異常な暑さのなか、第22節から24節にかけては過密日程が控えているだけに、混戦になる可能性は高い。

 下位3チームのうち、鳥栖にはトーレスや金崎、G大坂にはファン・ウィジョ、名古屋にはジョーという明確な得点源となるストライカーがいるため、彼らが得点を積み重ね続けてくると、中位にいるチームもセーフティリードとはいえない。

 例年、残留のボーダーラインは勝ち点35前後。最下位の名古屋は現在(8/5時点)の勝ち点は16。17位のG大阪が17。11位の湘南やベガルタ仙台との勝ち点差は10で、3連勝と3連敗でその差は1にまで縮まる。それが現実のものになって不思議はないほど、チーム力に差はない。イニエスタとトーレスのプレーとともに、どのチームがこの猛暑の夏の熱戦を制するのか。毎試合目が離せない。

(津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro) 


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