松田丈志の予感。「池江璃花子の進化は国際大会で加速する」

松田丈志の予感。「池江璃花子の進化は国際大会で加速する」

 4年に1度のオリンピック、その中間年に当たる今シーズン、競泳はパンパシフィック水泳選手権が開催され、選手たちはその後すぐアジア大会に出場する。「トビウオジャパン」にとって熱い戦いがいよいよ始まる。

◆かつてない異例の2連戦

 パンパシフィック水泳選手権は本日9日からスタートだ。いつもと違うのはアジア大会との日程が近いこと。例年なら、パンパシフィック水泳選手権からアジア大会まで1ヶ月程度間が空いていたが、今年は中6日でアジア大会が始まる。このことについて平井伯昌監督に話を聞くと、

「パンパシの4日間(8月9日〜12日)とアジア大会の6日間(水泳は8月19日〜24日)を通して、10日間の大会だと考えている。東京五輪も決勝は午前中に行われることが決まり、競泳の大会期間は9日間になる見込みで、そのシミュレーションにもなる」と話していた。

 パンパシとアジア大会が連戦になることについては、選手それぞれの考え方があるだろうが、五輪で戦うことを考えれば、長い期間戦い続けるタフさは当然必要だし、私も選手にとっていいシミュレーションになると思っている。

 さらに、連戦になったことによって、選手はピークを合わせるのが1回でいい。今の競泳日本代表選手に調子のピークを合わせるのがヘタな選手は基本的にいない。よく「ピークを合わせるのって大変じゃないですか?」と聞かれることがあるが、じつは、選手が自分のことを理解していればいるほど、ピークを合わせるのはそう難しくはない。レベルの高い選手ほどピークを合わせるのがうまい。

 むしろ、それができない選手は、日本代表にもなれない。というのが今の競泳日本代表のレベルだと思う(突発的なケガ等のアクシデントがなければだが)。ということは、選手にとって今夏はピークを合わせる大会が2つ続くことでピークの山を作るのが1回で済むし、今の競泳日本代表の選手たちなら当然いい調子で大会に挑めるはずだ。

 大会の間隔が空けば、その分コンディションを維持しなければならない時間は長くなる。それは仮にパンパシにピークを合わせられなかった場合、もう一度コンディションを作り直す猶予があるとも考えられるが、ピークを作るのがうまい選手ほど、もう一度ピークを作るのは負担にもなるはずだ。

 一つの調子のピークのなかで、2大会国際大会が続くことで私がポジティブに捉えているのは、同じ種目のレースをすることでレース毎にテーマを持って、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)を繰り返していけることだと思う。

 1大会で同じ種目を何度も泳ぐことはリレー種目に出ることを除けば基本的にないが、今回2大会続くことで、同じ種目を何度も泳ぐことができる。この夏の国際大会に向けて少なくとも1年かけてコンディションを作ってきた選手たちにとって、折角ピークのコンディションを作ったのに、たった1大会で終わるのは勿体無い。

 6月にヨーロッパグランプリが行われた。この大会は3大会連戦で行われるのだが、この3連戦の最後の大会で、池江璃花子と小関也朱篤が日本記録を更新した。これこそが連戦するメリットで、二人はレースを重ねていくなかで、感覚が研ぎ澄まされ、改善するべきポイントも見えてきて、記録更新に繋がったのだろう。

 同じコンディション(状態)でレースに入っても、パフォーマンス(結果)は変わる。選手は緊張などからときに、ちょっとしたミスをしてしまうこともある。多少の力み等で泳ぎが固くなったり、ペース配分が遅すぎたり、速すぎたり、スタート、ターンでミスしたりだ。

 そんなちょっとしたミスがあったとしても、今年は2大会続くのだから、もう一度修正するチャンスもあるはずだ。折角作り上げた今のコンディションだ。連戦を活かし、その中で、自分の最大限のパフォーマンスを引き出すレースを模索して欲しい。

◆パンパシが東京で開催される利点

 今回のパンパシフィック水泳選手権は東京開催だ。2020年東京五輪が控える中、同じ時期に東京で国際大会が開催されるのも良いシミュレーションだ。これは海外の選手にとっても同様だと思う。私も2002年にパンパシフィック横浜大会で自国開催の国際大会を経験したが、こんなに盛り上がるのか、と驚いた。その経験があるからこそ、東京でのオリンピック開催は想像しただけで、出場のチャンスがある人たちが羨ましいとさえ思う。

 競泳代表の中で最年長になった、経験豊富な入江陵介でさえも、自国開催の国際大会(オリンピック、世界選手権、アジア大会、パンパシフィック水泳選手権)は経験していない。今の競泳日本代表が自国開催の国際大会を今年経験できるのは大きなメリットだ。きっとみんな2年後に新プールで行われる五輪で活躍する自分の姿を想像することだろう。その実感を伴ったモチベーションほど強烈なものはない。

◆アジア大会は「国際総合競技大会」

 アジア大会は競泳だけでなく、様々な競技が行われる国際総合競技大会だ。派遣するのもパンパシフィック水泳選手権は日本水泳連盟だが、アジア大会はJOC派遣となる。この違いは、じつは大きくて、JOC派遣となる国際大会はそう多くなく、ということは経験できる回数も限られている。五輪も当然JOC派遣だ。

 ではその水連派遣の大会とJOC派遣の大会とで何が違うのかと言えば、全競技共通の公式ユニフォームがあって、結団式もあり、連盟派遣では無いさまざまな行事が追加される。移動や式典などでいろいろな競技の選手が一緒に過ごす。さらに最も大きな違いは、大会期間中は選手村が設けられるので、そこでも他競技の選手を含めた、チームジャパンとしての生活が待っている。競泳陣としては、パンパシで得られた修正点をいかに改善し、国際総合競技大会という枠組みの中でいかに力を出し切り、戦うかがポイントとなりそうだ。

 そういった環境下で自分の力を発揮できるかどうかは、特にその経験が少ない若手選手にとってはとても重要な経験となる。アジア大会は年齢制限のない国際総合競技大会としては東京五輪前最後の大会となる。競泳の枠を超えた、チームジャパンとしての戦いに期待したい。

◆リアルタイムで応援できる

 パンパシフィック水泳選手権とアジア大会の共通の楽しみとしては、共にゴールデンタイムにテレビ放映されることだ。私も解説として関わらせてもらうが、競泳の魅力を広く伝える絶好のチャンスだ。ぜひ現役選手には競泳ファンを惹きつける、さらにはファンを増やせるような活躍を期待したいし、私もその活躍を伝えられたらと考えている。

 パンパシに話を戻そう。まず期待したいのは池江璃花子だ。今年に入って日本新記録を連発している。今シーズンの好調さは広く知られているだろう。だが彼女には一つ乗り越えなければならない壁がある。それは国際大会で池江自身が納得する泳ぎをすることだ。それが自己記録更新なのか、メダル獲得なのか、彼女にしかわからないが、現状彼女の実感として、「自分はまだ国際大会で結果を出せていない」という思いがある。

 だがその壁は、さっそく今日行われる200m自由形であっさり超えてしまうのではないかと、期待している。池江は200m自由形で1分55秒04という今シーズン世界ランキング5位のタイムを持っている。国内大会での実績は十分な彼女が国際大会で一つ壁を越えれば、国内大会のように破竹の勢いで成長が加速する予感がする。

 入江陵介の復活にも期待したい。リオ五輪後からアメリカに拠点を移し2年目。本人も「アメリカでトレーニングする方が息がつまらない」と言うように、フレッシュな気持ちでのびのびと水泳とむき合っている。その取り組みが充実しているのは彼の身体つきを見れば分かる。身体が一回り大きくなり、苦手だったスタート、ターンも改善してきている。アメリカの選手たちと混ざってトレーニングする中で自然とパワーが付き、課題改善に結び付いている。

 今日行われる男子400m個人メドレーは、いきなり最注目の種目だ。日本の萩野公介、瀬戸大也、それにアメリカのチェイス・カリシュの三つ巴の戦いが予想される。彼らはみな世界チャンピオンだ。世界最高峰の戦いを見逃さないで欲しい。

 パンパシフィック水泳選手権とヨーロッパ水泳選手権とを比較しながら仮想世界選手権を楽しむこともオススメしたい。今日から始まるパンパシとアジア大会を含めた10日間の競泳日本代表の活躍に注目だ。

著者:松田丈志●文 text by Matsuda Takeshi


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